本質的な強さが新事業に活かされる

米山氏は、コロナ禍によって「飲食店の在り方が変わってきた」という。その端的な動向は、飲食業のほとんどが一斉に「テイクアウト」「デリバリー」を手掛けるようになったことだ。そこでこれからの飲食業に問われることは「差別化とかスケールというものを強みとして掘り下げるのではなく、それとは別なところに本質的な強さがある」と米山氏は考える。その強さが「テイクアウト」「デリバリー」や、「EC」に活かされるという。

 

この指摘をAPの取組みで述べると、グループ会社である弁当事業の株式会社塚田農場プラスの業績が伸びてきていることが挙げられる。同社はAPの新規事情として2014年7月より手掛けた宅配弁当事業「おべんとラボ」を2015年7月1日に法人化したものだ。2020年3月期連結決算の売上高230億円のうち約20億円を占めている。米山氏は「これこそ、塚田農場が生販直結モデルでこつこつとやってきたことが弁当に活かされたことでできていること。ゼロイチで弁当事業を手掛けたところで、こんなには売れていない」と述べる。

弁当事業の成長が新事業の可能性を切り拓いた

 

この弁当事業の成長も含めて、多くのブランド、多くのチャネルを持っていることから、米山氏は「APファンマーケティング構想」を描いている。

それは、コロナ禍におけるプレスリリース・ニュース配信サービス『PR TIMES』での発信から見て取れる。これらの概要を時系列で紹介しよう。

「APファンマーケティング構想」の序章

・3月31日リリース:店舗休業/4月2日から、営業再開日は4月10日、15日、21日〈エリアで異なる〉

・4月9日リリース:食品を宅配/「Oisix」(食品宅配サービス)と共同で一般に販売、4月15日から

・4月11日リリース:営業再開日を延期/営業開始日を、4月10日、15日、21日からであったものを5月15日に延期

・4月13日リリース:通信販売開始/コロナ禍休業による余剰食材を販売する、一次産業支援のD2C(Direct to Consumer)事業を4月14日から本格始動

・4月23日リリース:おつまみの通信販売開始/「おうち塚田農場 家飲み便」、4月23日受注スタート

・4月27日リリース:海の味覚、日本酒を通信販売/鮮魚居酒屋「四十八漁場」で取り扱う予定だった食材を通販

・5月7日リリース:オンライン酒蔵見学ツアー/生産者のこだわりに耳とグラスを傾ける「オンライン焼酎蔵見学ツアー」を実施、5月7日から

APファンに向けて、焼酎のつくり手の想いをオンラインで伝えた

・5月13日リリース:トライアル営業実施/5月15日からの営業開始日を、6月1日からを目途に変更

・5月15日リリース:通信販売のお礼/通信販売によって、「地鶏を100店舗使用分の16%」を販売したことを報告

・5月20日リリース:医療従事者に弁当を無償提供/5000食を目標にクラウドファンディングを開始

・5月21日リリース:「家飲み便」を拡大/都心限定だったものを本州26都道府県に拡大、5月22日から

クラウドファンディングで資金を募り、医療従事者に弁当を無償で届けた

新事業に向けてホールディングス体制を計画

「APファンマーケティング構想」は、APのホールディングス化によって実現させようとしている。米山氏はこう語る。

 

「当社は、居酒屋からはじまった企業です。そのような会社が、アルコール以外での食の提供、ECとかを一事業として手掛けたとしても、それが専業になっている会社、しかもそれで大手になっている企業には勝てません。これからファストフード、中食、ECをやるとしたら、例えば、この事業にはIT系の資本を何十%出資してもらった方が展開が早いとか、われわれがやりたいという事業というよりも、さまざまなノウハウが持ったところと協調することによって、食産業全般においてさまざまなチャネルが開拓されていくのではないか」

 

「例えば、すしのデリバリーに取り組むとしましょう。われわれの強みは全国の漁師さんとつながっていること。それが、羽田のセンターに今朝獲れ便で鮮魚が集まってきて、一都三県の『四十八漁場』に届く。それを店ですしを握ってバイク便などを使えば、今朝どれの魚を握ったすしが自宅で食べられる。このようなインフラはわれわれが行うことではなく、それを得意としているところに出資をしていただいて、われわれの強みの地鶏や鮮魚を、どのように運ぶか、ということをつないでいくイメージ」

 

「このようなインフラが整って、リアル店舗に来ているお客さまに、宅配で野菜を届けます、コメを届けますと告知すると、より利用してもらえる確率が高くなる。それは、リアル店舗とはAPファンが集まる場所だから。APの『生販直結モデル』による高品質・中価格の価値を評価するお客さまが、リアル店舗以外でのAPの商品を求めてくれる」

ビジョンを力強く語る米山久氏

このような構想を実現するのが、「いろいろな血を入れて、さまざまな事業を成長させることができる」ホールディングス体制ということだ。米山氏はこう語る。

「今年の秋以降と言われている『コロナ第2波』に備えるためにも、僕をはじめ当社の幹部はAPファンマーケティング構想に向けてアクセルを踏んでいく」

「食のあるべき姿を創造する」というAPのミッションは、コロナ禍によって力強く動き出している。

新着記事

新着動画

物件を探す

カテゴリーメニュー

メインメニュー