貧困や飢餓、環境問題などの世界的に取り組むべき課題の解決に向けて制定された国際目標、SDGs(持続可能な開発目標)。2030年の目標達成期限まで10年を切っています。SDGsには計17の目標がありますが、その中に「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」というものがあります。日本は東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の失言を発端に、世界でジェンダー平等に関して遅れをとっている国と認識されてしまいました。この問題は、今や国を挙げて取り組むべき目標となっています。飲食業界ではどのようにこの目標に対応していくべきなのか、考えていきます。

 

「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」とは

目標5は「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」というテーマのもと、「あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する」など9個の指標が設定されています。

 

冒頭で述べたように、日本は世界からジェンダー平等に関して遅れを取っていると認識されてしまいました。世界経済フォーラムが2019年12月に公表した各国の男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数においても、日本は153か国中121位となっており、他国と比較して女性の社会進出が遅れている状況にあると言えます。

 

2018年時点で日本の全就業者における女性の割合は44.2%、管理職は14.9%です(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2019」)。管理職に占める女性の割合はアメリカ、イギリスなどの欧米諸国、シンガポール、フィリピンなどの東南アジア諸国と比較しても20%以上低い割合となっています。

 

飲食業は店舗で働く女性スタッフをよく見かけるなど、他業界よりも比較的女性が活躍している業界ではあります。しかし、厚生労働省の「令和元年度雇用均等基本調査」によると、宿泊業・飲食サービス業における女性管理職の割合は16.9%となっており、各国と比較すると大幅に下回っているのが現状です。

 

少子高齢化が進む日本の経済にとって、経済成長率を維持するためには女性の活躍が必須と言われています。飲食業界でも、女性が活躍できる環境をつくることが必要です。

女性が活躍しやすい職場づくり

日本のジェンダー・ギャップ指数が上がらない要因の一つが、出産や産後の子育てなどで離職する女性が一定数いることが挙げられます。これは退職を迫られたり、復帰するも降格処分を受けたり、育児は女性の仕事という社会認識が依然強い現状など、さまざまな事情によるもので、男性と比べると働き続けることが難しい状態にあると言えます。

 

内閣府の男女共同参画局が公表した「男女共同参画白書 令和2年版」によると、2019年でも「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に女性37.3%、男性49.5%は「賛成」または「どちらかといえば賛成」としており、「子どもができても、ずっと職業を続ける方がよい」と考えるのは女性63.7%、男性58%にとどまっています。これらの価値観や文化的背景などから産休や育休の取得、時短勤務などを行いにくい環境があり、これが女性の社会進出を阻んでいるとも言えるでしょう。

 

実際、「令和2年版厚生労働白書」によると、女性の育児休業取得率は2008年の90.6%をピークに、2018年には82.2%と減っています。一方、男性の育児休業取得率は2018年時点で6.16%を非常に低い割合です。育児は女性が担うべきものという社会的価値観が、まだ蔓延していることが伺えます。

 

しかし、女性の社会進出はジェンダー平等という観点、経済成長の維持からも重要です。企業には産休や育休、時短勤務などの制度を整備し、男女ともに取得しやすい環境をつくることが求められています。

 

また、女性のリーダーの育成も必須です。一般的に女性は男性よりも消費意欲が高いと言われています。日本の経済成長率を維持するためにも、消費の中心となる女性がリーダーとして意見を発することは経営に新たなる視点を取り込めるようになり、経済活動を活発化させる可能性が高いのです。加えて、少子化が進む現代において、人材確保という観点にも大きく寄与できます。飲食企業や個人店においても、女性が活躍する環境をつくることが必要です。

 

男女だけではない、LGBTフレンドリーな企業へ

「ジェンダーの平等」と聞くと、男女差別をなくすことだと考えてしまう方が多いと思いますが、ジェンダーに包括されるのは男性・女性だけではありません。LGBT(※)に代表されるセクシャルマイノリティの方は、学校や職場といった一般社会において差別的な扱いや、限られたサービスしか受けることができないなど、生活をする上で困難を強いられるシーンが多々あります。そのような差別や困難のない多様性を受け入れる社会をつくっていかなくてはいけません。

 

(※)LGBTはLesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)のイニシャルをとった単語。セクシャルマイノリティはこの4つに限らないが、男性・女性以外のジェンダーを持つ人の総称としてLGBTが使われることが多い。

 

具体的に、セクシャルマイノリティの方に対する配慮はどのようなものがあるかというと、飲食店においてはお手洗いが挙げられます。男性用、女性用だけでなく、性別に関係なく誰でも利用できるものを用意することで、セクシャルマイノリティの方も気兼ねなく利用できます。社員やアルバイトだけでなく、来店客に対する配慮にもなります。

 

LGBTへの理解を深める研修を行ったり、パートナーシップ(同姓のカップルにも異性のカップルと同等の権利を与えること)を認め、結婚祝い金やハネムーン休暇などの社内制度の適用を認めるという方法もあります。

 

すべての人にとって居心地の良い店舗づくりをするためにも、セクシャルマイノリティに配慮した取り組みを行いたいですね。

ジェンダーの平等性を意識し社内の制度や環境を変化させることは、女性がより活躍できる社会をつくるだけでなく、セクシャルマイノリティといったすべての人にとって居心地の良い場所をつくることにもつながります。飲食店においてもジェンダー平等に関する知識を共有し、配慮して、スタッフはもちろん、あらゆるお客様にとって心地よい空間を目指しましょう。

 

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