ゴーストレストランの特性として、「飲食業の一等地でない場所でも営業できる」ということが挙げられる。今回の取材場所である「KitchenBASE(以下、KB)新宿神楽坂」を訪ねる準備をはじめて合点がいった。こちらの住所の「新宿区払方町1-3」を見ると、JR市ヶ谷駅から徒歩15分あたり、神楽坂の中心街からも離れていることから、飲食店は少ないだろうと想像していた。KBはそれぞれがブランドを持ったキッチンの集合体で、注文を受けた料理はすべてデリバリーで届けるというものだ。

 

取材当日のお昼時に現地に向かったところ、市ヶ谷から神楽坂方面に向かう通りは、集合住宅やオフィスビルが密集していて殺風景であった。遠くに「あれが取材場所では?」と想定できたのだが、それは黒い服装の人たちとオートバイや自転車の二輪が集まっている様子が見えたからだ。KB神楽坂には21のキッチンがあるということから、お昼時にはデリバリープラットフォームの人だかりになるのは当然のことだ。

1階には注文に対し出来上がった商品の番号を表示するモニターを設置

1階にはUber Eatsや出前館などの専用棚が設置され、正面上にある大きなモニターに次々と番号が表示されている。それは、お客からモバイルでオーダーされた商品が出来上がったことを示している。その下では、ここでのキーマンとなる女性がPCを操作しながら、続々とやって来る配達員に、オーダーを受けている商品の番号をモニターと照らし合わせて確認することをお願いしている。出来上がった料理は先に述べた専用棚の保温ボックスの中に入れてある。

 

食事のピークタイムだからこそ、配達員は続々とやってきて、そして整然と配達先に向かう。街並みこそは殺風景だが、これらの集合住宅やオフィスからの食事の需要は脈々としているのであろう。ちなみに、ここKB新宿神楽坂からのデリバリーの件数は1週間に約2000件という。

食事のピークタイムにはデリバリ―プラットフォーム各社の配達員が続々とやって来る

 

年前4カ月間実験した後、現在のビジネスの確信を抱く

KBを運営しているのは株式会社SENTOEN(本社/東京都千代田区、代表/山口大介)である。同社代表の山口大介氏は1992年1月生まれ。大学卒業後、ニューヨークの大学に編入。映画監督を志し、帰国後はインターンをしていたITベンチャーに入社して、アプリディレクターとして実績を積む。その後、起業して銭湯経営をはじめるが、路線変更をしてデリバリービジネスに着眼したというチャレンジングな経歴を持つ。

 

デリバリー事業に着手したのは2018年8月のこと。「普通の小売業がオンラインやECで業績を伸ばしている動向を見ていて、飲食業も同じような道をたどっていくだろう」(山口氏)と予測して、台東区入谷で3カ月前に閉店したサンドイッチショップを借りて、共同経営者と二人でサンドイッチのデリバリーを手掛けた。

 

この店は当初売上が振るわず「心折れることが度々あった」というが、「何としても売ってやる」と意識が高まり、開始して4カ月後のクリスマス前に1日50オーダー、日商8万円に達することができた。

 

「これでデリバリーの実験は終わった」と判断し、KBを立ち上げるために2カ月間資金調達に専念し、出資が見えてきた段階で物件探しを行い、KBの構想をSNSで発信して、KBへの入居希望者の仮募集を行ったところ約70人が集まった。山口氏はこの応募者数を見て「需要はある」と確信したという。

 

こうしてこの事業の第一弾となる「KB中目黒」は2019年6月にオープン、東急東横線の線路沿いに祐天寺方向に徒歩5分、ビル2階元炉端焼店20坪の物件で、スケルトンにして一からつくり上げた。4ブースのキッチンをつくり、1カ所を自社で確保し、現在はこれらで5つのブランドが稼働している。

中目黒を立ち上げてから半年間が経過した2019年12月ごろから次の拠点の検討に入り、2020年8月に「KB新宿神楽坂」をオープンした。独自のノウハウで数千の物件からデリバリーの拠点にふさわしいエリア、ビル1棟借りが可能な物件を割り出していき、現在の物件を見つけた。ビルは5階建てで元出版社の倉庫であった。

