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  3. テクノロジーを活用し、熱狂的なファンを培う

外食経営マスコミで構成される外食産業記者会によって毎年「外食アワード」が選考されている。これは当該の1年間を振り返り「外食産業の発展と外食文化の醸成に寄与した」と認められた人物を表彰するというものだ。今年の1月に行われた「外食アワード2019」は第16回となるが、ここで(株)クリスプ、代表取締役社長兼CEOの宮野浩史氏が選出された。

 

「表彰理由」にはこうある(一部省略)。

――カスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」をヒットさせ、多店舗化に成功。この過程でオペレーション上の課題を解決するために、モバイル事前注文アプリ「クリスプAPP」やキャッシュレスのセルフレジを独自に開発、導入。注文時のストレス解消を考慮したアプリにより、客単価増、回転率アップを実現したことに加え、従業員の生産性向上にも貢献。効率化できた時間を従業員が本来の価値ある仕事である、顧客とのコミュニケーションに振り向けられるようにした。――

株式会社クリスプホールディングス、代表取締役の宮野浩史氏

 

フードサービスの世界にはテクノロジーが浸透してきているが、その本来の意義がこの「表彰理由」に語られている。それは、「生産性向上」と「顧客とのコミュニケーション」である。宮野氏の取り組みがこのような方向性に定まった過程を述べておこう。

 

繁盛過ぎて失った「人間性」を取り戻すもの

宮野氏は1981年12月生まれ。15歳でアメリカに渡り、サンフランシスコのベイエリアでホームスティをしてハイスクール生活を過ごした。卒業後は、ビジネスパートナーと天津甘栗の販売を手掛けた。これが大層よく売れてロサンゼルスで多店化し、サンディエゴ、シカゴ、ニューヨークにも進出した。しかしながら、2001年9・11のテロに遭遇、さらにビジネスパートナーが亡くなったこともあり帰国することに。帰国後は成長途上のコーヒーショップチェーンに入社し5年間勤務。テックスメックスの店舗で起業し4年間で5店舗を展開したが、その店を手放すことになった。そして、2014年に(株)クリスプを創業し、今日に至っている。

 

創業の店、麻布十番店がオープンしたのは2014年12月。開業前に掲げた経営理念は「熱狂的なファンをつくる」ということだ。「自分たちが信じるものを手を抜かず、働く仲間に、お客さまに、お店に、そして愛情をもって本気で向き合うことが飲食にとって一番大事なことで、忘れてはいけない本質だと思っている」と宮野氏は述べるが、その信念がもたらしたかのように創業の店は想定の5倍を売り上げた。しかしながら、この繁盛ぶりは「本来の飲食店の姿ではない」を感じるようになった。それは、忙しいとサラダをつくることだけに一生懸命になる、クオリティも下がる、お客さまもイライラする……というよくない循環であった。

 

「例えば、夜中にスーツ姿のお客さまが来店したら『まだ、仕事だったんですか? 夜遅くまで大変ですねぇ、今日も一日お疲れさまでした!』というちょっとしたことだけど、そんな一言こそがお店の価値であり競争優位性であり、注文や購買に必要ない無駄な会話や行為こそが飲食店にしかできない価値を生み出す源泉のはず」

 

このように宮野氏は考えるようになり、「機械でできることは全部機械に任せて、人間は人間だけが価値を生み出せるような人らしい行為に時間を使えるようにしよう」と判断した。

その結論は「利益はとにかくテクノロジーに投資して、既存の飲食の在り方を全部再定義しよう」ということになった。2016年の当時である。

創業の店、麻布十番店は工房的な雰囲気がある

こうして、2017年にテクノロジーを開発する(株)カチリを設立し、同年7月にモバイルオーダーアプリ「クリスプ APP」をリリースした。当時、「CRISP SALAD WORKS」は4店舗であった。

 

実店舗の他に新しい事業分野を開拓

これをきっかけに同社は事業として新しい分野を開拓していく。

まず、SaaS事業である「PLATFORM」。2019年6月から「クリスプ APP」などの開発・運用ノウハウを元に、飲食店向けのモバイルオーダーソリューション「PLATFORM」の提供を開始した。

次に、「CRISP BASE」。これは注文チャネルの多様化である。提携企業のバーチャル店舗をモバイルオーダーアプリ内に作成し、企業の従業員がアプリから自分の好みにカスタマイズしたクリスプのサラダをランチの1時間前までに注文することで、配送無料でオフィスに届けるサービスである。2019年の春にスタートして、今後は「CRISP DELIVERY」へと発展させていく予定だ。

