昨今、ちまたで徐々に話題に上るようになったSDGs(持続可能な開発目標)。貧困や飢餓、環境問題など世界的に取り組むべき社会問題の解決を目的に、計17個の目標が制定されています。現在、製造業、小売業、金融業などの各業界で、多くの企業が様々な取り組みを実践しています。

SDGs達成のために、飲食業界ではどのような取り組みが考えられるか紹介しているこの連載。今回は「目標3.すべての人に健康と福祉を」について考えていきます。

 

「目標3.すべての人に健康と福祉を」とは

目標3は「あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」というテーマで、計13の指標が定められています。

厚生労働省の「令和元年簡易生命表」によると、国・地域別平均寿命で日本は男性が3位、女性が2位と、世界でもトップクラスの長寿を誇ります(2019年時点)。しかし、目標3のテーマでもある「健康的な生活の確保」という点では、課題があります。同省では医療や介護を日常的に必要とせずに生活できる健康寿命も公表していますが、現時点の最新データである2016年で男性72.14歳、女性74.79歳です。同年の平均寿命である男性80.98 歳、女性87.14歳と比較すると、その差は男性約8年、女性約12年と意外と大きいことが分かります。目標3を達成するためには健康寿命を延ばし、この差を縮めることが重要です。

 

差を縮めるための対策として考えられるのが、健康的な食事を適量取ることです。栄養過多で肥満になると、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を発症するリスクが高くなります。日本の肥満率は年々微増しており、厚生労働省が2020年に発表した「令和元年国民健康・栄養調査」によると、男性の約3割、女性の約2割が肥満です(2019年時点)。日々の食事を提供している飲食店だからこそ、国民の健康に貢献するための取り組みを行いたいですね。

 

健康的な食事を促す取り組み

それでは、健康的な食事と言われる「栄養バランスの良い食事」とはどのようなものでしょうか。

厚生労働省と農林水産省は「1日に」「何を」「どれだけ」食べたらよいかを考える際の参考となるように、食事の望ましい組み合わせとおおよその量をイラストで分かりやすく示した「食事バランスガイド」を2005年に発表しています(2010年に一部改訂)。それによると、主食(ごはんや麺等)・副菜(野菜等)・主菜(肉や魚等)・乳製品・果物の5種類の要素が含まれているものとされています。飲食店でも主食と主菜だけでなく、副菜や乳製品、果物などをセットにして提供すると良さそうです。

 

一方、前述したように日本国内でも約2~3割の人が肥満であり、摂取カロリー量を意識することも重要となります。食事バランスガイドによると、1日に必要なエネルギー量は、年齢や性別・活動量によっても異なりますが、活動量の低い成人男性で2200kcal前後、成人女性で1400~2000kcalであるとされています。

大手飲食チェーンなどでは、ユーザーがカロリーを意識した食事を取れるよう、メニューにカロリー表記を行う店が増えてきました。世界でもカロリー表記が健康に与える影響は大きいとされており、アメリカでは2018年から国民の健康改善のために20店舗以上を展開する飲食店などでは表記が義務付けられているほどです。

 

料理のカロリーは、意外と簡単に調べることができます。文部科学省が公表している「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に、各食材のカロリーや調理方法によるカロリー変化の計算方法などが記載されているのです。個人店の方でもこの成分表を用いることで、簡単にカロリー計算を行うことができます。

メニューにカロリー表記をすることは、消費者に健康的な食事を取ることへの意識を高める一助になります。カロリー計算は面倒に感じるかもしれませんが、自分を含め、大切な人が健康的に過ごすために必要な取り組みと言えるでしょう。

スマイルケア食品の提供ですべての人に健康を

以前の記事で、子どもたちに食事を提供する取り組み「子ども食堂」を紹介しました。何らかの理由から家庭で十分な栄養を取ることができない子どもたちに栄養バランスの良い食事を提供する取り組みですが、健康的な食事を取ることが難しい人は加齢や障がいなども挙げられます。

以前の記事はこちら⇒SDGsへ飲食業界ができること-目標1.貧困をなくそう-

 

日本は超高齢社会で、2019年の高齢者の総人口に占める割合は28.4%と世界で最も高い割合となっています(出典:総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」)。高齢者は歯の喪失や飲み込む力の低下により、食べたくても硬くて噛めない、うまく飲み込めないといった事情から栄養が偏りがちです。

農林水産省では、噛む力や飲み込む力が低下した方でも効率よくエネルギーを摂取できるように、「スマイルケア食品」というジャンルを提案しています。食材を小さく切ったり、柔らかくしたりして食べやすくし、しっかり栄養を取れるようにしたサポート食です。

栄養不足は免疫力や認知機能が低下すると言われており、健康への影響が大きいです。筋肉量も減少し、転倒して骨折やけがをする可能性が高まります。スマイルケア食品で十分な栄養を取ることができるようになれば、健康の維持につながります。

 

現在、飲食店でスマイルケア食品を提供している店舗は多くありません。ニーズが少ないため事前に用意するのが難しかったり、食材を細かく・柔らかくするといった調理の手間が増えたりすることが要因と考えられますが、どのような方でも外出先で気軽に食事できることこそ、健康的な社会と言えます。よりたくさんの方に料理を楽しんでもらえるように、飲食業界からスマイルケア食品を普及させていきましょう。

日本は他国と比較しても平均寿命が長いと言われていますが、生活習慣病になる方を減らしたり、健康寿命を延ばすことなど、取り組むべき健康問題は多々あります。飲食業界ではメニューのカロリー表記やスマイルケア食品の提供などによって、「すべての人に健康と福祉を」の目標達成に大きく貢献することができます。個々の飲食店が取り組むことで健康的な食生活に対する重要性も広がっていくと思われます。日本の飲食業界から社会を元気にしていきましょう。

 

【関連記事】

SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標1.貧困をなくそうー
SDGs達成に向けて飲食業界ができることー目標2.飢餓をゼロにー

 

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