石﨑冬貴氏は「飲食業界専門」を標榜する弁護士である。その石﨑氏が2019年12月、東京・新丸子に焼肉店「ホルモンマニア新丸子総本店」(以下、ホルマニ)をオープンした。場所は東急東横線新丸子駅の東口から徒歩5分、商店街を抜けて幹線道路をまたいだところ。物件はワンルームマンションの2階、17坪24席でアットホームな雰囲気を醸し出している。

そこでまず、石﨑氏が弁護士として「飲食業界専門」を標榜することになったのかを紹介し、自ら飲食店を経営して弁護士としてどのようなことを発信しようとしているのかということを紹介したい。

「ホルモンマニア新丸子総本店」を経営する弁護士の石﨑冬貴氏

石﨑氏は1984年生まれ、弁護士登録をしたのは2011年のこと。弁護士活動を行っていく上で担当する分野として「企業法務」を志し、特に中小企業の多い業界に絞ろうと考えた。このような視点でさまざまな業界を調べていくと飲食業を担当する弁護士が著しく少ないことが分かった。飲食業界は石﨑氏にとってご縁がある。祖父が浅草で「米屋」を営んでいて飲食店の人々と交流があり、石﨑氏自身も学生時代に焼肉店でアルバイトをしていた。このような環境から飲食業のハートフルな世界をリスペクトしていた。

飲食業界における法務の重要性を訴える活動を実践

こうして2013年ごろから「飲食業専門」の弁護士として活動を特化してくのだが、石﨑氏のことを社会に大きく知らしめたことは、2018年3月にドタキャン被害にあった飲食店の民事裁判に同店の弁護士としてのぞみ、開廷1分間で勝訴したこと。これがニュースとなってから、ドタキャン被害を受けた飲食店から多数相談を受けるようになり、2018年6月に「ドタキャン回収代行サービス」を開始した。

さらに、2019年9月に一般社団法人「フードビジネスロイヤーズ協会」(FBLA)を立ち上げ、志を共にする全国の弁護士と共に、飲食店、外食産業、食品製造業など、飲食に関わる全てのビジネスを法的に支援する活動も行っている。

石﨑氏は、飲食業界こそ法務が必要であることを力説する。
「私の感覚では、飲食業は法律と非常に大きく隔たっています。例えば、ITにしろ、建設業にしろ、中小企業はもちろん個人のノマドワーカーでも弁護士を付けている時代ですが、特に個店の飲食店で弁護士を付けているところはほとんどないのでは。それは『弁護士が飲食店に何ができるか』ということをきちんと訴えてこなかったわれわれ側にも問題があったと思います」
「飲食店の経営者にとって、弁護士に相談するという事態は何か大きな問題が起きたという感覚かもしれませんが、弁護士を顧問として飲食店法務の環境を整えることによって、店の労働環境と共に生産性は高まります」

石﨑氏はこのように、飲食業界と弁護士がなかなかコミュニケーションを取れてこなかったことを述べる。そこで自身の弁護士としてミッションは、この距離を縮めることであることを実感している。そして飲食業を担当する弁護士のメンバーを増やすために、前述のFBLAを立ち上げた。こうして弁護士側からセールスポイントを発信する機会を増やすようにしていくことを実践している。

自分で飲食店を経営することで飲食業界との距離を縮める

そのアピールの舞台を自分自身でどうつくるかと考えている過程で、「飲食店を経営することが手っ取り早い」と考えるようになった。「飲食店を営むわれわれ弁護士は、飲食店を営むみなさんの仲間なのです」――これを実践することによって、飲食業と弁護士との距離を縮める自分自身のミッションを達成する近道だと考えた。

いざ、飲食店を営業するに際して、事業承継のような形で、今ある会社ないし店を譲受して取り組もうと考えた。しなしながら、想定通りに都合のいい案件と巡り合うことはなく、また、億単位の事業となれば、弁護士をやりながら対応できるものではない。「飲食業を始めることは難しい」と、悶々としていた。

ほぼ居抜きの状態で店舗をオープン。地元のお客さまも定着してきた

そのような日々を過ごしている中で、去年の8月に現在の店の物件を紹介された。以前、焼肉店を営んでいて、ダクトもコールドテーブルもついている。造作はほぼ無償で、実際に店をオープンするまでの物件取得費を含めた投資額は500万円程度で収まった。

また、焼肉店の経営者と知己を得て今回のパートナーとなっていただいた。その人は食肉市場でも働いていた肉の目利きで、肉を調達するルートも持っている。焼肉店の従業員の教育もできる。
こうして物件も人材を整える体制もそろった。この機を千載一遇のチャンスととらえて開業することを決断した。

業種を焼肉店にしたのは、「比較的に立地を選ばない」「食材を冷凍することができるのでロスが少ない」「調理人件費は少なくて済む」といったセオリーからだ。最も困難な「肉のルートを持つこと」については、パートナーによってクリアできた。学生時代に焼肉店でアルバイトをしていたこともあり、飲食店を営業する立場としては焼肉店に思い入れを最も込めることができた。

セルフサービスの要素を増やし客単価を抑える

「ホルモンマニア新丸子総本店」は、よく考えられた業態となった。まず、店名が戦略的である。「ホルモンマニア」の短縮形である「ホルマニ」という言葉をデザインしたロゴも作成しブランディングが考慮されている。また、商標登録を行うこができた。「総本店」と名付けていることから、このロゴを含めて多店化することも考えられる。

