東京・中目黒にいると外国人と日本人のカップルが多いことに気付く。日本人も身なりのセンスがいい。勝手な思い込みだが、ここに住んでいる人たちはライフスタイルの主張がはっきりとしているのではないか。だから、昭和を感じさせる居酒屋から、本場をしのぐようなナポリピッツァの店があるなど飲食店は多種多様に富んでいるのだろう。

 

筆者の知人がfacebookで「中目黒にヴィーガンのホットドック屋さんができた」ことを投稿していた。いかにもアメリカのファストカジュアルを感じさせる、ボリューミーでビジュアルなホットドッグの画像が展開されていた。中目黒の住民であればこのフードを歓迎するだろうと思って見ていた。

ボリューミーでビジュアルが存在感を放っている

 

その店「Bells」は中目黒駅から徒歩7~8分、東急東横線の沿線にあった。飲食店が集まるエリアからは少し離れているが、商品の特徴が明確であることから目的来店のお客さまが多いことだろう。路面店で8坪程度、カウンターとテーブルで16席を構えていて、店内の色調が濃いピンク色で統一されている。このインパクトは強烈で、店を立ち上げた人のセンスの良さが感じられる。

クールなアメリカの文化に憧れる

ヴィーガンとは絶対菜食主義と訳され、動物由来の食品を一切摂取しない主義の人だ。ベジタリアンの領域に含まれるが、これよりも厳密だ。ヴィーガンは欧米系に多いのだが、実は世界一のヴィーガンレストランは東京にある。ベジタリアンのサイト『HappyCow』の投稿で昨年11月に東京・自由が丘のレストランが獲得した。ヴィーガンについて日本ではまだ認知度が低いが、食の多様性に対応する素養は出来てきていると言えるだろう。

 

Bellsのオーナーは柿内勇樹氏、1982年10月生まれで東京出身。大学生の当時にアメリカに留学後、アメリカ生活と食文化に親しみ、帰国後はグローバルダイニングで働き、その後複数の飲食企業で勤務した。前職では執行役員を務めた。

パートナーは料理人の鈴江悟史氏、1987年3月生まれ、北海道・旭川の出身で、地元の調理師学校を卒業後、地元のホテルに就職。同ホテルの先輩が経営する東京のレストランに移り、その後の勤務先で柿内氏と出会った。

柿内勇樹氏(右)とパートナーの鈴江悟史氏

 

柿内氏は、幼少の頃から「アメリカ」に憧れていた。それは母親の影響が大であったという。母親はアメリカ人的な発想をする人であった。「あなたは勉強ができる、できないとか、またどんな国籍の人と結婚しようが、そんなことはどうでもいい。ただ人に優しい人であってほしい」というようなことを日常的に言われていたという。

映画も『グーニーズ』『スタンドバイミー』「バックトゥザフューチャー』等々、80年代のアメリカを彷彿とさせる映画を週一回必ず観にいった。日に日にアメリカへの憧れを強くしていった。

アメリカでは西海岸と東海岸の両方に滞在して、アメリカにおける文化の違いを感じ取った。西海岸は南国で過ごしているかのように生活のリズムが緩く流れて、東海岸は人々が放つエネルギーが熱かった。

日本に帰ってきてから、アメリカで目の当たりにした現象の一つ一つがとてもクールなものであることを思い起こすようになった。そして、アメリカの随所に存在する発信力をリスペクトするようになり、今でも年に数回はアメリカを訪ねてトレンドを吸収するように心掛けている。

 

オリジナリティのあるホットドッグは強い

柿内氏は、起業に際して「ヴィーガン」と「ホットドッグ」を選んだ理由をこう語る。

「僕は肉を食べますが、外国人の友人は肉を食べません。その理由は、宗教もあれば主義もあります。これが世界のスタンダードなのです。しかしながら、日本にはそれがまだ存在しません」

店頭のカウンターに商品の写真を並べてバラエティをアピール

「ずばりファストフードでヴィーガンを表現するのなら、ほとんどの人はホットドッグではなくハンバーガーだと想像すると思います。それはハンバーガーの方が日本人にとって圧倒的にポピュラーでありなじみ深いからです。ヴィーガンバーガー屋さんは聞いたことありますが、ヴィーガンホットドッグ屋さんは聞いたことはありません。だから、ホットドッグをオリジナルで出すということは、やったもの勝ちだな、と考えました」