 

このような分野の開拓を進めるのはなぜか。宮野氏はこう語る。

「これからおいしいものは誰でもつくれる。利便性ではコンビニに勝てない。……このような来るべき時代に、生の顧客データを持っていて、かつそのデータを使って自分たちで検証・改善ができる現場を持っている企業が強い」

こうして同社では、「CRISP SALAD WORKS」の実店舗とアプリ「PLATFORM」、「CRISP BASE」という事業基盤を持つに至った。

 

さて、クリスプではこの2月に三菱商事より約5億円の資金調達を実施した。

これを具体的に述べると、「CRISP SALAD WORKS」「R PIZZA」を展開する(株)クリスプと、モバイルオーダー運用ソリューション「PLATFORM」を開発する(株)カチリを、新設された(株)クリスプホールディングス(以下、クリスプ)の完全子会社として、三菱商事よりクリスプに18.4%の出資を受けた形である。

これによって同社では、①テクノロジー基盤「PLATFORM」の強化を通じた店舗の顧客体験・パートナー体験の向上、②デリバリー事業の本格展開、③「クリスプブランド」の強化――を掲げている。

店内でのオーダーはタブレットにタッチして行う

 

コミュニティをつくり医療従事者支援活動を展開

同社では、3月25日より「CRISP SALAD WORKS」全14店で新型コロナウイルスと闘う全ての医療従事者と病院勤務者へのサラダ無償提供を開始し、6日間で2296食の利用があった。大いなる社会貢献である。しかしながら、これらの人々の中には、注文をしても忙しくてピックアップできないという人が多く、新型コロナウイルス感染拡大を受けてより緊張感が増す中で、医療現場に直接届けてもらえないかと打診されることが多くなったという。

 

このような同社の活動をサポートしたいという声も増えて、新型コロナウイルスと闘う医療従事者・病院勤務者を支援するためのプロジェクト「CRISP CONNECT」を設立した。ここより、サポーターの支援や寄付を受けながら、コミュニティメンバーと一緒に東京都および神奈川県東部における前線の医療現場にサラダを無償提供・配達を行った。

「CRISP CONNECT」のクラウドファンディングでは、750円の寄付で最前線の医療従事者に1食のサラダが届けられるというものだ。「CRISP CONNECT」サイトからも直接寄付を受け付けている寄付金はサラダ無償提供するために100%利用される。

 

同社では4月9日から「CRISP SALAD WORKS」をはじめとした全15店舗を新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から臨時休業していた。この間には多くの顧客からの応援があり、医療従事者支援活動の「CRISP CONECT」を通じて、累計1万食以上のサラダを前線の医療現場に無償提供してきた。これについて同社のリリースでは「この活動を通じて、改めてお客さま・地域社会とのつながりや助け合いの精神の重要性を痛切に感じると同時に、ご支援をいただいた全ての方に心より感謝申し上げます」と述べている。

 

コンタクトレスのサービスで逐次営業を開始

この度、政府からの緊急事態宣言が5月末まで延長という発表を受けて、同社では感染防止の観点から引き続き休業する店舗がある他、5月10日より一部の店舗で、「クリスプ APP」からの事前注文による「MOBILE GRAB-AND-GO」営業を開始した。これは、「注文」(アプリから事前に注文、予約した時間まで待つ)→「来店」(店内に入らず店頭でピックアップ)→「商品受取」(会計は済んでいるのでコンタクトレス)という流れになる。再開する店舗では、店内客席の利用は終日中止として、モバイルオーダーアプリを通じたコンタクトレス注文・決済でのテイクアウトに限定した提供となる。営業時間は12時~20時となって(5月18日現在)。

カスタマイズしたオーダー、決済、受取時間などすべてが可能な「クリスプAPP」を2017年7月に開発した

 

このように、コロナ禍を迎えてからの同社の行動は俊敏である。その根底にあるのは、創業時に掲げた「熱狂的なファンをつくる」という想いに他ならない。

そして、同社が進めるテクノロジーは人間的なつながりをより強くしていく。宮野氏は同社のビジョンを踏まえて「日本の外食はのびしろしかない」と語るが、それは従来のフードサービスの常識を超えた世界を実践しつつあるからこその発言であろう。

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