 

一般的に6カ月を要する開業を1カ月に短縮

KBの特徴は大きく二つ。

まず、「誰でも開業できる」。独立してデリバリーレストランを初めて手掛ける人、拡大を目指す人にとってもすぐに開業できる。

次に、「低リスク」。入居者は開業・退店時のコスト、ドライバーの採用など、デリバリーレストランの開業にまつわるリスクを最低限にとどめることができる。

入居者は契約期間を6カ月、12カ月、24カ月以上から選ぶことができる。

入居者の初期投資は保証金などを含めて100万円程度。一般的に実店舗を構える場合に800万~1000万円かかるところが、10分の1程度で済む、ということをうたっている。

それに対してレンタル料は実店舗を構えるよりも高い。その理由は、まず設備がフルセットであること。この設備はかつてサンドイッチでデリバリーを行い、またこれまで自社で約10ブランドのゴーストレストランにチャレンジしてきて、さまざまな業種に対応できるキッチンとして考え出したものである。次に、デリバリーのためにデリバリープラットフォームに委託しようとしても3~4カ月待たされることが常だが、KBを通じてすぐに委託することができる。

 

さらに、入居者それぞれの売上が伸びるように、店の画面のつくり方、料理画像のクオリティ、ポーションやプライシングなどについて、お客のクリック数、オーダー数、リピート数のデータを基にアドバイスを行う。

 

一般的に、独立してリアル店舗を構える場合のスケジュール観はこうなる。

物件を決めるまで約1カ月。その後、内装や設備を決めるまでに約1カ月。営業許可を取得して、そこからデリバリーキャリアに委託できるまで4カ月程度を要する。ざっと6カ月である。KBではこれらを1カ月に短縮することになり、リアル店舗開業と比較した場合の約5カ月余計にかかるコストをカットすることができる。山口氏はこう語る。

フルセットのキッチンを装備

「これまでシェフが独立開業するときには、物件を探し、店のデザインを考え、メニュー構成やプライシングも決めて、さらにプロモーションを行うという具合に、一人の人がマルチな能力を持つことが必要という環境でした。そうではなく、シェフが独立開業するまでのことを私たちと一緒にやっていただくのであれば、FCや大手外食に勝てるように頑張っていきたい。そのために、データを駆使して事業を行っています」

 

「デリバリ―ビジネスには、いわゆるこれまでの一等立地である必要はない」ということが定説になっているが、山口氏は「デリバリーの一等地が存在する」という。ここがKBの大きなノウハウと言えるだろう。山口氏はこう語る。

「3㎞に10万人の居住者がいる、といった類のデータも取りますが、この10万人の全ての人たちがデリバリーの食事をするのだろうか。神楽坂の10万人と別の10万人を比較すると、デリバリープラットフォームのダウンロードの数は当然異なります。さらに、そのエリアにドライバーが何人いるかということも重要です」

お客からの注文はキッチンの中のタブレットに直接届く

同社の場合、同社オリジナルのシステムを使用してエリア別で発生しているオーダー数を入手している。こうしてヒートマップを作成し、「ある一定のオーダー数がないところには絶対に眼を向けない」という。

こうして絞り込まれた場所が新宿神楽坂であった。さらに、2021年3月浅草に22ブースのキッチンをオープン。さらに中野に200坪弱の物件を確保しており35ブースのキッチンがあるKBを計画している。また、歓楽街に近いエリアも有望だとみている。

 

「われわれは『六本木がカッコいいからイケてる』という発想はしません。『データでデリバリーの需要がこれだけあるから攻めていくことができる』という具合に確信を持って語ります」(山口氏)

デリバリーのデータを独自に収集し分析する仕組みをつくり上げ、飲食業者にアドバイスを行うことは、DX(ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でよい方向に変化させる)の時代を体現している一つと言えるだろう。

 

KitchenBASEについて詳しくはこちら!(2021年春 浅草・中野にオープン予定)

 

店舗情報

店舗名 KitchenBASE
エリア 神楽坂
URL https://kitchenbase.jp/

運営企業情報

企業名 株式会社SENTOEN
URL https://1010en.com/

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