既存店との親和性の高い「名代 宇奈とと」を導入して可能性が広がる

 

飲食業界はコロナ禍によってさまざまな新しい売り方に着手した。『e店舗media』では、これまでテイクアウト・デリバリー・ECについての事例を紹介してきたが、これから連載の形で「ゴーストレストラン」の試みを紹介していく。この真価については連載の過程でその都度述べていくが、「実店舗を持たない」「専門店」のゴーストレストランがこれからの飲食業に果たす役割を浮き彫りにしていきたい。

 

連載の第1回は、広島・福山市内に本拠を置いて13店舗(福山に直営9店舗、運営受託2店舗、東京に直営2店舗)を展開する株式会社夢笛(代表取締役/高橋英樹)の事例を紹介しよう。夢笛の創業は1994年のこと。2004年に現・代表の高橋英樹氏が代表を引き継ぎ、多店化とともに業容拡大を行ってきた。

 

コロナ禍でウーバーを導入し商品も開拓

夢笛では早くから仕出しの事業を行っていて、自社便による「配送」についてはノウハウを蓄積してきた。

そして、このコロナ禍で会社の収益構造を再構築する必要性を感じ取り、個人宛てに届けるデリバリー機能としてUber Eats(以下、ウーバー)に依頼し、「サンドの飯」というブランドを立ち上げて「おにぎらず」のデリバリーを行った。こちらは同社の蕎麦・寿司「砦 to‐ride」のキッチンを活用した。立ち上げてからは、テイクアウトやキッチンカーの需要を含めて月商80万円を売り上げ、後に熊本でFC店がオープンしている。

 

さて、コロナ禍では4月上旬から5月のゴールデンウイーク明けまで約1カ月間全店を休業したが、この間に「博多ノ飯場なごみ」の店頭と店内を活用して魚の惣菜と野菜の販売を行った。魚は丸のままで販売するのではなく、三枚におろしたり、カサゴの頭は唐揚げにしたり、カワハギは煮付けにしたりと、同社の高い調理技術でクオリティをアピールした。

 

ちなみに同社では自社農場「ドリームファーム」を運営していて、自社店舗の食材として使用している。その野菜を「博多ノ飯場なごみ」で販売していた。こちらの店舗を選んだ理由は、同店が元々魚介類販売業の営業許可を取得しており、新しい売り方をするための追加投資が少なかったからである。加えて、駐車場を併設しているのでドライブスルーの販売方法もできるのではないかという判断があった。

この売り方は大層繁盛して、日販50万円を超えたこともあった。そしてこれが、同社のゴーストレストランの事業化を一歩進めるきっかけとなった。

 

百貨店の売場の品ぞろえを豊富にする存在

同店の盛況ぶりを福山駅前の百貨店「天満屋」の担当者が見ていて、天満屋の地下食品売場に魚介類の惣菜店を出店することを要請された。

この売場は10坪弱で、6月より「魚の惣菜家むてき」として営業をしている。同社が得意とするさば重、鯛飯など弁当4種類、焼き魚10種類、煮魚4種類程度、他に自社で炊いた佃煮なども販売している。これらに加えて、伝統的に味噌文化が浸透している福山の味噌や、地元の酒蔵の酒粕で漬けた魚を販売するなど特徴のある品ぞろえを行っている。

 

「魚の総菜家むてき」の営業を開始してから、G-FACTORYが展開するウナギのファストフード「名代 宇奈とと」が商品をライセンス方式で展開するというプランをリリースしたことを知り、これに大いに共感を得た。そこでこの売場で「名代 宇奈とと」の商品を取り扱うことにして8月末から販売を行った。高橋氏はこう語る。

 

「『名代 宇奈とと』のブランドについて、『大阪で食べたことがある』とか、当社の福山の従業員のうち3割は知っていました。当社の商品との相性もいい。地元のお客様も同様で、『名代 宇奈とと』のうな重などは、一般的なものと比べて安くてお値打ちがあるということで知られています。このブランドはもっと広まってほしいと考えました」

