「餃子」が居酒屋業態の有力な商品として定番化している。かつては「まち中華」の副菜、ラーメンやチャーハンが出来上がる前に、ビールのつまみという位置付けだったが、餃子をメインとして打ち出した居酒屋が一般的な業態として定着するようになってきている。

このトレンドをつくり出したのは「ダンダダン」である。正式な店名は「肉汁餃子製作所ダンダダン酒場」であるが、この2020年7月に「肉汁餃子のダンダダン」(以下、ダンダダン)と店名から「酒場」を外しシンプルなものに変更した。

ダンダダンを展開するのは株式会社NATTY SWANKYで、同社は代表取締役社長の井石裕二氏と取締役副社長の田中竜也氏が2001年8月に設立。井石氏は居酒屋・バルを、田中氏はラーメン店をそれぞれ2店舗展開していたが、2011年1月東京・調布にオープンした8坪のダンダダンが大ヒットして、経営をこの業態に傾注するようになった。2019年3月東証マザーズに上場、2020年6月期は店舗数90(うちFC19)、売上高42億5500万円、営業利益900万円となり、新型コロナウイルス禍(以下、コロナ禍)の中にあって黒字を果たした。

社業の柱であるチェーンの店名を変更することは、同社が新しいステージを目指しているからだが、コロナ禍でどのように経営判断を行い、これからどのようなチェーンを目指しているのか、代表の井石裕二氏に伺った。

冒頭にある龍の絵をはじめとした壁画は各店とも手書きのもの。店頭のサイン関連も全て同じ作家によるもので手づくり感満載で統一感がある(店舗、人物撮影/千葉太一)

「酒場」がついていることで来づらい客層もいるのでは

――店名から「酒場」を外したのはなぜですか。

 

井石 このことは2~3年前から考えていたことです。

そもそもなぜ店名に「酒場」を付けたか。それは、日本の焼き餃子がメインの居酒屋をつくりたかったからです。創業した2010年当時、餃子イコール中華料理店というイメージが当たり前でした。創業当初、ダンダダンをオープンすると、「ラーメンはないの?」「チャーハンはないの?」と言われ、「ないなら帰る」ということもあったのですが、最近はダンダダンの知名度が上がったこともあり、世の中に「餃子酒場」という業態が認知されてきたため、このようなことがなくなってきました。

 

――「餃子酒場」という業態が消費者にとって一般的なものになったということですね。

 

井石 そこで、なぜ店名に「酒場」をつけているんだろうと。「酒場」がついていることによって、「気軽に餃子とご飯を食べよう」とかファミリー層の需要を取りこぼしていたのではないか、「酒場」がついているから来づらい想いをしている人がいるのではないかと考えるようになりました。

 

――食事主体のお客さまを取り込むために「餃子」のレシピを変えたりしたのでしょうか。

 

井石 1号店以来、餃子のレシピは変えていません。ただし微調整はしています。それは、当社の場合、餃子をつくる量が毎月増えているわけです。そのために生産を追いつかせること、また生産の過程で味がぶれないようするためです。

株式会社NATTY SWANKY 代表取締役社長の井石裕二氏。「ダンダダン」は会社設立10年を経た2011年に誕生した業態だ

6月期決算を黒字で着地できたポイント

――4月に入って客単価が前年同月比で125.1%と劇的に上がっています。これはテイクアウトのまとめ買いによる効果ですか。実額ではどれくらいになりますか。

 

井石 その通り。客単価125.1%とは2500円あたりです。ダンダダンの場合は、創業当初からテイクアウトに取り組んでいました。元々テイクアウト用の窓口を設けていて、そのおかげでテイクアウトを強化することはやりやすいことでした。

これまでは、焼き餃子や冷凍の生餃子のみを販売していたのですが、3月の頭あたり、売上が少し落ちてきた頃にテイクアウト専用の商品をつくろうと考えました。そこでお弁当をつくることから始め、同時に出前館にお願いしてデリバリーもスタートしました。最初は1店舗で試してみて1週間経過したあたりで全店出前館を導入しています。

3月は、東京都の自粛要請が出るまでは対前年同月比客数1割減程度で推移していたのですが、自粛要請が発出されてからの数日間で急激に落ちて、この月は既存店で対前年同月比客数74.7%となりました。その後店を休業することはなく、要請通りに営業しました。

 

※編集部注:東京都は都民に向けて、3月25日に週末の外出自粛、30日にバー・ナイトクラブ・接待を伴う飲食業への出入りを控えるように要請しました。なお、4月7日に東京都や大阪府など都市部の7都府県に緊急事態宣言が発令され(16日に全国に拡大)、10日には東京都が大学や学習塾、遊行施設、劇場などへの休業を要請。同時に、東京都は飲食店に対して営業時間を5時~20時とし、酒類の提供を19時までとすることを求めました。

 

