2018年8月29日に東京・新橋に１号店がオープンした「焼肉ライク」は、フードサービス業界に「アイデアの力」というものを改めて見せてくれた。
焼肉とは、これまでハレの日需要が色濃い業種であったが、それを客単価1350円というポピュラープライスに落とし込み、提供時間を３分以内に短縮化したことによって利便性が一段と増した。これまでの一般的な焼肉店で、一人で焼肉を食べるのとは趣が異なり、堂々と店に入ることができる。そこで、これまで一人で焼肉店に行きたいと思いながらちゅうちょしていた女性にその利用動機を開放した。
この新しさはアルバイト募集にも奏功した。筆者は2018年9月に当時事業部長をしていて現在焼肉ライクの社長となっている有村壮央（もりひさ）氏を取材したが、アルバイト募集に230人が応募して、その８割が20歳前後の女性だったという。当時は、インバウンド景気でアルバイト求人市場がひっ迫していたにも関わらず、である。
１号店がオープンしてから早２年半近くとなる焼肉ライクは現在全国に50店舗（うちFC45店舗／2020年12月末現在）となっている。フードサービス業界は新型コロナ第三波によって大きな影響を被っているが、この間どのように営業に取り組み、どのようなビジョンを描いているのだろうか。代表の有村氏が教えてくれたことを以下にまとめよう。
目次
「３蜜の回避」に適した店であることをアピール
焼肉ライクの営業状況は2020年前半からじわりじわりと打撃を受けるようになり、出店場所での違いはあるが、特に4月、5月は前年同月比で60％となった。営業は政府の要請に従い時間を短縮した。
このように厳しい状況に置かれた背景として、まず、主としてビジネス街に出店していたこと。ここでは店前で人が歩いていなかった。そして、有村氏は「焼肉ライクそのものの認知度が低かった」と語る。この真摯な指摘がこれ以降の同社の行動に現れていく。
「これらを打開するために、店の間口を広げることが重要であると考えて、ここから新たな需要や顧客層を取り入れていこうと動きました」（有村氏）
最初にアピールしたことは「環境に配慮している」ということ。従業員の検温と手洗いの徹底から、飛沫防止のためにアクリル板の仕切りを設定している等々、さまざま原則的な内容に加えて「客席全体の空気が２分30秒で入れ替わる」ことを随所で告知した。
「新型コロナ禍で最初に言われたことは『３蜜の回避』でした。当社の店はこれに最も適しています。先ほどの換気もありますが、お客様が自分で調理をするということ。さらに『個食』となっているので、これらの特長をアピールしていきました」
それが、「今こそ!!ひとり焼肉」キャンペーンとなった。「一人で換気の環境が整った焼肉ライクで安心して食事をしてください」ということを次々とアピールしていった。
「今こそ!!ひとり焼肉」キャンペーンを多角的に発信
まず、緊急事態宣言が解除された翌日の5月26日から、一番人気の「牛タン・匠カルビ・ハラミ200g」を通常価格の1480円（税抜、以下同）から200円引きのキャンペーンを展開した。これは、「緊急事態宣言が解除されてから一番食べたい外食が焼肉」という調査会社のアンケート結果からひらめいた企画だったという。
次に、外出自粛やテレワークによる運動不足等の影響で「コロナ太り」が気になる人に向けて、ご飯を外してたっぷりのチョレギサラダに変えて、これにミスジとハラミをセットにした「赤身肉とチョレギセット150ｇ（キムチ、スープ付き）」1150円を8月10日から販売した。さらに、「この商品を女性一人でも焼肉を楽しんでいただきたい」という趣旨で「WoMonday（ウーマンデー）」と称し毎週月曜日に1000円で提供し、現在も継続している。
9月15日から「学割ライク」を販売。これは「バラカルビセット100ｇ＆ちょい足しカレー」のメニューを「ご飯食べ放題」にして、通常価格710円のものを学生証提示によって500円で提供する。
食べ放題としては、10月1日から11月30日まで全店舗で、ご飯・キムチ・スープがおかわり自由になる「メガ盛りパウンダーセット 無限ご飯キャンペーン」1540円を行った。パウンダーとはお肉が450ｇ（約１ポンド）ということだ（300ℊ1080円もある）。
11月23日より全店舗で「松阪牛50ｇ」500円を6万食限定で発売。これは、新型コロナ禍で行き場を失った和牛を焼肉ライクで販売することによって、お客様には和牛のおいしさをお得に味わっていただいて、生産者応援につなげたいと考えて行ったものだ。
