新入社員が自分の配属先を自分で決める

外食産業の発展はさまざまな先人たちの夢と野望によってもたらされた。

その端緒となったのは、1970年に日本万国博覧会が開催され、ケンタッキーフライドチキンが出店したことによって、ファストフード、チェーンレストラン、FCという仕組みが紹介されたことに始まるとされている。

 

それ以前に、近代的な外食にチャレンジする飲食業があった。その一つが名古屋市に誕生した「ステーキのあさくま」である。ステーキとは「ご馳走」を象徴する洋食である。それもファミリーで食べることで外食の楽しさを倍化させる。その多店化構想を他に先駆けて進めていたというのは慧眼であろう。

 

このチェーンの原型となる店は1962年に誕生した「ドライバーズコーナーキッチンあさくま」で、以来多店化を推進してきた。創業者は近藤誠司氏で、家業の料理旅館をたたき台にして、飲食店によって事業の拡大を図っていった。そして、事業は株式会社あさくま(本部/愛知県名古屋市天白区、代表取締役/横田優)として発展。同社は現在、ロードサイドのステーキハウス「ステーキのあさくま」をメイン業態として全国に68店舗展開、グループ全体では98店舗となっている(2020年9月現在)。また、2006年に中古厨房機器販売の株式会社テンポスバスターズと資本・業務提携を行いグループ会社となっている。2019年6月には東証JASDAQスタンダード市場に上場している。

「ステーキのあさくま」はロードサイドを中心に68店舗を展開

 

このような同社の先進的な取組は、現在人事制度に生かされている。

まず、新卒社員の配属先は本人が決める。外食企業の職場は店舗以外に本部もあるが、現場で働くことが基本ということで、新卒は全員が店舗勤務となる。

 

新卒は4月に入社してから店舗での実地研修を受けるが、その後に行われる新卒配属式で、配属先として選んでほしい店長が壇上に立ち、自分の店で働くことのメリットと展望を熱く訴えかける。これら一連の発表を聞いた後に、新卒は自分が働きたい店に投票するという仕組みだ。新卒にとっては入社して最初の大きな判断となる。同社の社員の主体性を貴ぶ文化の一面である。

 

店とお客様との「カウンター」をなくす

その同社では、来期の役員人事を「公募」によって決める施策を打ち出した。この11月16日から実際に動き出している。これは「あさくま社員から公募」「テンポスグループ社員から公募」「あさくまメール会員から公募」の三つに分けて行われている。ちなみに「あさくまメール会員」はアプリも含めて現在100万人が存在している。

 

今回の役員人事の方法を決めた背景について、同社取締役の新貝栄市氏(記事冒頭の写真の人物)が解説してくれた。

新貝氏は外食畑を歩み、10年ほど前に中途採用で同社に入社。社歴6年が経ちエリアマネージャーを務めていた。その頃、「自分の成長に挑戦するために」3年前の役員公募に応募した。選考期間中に与えられたさまざまな課題に対して解決提案した内容が評価されて役員に選出された。

「役員になって変わったことは、それまで現場目線で考えていたことが経営目線で考えることになった」と新貝氏は語る。

 

今回の役員「総選挙」の仕組みを紹介しよう。

三つの出自から選出される役員の人数と、彼らに課せられることは次のようなことだ。

 

・社内公募

一人ないし二人。より経営改革にコミットした形で課題を解決する。

・テンポスグループからの公募

一人ないし二人。社外役員として就任してもらう。月1回開催される取締役会に出席するが、それだけではなくて、グループ会社の社員の目で、商品・サービス・クレンリネス・従業員の4つに対して、自分はどのように変革していきたいのかを追求する。

・メール会員からの公募

一人の採用を想定しているが、ある程度候補者が絞られた段階で、それぞれが素晴らしい能力を持っているのであれば複数人を採用する。非常勤として関わってもらう。月1回開催される取締役会に出席するほか、それぞれに宿題が与えられ、臨店して従業員満足・顧客満足のチェックを行い、改善提案をリポートする。

 

ちなみに同社では「カンタレス経営」を推進している。これは店とお客様との「カウンター(境界線)をなくす」という意味で、同社と一緒になって「あさくまをより良い店にしていきたい」と共感するお客様に「応援者」として業務を依頼するという制度のこと。職務として、サラダバーやフェア商品の開発を担当する「お料理プランナー」、駐車場や庭木の整備を担当する「ガーデニングキーパー」、店内での演奏会を担当する「演奏メロディアン」などが存在する。新型コロナ禍で「演奏メロディアン」の活動は控えているが、他の職務の人たちは時折集まって、社長や幹部社員との食事会にて、あさくまに対しての改善提案を活発に行っている。これらの人々には報酬を支払っている。

「お料理プランナー」はサラダや新商品の提案を行う
「ガーデニングキーパー」は植栽や駐車場の美観を管理する
「演奏メロディアン」はレストラン内でのライブコンサートを行う

あさくま創業からの『近藤イズム』の表現方法

「役員総選挙」のスケジュールは以下の通り。

・11月16日、「あさくまメール会員」に実施要項を配信、「社内公募」「テンポスグループ公募」を実施

・「社内公募」「テンポスグループ公募」はその1週間後に締め切り、立候補者を数名に絞り込む

・この二つからの立候補者は12月から来年3月まで課題が与えられ、あさくまの役員が全員そろう中でそれについて解決を提案する内容を発表する

・「あさくまメール会員」は個人情報、反社チェックを経て12月末までに立候補者を10人ほど選出する

・その後、来年1月から3月まで与えられた課題に対する結果を提出する

・「社内公募」「テンポスバスターズ公募」「あさくまメール会員公募」からの立候補者は、来年4月に開催される全国店長会議で、店長以上の社員・幹部社員の投票によって新役員を決定する

・来年6月に開催予定の株主総会で新役員を紹介し承認してもらう

 

ちなみに、これらの内容を11月16日に配信したところ、あさくまメール会員からの問い合わせが殺到しているという。「カンタレス経営」の文化がある同社のメール会員にとって、役員となって経営に参画できるということは、「あさくまファン」としての欲求が大いに満たされることであろう。

 

今回の役員公募は同社において3年ぶりのことになるが、同社としては今後定例化していく意向である。その狙いについて新貝氏はこのように語る。

「役員公募とは、あさくま創業者である近藤誠司の『近藤イズム』の一つの表現方法であり、お客様の声に常に耳を傾けている人たちを役員にするという大英断です。歴史のある当社の文化であり、社会における責任です」

 

冒頭で述べた、新卒社員が配属先を自分で決めるという同社独特の慣習も含めて、新卒からプロパーとなっていく社員たちに受け継いでいく必要があるものと、新貝氏は次代の「あさくま」を見据えて語る。

 

店舗情報

店舗名 ステーキのあさくま
URL https://www.asakuma.co.jp/company.html

運営企業情報

企業名 株式会社あさくま
URL https://www.asakuma.co.jp/company.html