店舗で行う最終調理の「焼き」によって、表面がカリッと、肉はふっくらと仕上げている。デリバリーでは、肝吸い(右)・柴漬けとセットでの販売になる

 

「サンドの飯」も安定してきていることから、高橋氏はゴーストレストランの有望性を感じ取っていた。

そこで、同社の旗艦店ともなる大型店(45坪2層)の海鮮居酒屋「魚々家むてき」の日中時間にCK(セントラルキッチン)の機能を持たせ、同時に「名代 宇奈とと」のゴーストレストランを行うことにした。テイクアウト販売に加え、ウーバーとの契約を取り付けることができたため、9月24日からデリバリーをスタートしている。

 

「名代 宇奈とと」がきっかけとなる業界貢献の新しい形

「名代 宇奈とと」の商品をライセンス形式で販売することに際して、研修店舗で研修を受けることになる。研修期間は3日間から1週間で、ここで商品のカットの仕方、焼き方、提供の仕方などを学ぶ。

高橋氏は、これからの飲食業界おいてゴーストレストランはとても重要な売り方と捉えていて、「名代 宇奈とと」のクオリティと専門性の高さ、価格に対する満足度についてゴーストレスランとしての有望性を感じ取っている。また、他の飲食業で「名代 宇奈とと」のゴーストレストランを開業する事例が増えることによって、「名代 宇奈とと」のブランド価値は一層向上するものと考えている。

現在、「名代 宇奈とと」ライセンス形式の研修店舗となっている新宿センタービル店

「そこで、当社が西日本地区の研修店舗の役割を果たすことができればと考えています。当社の『魚々家むてき』の焼き台は大きく、研修に大いに役立つことでしょう。また、西日本地区で開業を希望するところが東京までの旅費や宿泊費のコストを圧縮することができます。当社が『名代 宇奈とと』の商品を扱うことになったことをきっかけに、ゴーストレストランという新しい業態で飲食業界に貢献したい」

 

ちなみに「名代 宇奈とと」既存店で、テイクアウト・デリバリーの売上実績が安定している事例として東京の中野店が挙げられる。同店は月商240万円以上がデリバリーの売上で、デリバリーはウーバー、ファインダイン、DiDi Food、menuにて行っている。また、2020 年4月から7月までの月額デリバリー売上の店舗平均は160万円ということで、これが「名代 宇奈とと」のゴーストレストランを想定した場合の目標値となるかもしれない。

福山の夢笛の場合は、デリバリーがウーバーだけではなく同社特有のノウハウである「配達」でも行う。この注文は店舗ではなく本部が受けるものだが、一つの注文先から同社がドミナント展開をしている福山エリアで運営する店舗のテイクアウト商品を複数の品目ごとにまとまった数量を受注し、同社の配送車が各店舗に受け取りに回り、混載して注文先に届けるというものだ。主に会議弁当などでの需要が多いが、1回に10~20食程度の注文が多い。今年は中止が多かったが、運動会が開催されるときには、この注文が活発になるという。

 

また、同社で「名代 宇奈とと」をゴーストレストランだけではなく、各店舗でのメニュー改定に際してグランドメニューに取り入れることも検討している。

小売業の世界では、複数のメーカーやブランドの商品を取り扱うセレクトショップが一般的に存在しているが、飲食業の場合は「自社手作り」至上主義にこだわり、ヒットしている他社の売り方を真似ることを「パクる」という言い方でさげすむことが通例であった。

 

しかし、ライセンス形式によるブランド商品の販売は、自店のメニューを強化する上で実効力が高い。夢笛という飲食業にとって「名代 宇奈とと」の商品を販売することは、ゴーストレストランという販売チャネルの拡大とともに、実店舗のメニューを豊富にすることをもたらし、新しい可能性を切り拓くきっかけとなっている。

店舗情報

店舗名 魚々家むてき
エリア 広島・福山
URL https://totoyamuteki.info/

運営企業情報

企業名 株式会社夢笛
URL http://www.muteki.jp/

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