「フェイクミート」によって、もの凄い可能性を体感する
画期的なことは「フェイクミート」を導入したことである。これは大豆や小麦、エンドウ豆などを主原料として作った肉の代替食品のことで、今日、小売店やフードサービスで存在感を増してきている。
主にビーガンや健康に気遣う人が求める食べ物であるが、同社ではこれをどのようなきっかけで導入することになったのだろうか。有村氏はこう語る。
「フェイクミート自体については、アメリカの様子を興味本位で眺めていて、日本の焼肉屋さんで取り扱うものではないと考えていました。それがある人にフェイクミートのベンチャー企業、ネクストミーツ株式会社の佐々木英之社長を紹介していただき実際に試食しました。この瞬間、この食味に感動して『焼肉好きの人も喜ぶのではないか』と思い、どこよりも早くフェイクミートをメニューに取り入れようと考えました」
10月23日から渋谷店で先行販売して、徐々に取り扱う店を増やしていき、12月14日から全店で提供している。
フェイクミートをメニュー化したことによって、にわかに多くの反響があったという。これまで焼肉ライクを利用していなかったビーガンや、健康を意識している人が来店している状況を見て、有村氏は「もの凄い可能性を秘めているのではないか」と考えるようになり、「フェイクミートの市場は広がり、縮むことはない」という手応えを感じているという。
テイクアウト・デリバリーにもいち早く取り組んだ。これまではなかった肉を焼く作業のために保健所に新たに申請して、5月から、客席の一部をキッチンに変更できる店で行っている。商品はテイクアウトで500円、デリバリーは800円程度。一般的に焼肉弁当は1500円となっている中でとてもよく売れていて、平均して売上の10％を確保しているという。
これらの売り方のために、新規の店では自動焼き機を入れている。ベルトコンベアによって両面を遠赤外線で焼くことから、焼きムラがなく、部位にもよるが概ね１分弱程度で焼き上がる。こうして作った焼肉弁当は時間がたってもおいしい状態を保つことができている。今後新店ではこの機能を基本的に導入していく方針で、テイクアウト・デリバリーの売上構成比が10％から20％になることを目指している。
365日物流によって「焼肉ライクらしさ」を磨く
冒頭で述べた通り、焼肉ライクの展開は現在FC比率約９割で進められている。オーナーの新しい傾向として電鉄系からの引き合いが増えていて、既に、東急電鉄溝の口駅（神奈川）、近鉄鶴橋駅構内（大阪）、JR岡山駅の駅ビル（岡山）に出店している。有村氏はこう語る。
「焼肉ライクは駅構内の立地との親和性が高いのです。15分か20分で食べ終わることができるので、急いでいる人にとっては重宝します。このような立地開拓ができるのは焼肉ライクの物流にあります。カット済みのチルド肉が配送され、店内では盛り付けるだけ。365日物流を実現して、店には在庫を置かない。こうしてクオリティが高い肉をクイックに提供する仕組みが出来上がっています」
さて、2021年1月7日より２回目となる緊急事態宣言が発出されて、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県エリアの飲食店では20時までの時短営業（酒類の提供は19時まで）を要請されている。
（※）編集部注：現在（2021年1月14日時点）は1都3県に加えて、大阪府、兵庫県、京都府、愛知県、岐阜県、福岡県、栃木県にも緊急事態宣言が発出されております。
これに対応して、焼肉ライクでは1月12日から朝の営業開始時間を11時から10時に１時間前倒しして、10時から11時までの新商品として「朝焼肉セット」500円の販売を１都３県の店で順次導入している。「朝焼肉」の内容はバラカルビ100ℊ、ごはん（お替りサービス）、スープ、味付け海苔が付属して、さらに生玉子かキムチを選ぶことができるというものだ。
お値打ち商品を拡大した朝の時間帯に設けることによって、新しい客層を作り出す実に俊敏な行動力である。
これまでの「焼肉店」という存在感を飛び越えて、消費者にとってより身近なポジションを開拓し続ける焼肉ライクは、フードサービス業界を活性化するリーディングカンパニーとして注目していきたい。