――2020年6月期の決算発表では、「売上が前年比80%でも黒字になる」ということを述べていましたが、その秘訣はどのようなものですか。

 

井石 コロナ禍の影響が出るまでは店舗単体の営業利益率が全店平均で21%になっていました。ですから、多少売上が落ちても赤字になることはないだろうと思っていました。2月に入って少し売上が落ちて来てから、とにかくコストコントロールに傾注して、そのためにたくさんのことを決定してきました。おかげで前期はなんとか営業利益を黒字で着地することができました。

 

新規出店のために借りていた物件を解約

――コロナ禍で4月に入って既存店売上が29.4%となりましたが、経営的にはどのような対策をとりましたか。

 

井石 この頃は、毎日経営判断が求められていた状態です。さまざまなコロナの研究者の論文を毎日読んでいて、このようなことを続けているうちに、「これはすぐに終息しない」ということが分かってきました。

全体的には予定通りに進めましたが。出店に関しては4月に一旦ストップしました。これから先、お客さまがある程度戻ってきたとしても、店を開けていて赤字だったら意味がないから「新規に店をオープンするのをいったん止めよう」となりました。工事が入っていた店舗はオープンしましたが、借りていた物件はすべて解約しました。この解約コストが結構かかりました。このような例は3つあります。

ランチタイムに提供していた定食を「夜定食」としてディナータイムでもラインアップ。利用客の幅を広げた

――8月に入って新規出店を再開していますが、その決断の要因はどのようなものですか。

 

井石 黒字転換した店が増えてきたということが要因です。そこでいろいろなことを予測することができるようになりました。都心の繁華街と言われる立地は家賃が高く相変わらず厳しい。そこで、立地を選べば出店していいかなと考えるようになりました。10月に出店する店の中には宇都宮がありますが、「餃子の街」に出店することになります。宇都宮の人は皆、ダンダダンを宇都宮でやって欲しいと言ってくれます。そこで宇都宮では3店舗は展開したいと考えています。

 

「販路経路の拡大」と「QSCの更なる向上」

――決算資料の中に、今期「販路経路の拡大」としてテイクアウト弁当、デリバリーサービスの充実、夜定食、冷凍生餃子の通信販売、キャッシュレス決済について掲げていますが、どのように進めていきますか。

 

井石 テイクアウト弁当、デリバリー、夜定食は先ほど述べた通りに進めていて、通信販売については、8月から開始しました。看板商品の肉汁餃子を冷凍の宅配便で全国配送しています。今ご注文をいただいている方々は関西や東北といった「ダンダダン」の店舗がないところの人が多いです。

キャッシュレスについて推進したいという意志は強くありますが、手数料がネックです。現状は手数料が無料のPayPayとLINE Payだけを行っています。これは来年の夏までとなりますが、手数料の課題が解決すれば推進するつもりです。

 

――「今後の店舗の活動」として「QSCの更なる向上」を掲げて、社内教育講師の育成と体制強化、店舗マニュアルの細分化、各店舗の定期衛生検査の強化、新規商品開発によるブランド価値向上を掲げています。この中にある「社内教育講師の育成」はどのように進めていきますか。

社内の教育的環境を充実させていてQSCは高いレベルで維持されている

井石 当社では社内研修を内製化しています。「社内教育講師の育成と体制強化」としているのは、これから人材が増えていくペースに対応していくために既存の社内講師の人員をもっと増やす必要があります。当社は2021年6月度で100店舗を超えて、正社員は250人前後となります。

当社が目指している企業風土は「仕事は楽しんで行わないと時間の無駄。どうせ仕事をやるんだったら楽しんでやろう」というものです。このような文化を定着させるために「今後の店舗の活動」に掲げたことはとても重要なことです。

 

――これからダンダダンを取り巻く環境はどのように変化していくと考えますか。

 

井石 「酒場」は将来なくなることはありませんが、食事業態と居酒屋の垣根はこれから低くなり、そのスピードは加速していくことでしょう。

また、ダンダダンにとって出店余地はたくさんあると考えていますが、新規出店で都心はしばらく外していきます。お客さまの戻りも、都心より郊外のほうが早いですし。

4月にテストキッチンをつくり商品開発をしています。ここで培ったものはタイミングをみて店舗のブラッシュアップに活かしていきます。

 

黒字転換した店が増えてきたことから新規出店を再開していると語る井石氏

■コロナ禍によってフードサービス業の構造は大きく変化している。ダンダダンがいち早くテイクアウト、デリバリーに着手し、商品開発に取り組み、そして店名から「酒場」を外したことは、過去の成功に拘泥しない姿勢として捉えることができる。

 

店舗情報

店舗名 ⾁汁餃⼦のダンダダン 新宿三丁目店
エリア 新宿三丁目
URL https://www.dandadan.jp/

運営企業情報

企業名 株式会社NATTY SWANKY
URL https://nattyswanky.com/

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