肉はカウンターのショーケースに入っていてセルフで取りに行く

大通りを挟んだ同店の向かい側にも焼肉店があり、また新丸子駅から同店まで徒歩5分の道に数件が存在する。焼肉店を開業することを決めた時に、「良いものを安く食べられる」という実質的な店を求める客層をターゲットにしたが、このような商圏の状況を捉えて、赤身肉に加えてホルモンをアピールするようにした。差別化するために鍋などの韓国料理もそろえている。
業態としてのスタイルはセルフサービスの要素が多い。肉は部位別に1皿全て300円、だいたい2、3切れほどのポーション。お客さまがカウンターにある冷蔵ケースに入れられた肉を取りにいき、その出数の状況を見ながらキッチンで肉をカットしていく。ご飯は無料で、お客さまがセルフで装う。ナムルなどを注文するとそれを具材にしてセルフで鍋をつくる。
ドリンクはセルフサービスでボトル以外は全て300円、生ビールはオートサーバーが行い、サワー、ハイボールなどは缶の商品をリーチインクーラーに入れている。これらで客単価3000~3500円となっている。原価率は30%で原価が100円になることから、販促に「1皿無料」という特典も活かしていきたいとしている。

facebookで飲食業「コロナ禍」へのアドバイスを発信

石﨑氏が飲食店を開業したのは、前述の通り「飲食業と弁護士との距離を縮める」というミッションによるものだ。
その通りに、石﨑氏は機敏に動いている。これは主にfacebookで展開している。

まず、4月4日に「飲食店を経営する飲食専門弁護士が、今、自分でやっていること(やろうとしていること)リスト」を掲載した。それはこうだ(以下、一部省略。全文は「石﨑冬貴」のfacebookを参照)。

① 融資
飲食店経営者の中には無借金経営にこだわる方がいますが、とにかく借りられるだけ借りましょう。日本政策金融公庫なら3年無利息ですから、使わなければ返せばいいのです。

② 雇用調整基
店を一時的に休業することで、スタッフの給料がなくなる、または、減る場合、中途半端に開けるくらいであれば、いっそ閉めて助成金をもらった方がいいです(助成金制度の説明あり)。

③ 賃料削減
大家さんも非常事態だと分かっていますから、遠慮せず頼んでみましょう。水道や電気などあらゆるコストを削減できないか、今のうちにやっておきます。

④ 販促
デリバリーは昨対で120から130%くらい行くそうです。単品ではなくコースそのものの出前を始めたお店もあります。

⑤ 情報発信
三ツ星シェフの米田肇さんが、飲食店倒産防止対策を求める署名をchange.orgで開始して、今10万人くらい署名しています。

――自分の店は継続営業していく意思を示し、カバー写真を「ホルマニ」店内で撮影したものに変更した。

さらに、これらの項目の内容を4月10日にアップデートしている。

① 融資
一気に金融機関が混雑し始めました。何の不備なくストレートに進んでも、実行まで1カ月以上かかるようです。専門家の肩書は大きいので、顧問弁護士に取り次いでもらうなど手伝ってもらいましょう。

② 各種補助金・助成金
(さまざまな助成金の支給や融資が長時間かかっている状況を述べて)毎日、情報収集に努めてください。融資や補助金は、早いものから処理されます。

③ 賃料免額
最近では「3カ月に限って半額」「1カ月に限って免除」とかなり思い切った内容でも通っているようです。思い切ってオファーしてみましょう。

【飲食店の家賃交渉】飲食店経営者の皆様がどんな家賃交渉をしているのか聞いてみた(緊急事態宣言対策)


商業施設も、ある程度は柔軟に対応し始めたようです。

④ 販促
(1) デリバリー
Uber以外の新興勢力も出てきているようです。情報収集に努めてください。
(2) テイクアウト
(飲食店が6カ月限定で酒類を販売できるようになった等の情報を前置きして)詐欺(頼むだけ頼んで取りに来ない)も流行っているようですので、多額の場合は、本人確認など気を付けてください。
(3) チケット制
以下のような新規サービスも利用してみましょう。https://lp.mirai-ticket.jp/

⑤ 情報発信
飲食は地域密着ですので、私は自治体(市町村、東京特別区など)にアクションをかけています。。

上記の具体的な手続きなどは、下記や官庁などのHPを参照してください。

新型コロナウイルス(COVID-19)で影響を受けた飲食店のための補助金・助成金・サポート制度リスト


https://www.inshokuten.com/foodist/article/5721/
https://legaltec.jp/summary-of-subsidies-and-subsidies-for…/

そして、石﨑氏は「飲食店経営で困ったら遠慮なく連絡をください。私からつなぎます」と結んでいる。これらの趣旨で問い合わせをしたい時に、石﨑氏にメッセンジャーを送ってみてはいかがだろうか。

このように、「飲食業専門」の弁護士を標榜する石﨑氏や、活動を俊敏に実行している。飲食業界の人々は石﨑氏および石﨑氏の志に賛同する人々の動向を注目して交流をしてみたい。

*facebookの石﨑氏のメッセージはここで紹介したものより長く、詳細に記されています。

 

店舗情報

店舗名 ホルモンマニア新丸子総本店
エリア 新丸子
URL ggr6200.gorp.jp

運営企業情報

URL ggr6200.gorp.jp

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