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  3. 「レストランはコンテンツビジネス」という大いなる野望

筆者は三十数年間外食分野の記者をしているものだが、これまで取材で衝撃を受けた人物は数多いる。それらの多くは、大繁盛店を生み出し、外食の在り方に新しい気づきをもたらした。彼らの話は実に心を躍らせてくれたものであった。ここで紹介する田中健彦氏もその一人である。

 

メディア嫌いのステルスの彼は、10代で渡仏し、帰国後23歳でバブル期前後空間プロデュースやコンサルで起業し、出来たてのアマンリゾートのゼッカ氏や、建築家ケリーヒル氏に衝撃を受け、ビジネスとデザインの融合に目覚めた。

 

飲食事業参入は、本業と別に最初に手掛けたのは1994年、東京・四谷に「上海ヌードル」というモダンチャイニーズレストラン。オープンし、たちまち話題となった。フランス料理と広東料理が融合した料理で、「海老のマヨネーズ炒め」「シンガポールカレービーフン」など数々のヒット商品があったが、中でも店名と同じ「上海ヌードル」はビスク(フランス料理の甲殻類をベースにした濃厚なスープ)風のラーメンで、ワタリガニが1杯丸ごとのっていて、食味的にもビジュアル的にもとても刺激的であった。クレームブリュレをアレンジして「魔法のプリン」という名称で提供していたが、どれも斬新だった。

 

1998年には、既にラーメン激戦地となっていた池袋びっくりガードの東側に同業態を出店、その1階にはラーメン店「光麺」をオープンした。同店の特徴は、ラーメンもさることながらロゴを始めとして店舗デザインが洗練されていたことだ。これは当時新進気鋭のデザイナーで、後に「ザ・ペニンシュラ東京」や「コンラッド大阪」を手掛けた橋本夕紀夫氏によるものである。

このように、1990年代半ば以降、東京の外食に新風を吹き込んだ人物が田中健彦氏(当時、マリフィック代表)である。当時、田中氏に取材を申し込むと快く応じてくれて、そして外食の常識にはない先見的なアイデアを披露してくれた。

 

高客単価路線を取ることになったきっかけ

この度、この『e店舗media』の取材で田中氏に取材する機会を得た。ほぼ20年ぶりである。今尚、複数のビジネスを展開する田中氏だが、今回は株式会社M.I.Tの代表という立場での取材をさせて頂いた。同社の業容をざっくりと述べると、高級な焼鳥店、すし店、和食店を約20店舗展開している。この路線は2010年以降に展開してきたことだが、たちまち「予約が取れない」「ミシュランの星を獲得」という具合に、人気を博すクオリティの高い店となっていった。

M.I.Tでは、レベルの高い料理人を多数擁している

さて、取材がはじまり、かつてと同じような「田中健彦ワールド」が展開した。

田中氏の一貫した主張は「レストランは飲食業ではなくコンテンツビジネスだ」ということ。レストランがコンテンツ化することによる膨大な可能性について熱く語り続けた。

 

今日のM.I.Tの路線がはじまったきっかけはこうだ。

田中氏はかつてアパレルの事業も営んでいて、イタリアからデザイナーと一緒に日本に戻ったある日、食事をした焼鳥店で優れた焼き師と出会った。

その焼き師は「今日で店を辞めるんですよ」という。その人の仕事ぶりに引かれた田中氏はすかさず、「だったら僕たちと一緒に焼鳥店をやろうよ」と持ち掛けた。

そこで誕生したのが「看板のない店」という意表をつきながら、店内には「静謐な空気感」があり、「予約が取れない」焼鳥店として知られるようになった「中目黒いぐち本店」である。2012年のことだ。主人である井口勝広氏の名前をつけた同シリーズは客単価1万円強で、現在9店舗展開している。

「中目黒 いぐち 本店」では、焼き鳥をピンチョスのようにして提供するスタイルをつくった

高いクオリティを追求することで職場環境を整える

そして、2013年5月「鮨 早川」、2015年11月「御料理 宮坂」ミシュラン二ツ星獲得、2016年1月「鮨 ニシツグ」と客単価2万5000円から2万8000円のすし店、4万円に近い日本料理店を展開する。これらの主人である、早川輝氏、宮坂展央氏、西胤秀樹氏とは前職の店で出会い、また紹介されたことがきっかけとなり、田中氏が店づくりの構想を伝えて共感したことからそれぞれの店が誕生している。人脈をつくることに秀でていると拝察するが、田中氏は「自分が常に高いクオリティを求めていると、そこに人が集まってくる」という。

 

さらに、客単価1万円を超える「鳥かど」「鳥おか」「鳥さき」という焼鳥店のシリーズがある。これは東京・目黒にあるミシュラン一ツ星の焼鳥店「鳥しき」の主人で「火入れの天才」として知られた池川義輝氏と田中氏に交流があることから、同店とパートナーシップを取りながら、M.I.T が2017年1月にオープンした「鳥かど」を皮切りに同類の店を展開している。

 

田中氏がM.I.Tで高級店の展開を続けているのは、高いクオリティを追求することに加えて、法令順守や労働環境を向上することに報いるためでもある。

 