 

Bellsのソーセージにはヴィーガンの他にチキンもある。それはハラールを想定したから。ハラールとはイスラム教徒の戒律で「許された」という意味のことだ。イスラム教徒の人口は増える傾向にあり、それらをターゲットにして近い将来に通信販売をしたいと考えている。店内のカウンターの上にはずらりと手作りのチキンソーセージをぶら下げて熟成させている。

ヴィーガンもチキンもソーセージは1本55ℊ。ホットドッグは、単品で490~840円。ランチタイムはプラス250円でサイドメニューとドリンク付きのセットで提供している。

カウンターの上にチキンのソーセージを並べて、熟成の状態を確認

 

ホットドッグの店の構想を描きながら起業の準備をしていた当時、あるホテルの飲食部門から出店してみないかと誘いがあった。そこで「ホットドッグの店」をプレゼンテーションしたところ、「それは面白い!」と採用された。

ここに出店することで、かかるコストは水道光熱費だけであった。本当にリスクが少なく営業することができる。パートナーの鈴江氏は自身の独立準備中であったが、そのようなことからこの構想に合流することになった。

 

ホテル内での営業であるから、それなりに少しの縛りがあったものの迷うことなくスタートした。まずは1カ月限定のポップアップであったが、実際に走り出したところある程度の売上があった。「であれば、他の場所でも十分に商売は成立するはずだ」と考えて、このホテル内での営業は自ら辞退した。

 

それから、自分たちで店を探すことになった。立地は「目黒区、渋谷区、港区」というイメージを描き、今年の1月中目黒にBellsをオープンした。

ヴィーガンが利用することでヴィーガンに広がる

柿内氏は、Bellsのストーリーをこのように語る。

「ニューヨークで生活をしていた少し癖の強い面白そうな男が日本に帰ってきて、ソーセージ職人として仕事をしていた。そこで最高に気の合う天才シェフと出会った。毎日豚のソーセージをつくっていたのだが、より多くの人にソーセージを食べてもらいたいと考えてチキンのソーセージを研究してお客さまに提供できるようになった」

「この二人にはさまざまな国のヴィーガンの友人がいて、みな口を揃えてこう言った。『お前ら、そんなに気合を入れてソーセージをつくっているのなら、俺たちのソーセージもつくってくれ』と。『なるほどな』と思ってヴィーガンソーセージをつくり出した」

 

このようなストーリーを鈴江氏と話し合って開発を進めたのだが、納得のいくヴィーガンソーセージをつくることがなかなかできない。「大手メーカーが、ヴィーガンソーセージに大きな需要があると感じていながら、実際に着手していないのは、この難しさに理由があるのでは」と柿内氏は語る。

 

ちなみに、Bellsのヴィーガンソーセージはソーセージの形状をした大豆料理である。企業秘密ということで明かしてもらえないが、「腸詰」にするとヴィーガンではなくなることから、腸に変わる技術を用いている。これをつくる上で最も難しいポイントは「粘度」であるという。鈴江氏は柿内氏が商品のイメージを伝えると、それを超える形にしてくれるということで、その料理技術を高く評価している。

 

ヴィーガンソーセージはアメリカが先進国であるが、アメリカの製品の中には日本に輸出できない成分が入っている。日本の大手メーカーの事情は前述したとおり。現状、Bellsのヴィーガンソーセージの大量製造は非常に常に難しい。現在店舗販売のみであるが土産用の真空パック仕様のホットドッグセットを販売している。今後は通販での全国展開を視野に入れ販路を開拓していきたいと考えている。

国籍を問わず、さまざまな人々が目的来店している

筆者は、リサーチと取材で同店を3回訪ねたが、その中で、2年前にヴィーガンフェスティバルで知り合ったヴィーガンのイギリス人女性と再会した。筆者がそれを喜んでいると、柿内氏はその女性から「ヴィーガンの消費者が望んでいること」を教えてもらっているという。このような出会いによって、「中目黒のヴィーガンホットドッグ屋さん」は広く知れ渡るようになり、存在感を増していくことであろう。

店舗情報

店舗名 Bells
エリア 中目黒
URL bells_nakameguro

運営企業情報

URL bells_nakameguro

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