田中氏は、「上海ヌードル」や「光麺」が話題となった20年前の飲食業界の環境と対比して、今日、そしてこれからの「レストラン」のあるべき姿について語ってくれた。

「例えば、かつての飲食店では、1日12時間労働は当たり前のことで、週休二日制という職場はあり得なかった。それが今日、レストラン側の仕組みは変わっていないのに、働く人の意識が変わっている。人件費はどんどんと高くなっていて、レストランの仕組みが追いついていない」

 

このように今日求められているレストランの労働環境を整えるものが高客単価路線なのだという。田中氏はこう語る。

「それを可能にすることが、高いクオリティなのです。一つの店をオープンするためには、例えば東京ディズニーランドを開業するほどの周到な準備と、空間プロデュースやPRが必要となり、開業してからもそれを継続しなければいけない。それがなくて、『使い勝手のいい店』『店舗数を増やす』といった従来のやり方では勝てない時代になっている」

 

コンテンツ化することで可能性が著しく広がる

レストランにとって「今勝つために必要な手法」が、インタビューで田中氏が切り出した「コンテンツビジネス」である。

 

「コンテンツビジネス」とは、オリジナルの著作物(コンテンツ)を作って売るビジネスモデルのこと。例えば、映画、アニメ、小説、漫画、動画教材、ツールなどがこれに当たる。作ったコンテンツは資産として残りやすく、Webやソーシャルメディアと相性がよい。コンテンツをのせるYou Tubeはとても身近な映像媒体として定着していて、さらにインスタグラムやオンラインにのることによって、消費者に伝わり、活用されるチャンスが飛躍的に広がる。さらに情報社会は「5G」の時代を迎えて、コンテンツビジネスには未曽有の可能性がある。

「鮨 早川」の店内、能舞台のような凛とした空気感が漂っている
「早川スペシャル巻き」は、贅沢な食材をふんだんに使っていて妥協がない

コンテンツ化したレストランは、例えばオンラインで注目されることによってブランド化し、レストランに訪れていない人が疑似体験するようになり、リアル店舗への憧れを強くする。同店のシェフはスターとなり、市場に行って魚や野菜を買っている様子を映像化することによって、その魚や野菜が高い付加価値を持って流通する可能性が広がる。これを英語や中国語に翻訳すると世界中の人に見てもらうことができる。

 

田中氏は「レストランのコンテンツ化は消費者目線を掘り下げて、差別化することを研究することが重要だ」という。ちなみに田中氏は、M.I.Tが経営しているすべてのレストランのディレクションを行っていて、料理の創意工夫を具体的に伝えている。例えば「御料理 宮坂」の場合、三ツ星の和食店の四季の料理を映像で集めて、これらをメンバーで視聴し、ディスカッションをして、主人の宮坂氏が志向している料理の流れを照らし合わせて、よりインパクトのあるものに組み立てている。

このような、高いクオリティづくりに取り組む過程と出来上がった料理の一連の様子が、「行きたくなる」「伝えたくなる」という具合にコンテンツ化している。

落ち着いた雰囲気の「RODEO&Cafe」の店内

 

 

コンテンツ化の試みの一つとして、料理教室の開催をリリースした。M.I.Tが運営するイタリアン「RODEO&Cafe」のシェフ堤真太郎氏と、「鮨 ニシツグ」の店主西胤氏が、グルメ誌『東京カレンダー』主催のオンライン料理教室「東カレキッチン」に講師として登場、それぞれの店のレシピを公開して料理教室を行った。「RODEO&Cafe」の料理は「食感を楽しむ混ぜ混ぜハンバーグ&パスタ」、「鮨 ニシツグ」は「鰹のちらし寿司」で「zoom」を利用して1回90分間程度で行う。参加費は5000円、ニュースリリースには「大人数で行う」とあるが、受講できるのは先着順。受講者には当日の講座を録画したものを送付するので、復習に活用できる。

「鮨 ニシツグ」の料理教室で学ぶ「カツオをふんだんに使ったちらし寿司」と「梅きゅう」

 

ちなみに「鮨 ニシツグ」は恵比寿のビルの中にある看板のないすし店で、Webドラマ『港区おじさん』に登場している。ドラマに登場する人々は、投資会社経営者、空間デザイナー、サロン経営者といった人々で、架空のストーリーでありながら、その舞台となる店は実在しているという仕掛けだ。実験的ではあるが、このような試みを積み重ねていくことでレストランがコンテンツ化することの真価をつかみ取っていくことであろう。現に同イベントでは、西胤大将に撮影希望の列が出来る。

 

田中氏は、この度M.I.TがG-FACTORYの傘下となったことによって、「メリットはとても大きい」と語る。

それはまず、M.I.Tの既存店で働く人々の独立開業の道がG-FACTORYが事業とする物件情報をはじめとしたさまざまなサポートにより切り拓かれるようになり、また厳格な財務コントロールによってこれらの経営も安定化すること。さらに、M.I.Tが築いてきたクオリティの高い日本料理店の海外出店を、G-FACTORYの海外出店サポートによって着実に進めることができるということだ。

レストランの在り方について先見的なビジョンを描く田中氏とM.I.Tの高いクオリティは、飲食業界の経営課題を解決するG-FACTORYのビジョンを担うことによって、新しい可能性を見せてくれることであろう。

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