東京、神奈川、埼玉で約50店舗を展開している「とりいちず」という居酒屋チェーンがある。店名どおり、鶏肉メニューに徹していることが特徴だ。「チキンボーン」59円(税抜、以下同)、鶏肉の串焼きは「とり皮」70円から、「むね」「つくね」「レバー」などの定番が99円、さらに単品料理で構成され70~80品目をラインアップしている。中でも目を引くのは鍋メニューの「水炊き」990円である。

 

この商品は居酒屋でも多少アッパーな業態でラインアップされていることから、大衆居酒屋にあるとその存在感が大きい。筆者は昨年の暮に初めて食べたが、ガスコンロに乗せられた一人鍋には水菜、キャベツ、長ネギ、きのこが山盛りになっていて、見るからにヘルシーだ。煮込んでいくことによって白湯スープの中に野菜が溶け込んでいき、食べると滋味が伝わる。価格が値頃なことからリピーターをつかむフックとなっていることだろう。

鶏料理全般をフルにラインアップ。水菜の一人鍋はボリューム、ヘルシー感で人気商品となっている。

客単価4200円の地鶏料理店からスタート

同店を展開しているのは株式会社FS.shake(本社/東京都豊島区、代表/遠藤勇太・冒頭写真)である。

遠藤氏は1983年5月生まれ、島根県安来市出身。調理師専門学校を卒業後料理人となり、千葉に本拠を置く外食企業が東京で展開するオープニングスタッフ募集に応じて、店舗運営の仕組みを体得していった。「とりいちず」の「水炊き」は、これらの店で料理長を務めていた遠藤氏が看板商品として打ち出していたことがベースとなっている。

 

2013年1月、29歳で独立しFS.shakeを設立。社名のFSとは「フードサービス」のこと、shakeとは「震撼させる」という意味で、「飲食業界に革命を起こす」といった想いが込められている。1号店は東京・西新宿の居抜き物件に20坪40席でオープンした。

 

当時、地鶏専門の居酒屋チェーンに勢いがあり、FS.shakeもそのトレンドにあやかった。そしてメインの食材を奈良県産の地鶏「大和肉鶏」として産地直送で使用した。1号店はこの串焼きと水炊きで人気を博すようになった。水炊きは大和肉鶏の鶏ガラで丁寧に白濁したスープを取った。当時の客単価は4200円を維持した。

 

現在の業態になったのは2014年、2号店の関内店(横浜)を出店したことがきっかけである。この店は120席と箱が大きかった。そこで、「4200円の客単価だと客席は埋まらないのでは」と考えて、ブロイラーなどを使いながら2800円あたりの客単価で勝負することを模索した。

 

2015年にオープンした3号店の大井町店(東京)では、生ビール199円を始めた。にわかに顧客が劇的に増えるようになり、生ビールを安く提供する店が一つの潮流となった。以来「とりいちず」では生ビール199円を定着させるようになった。

 

タッチパネルを導入してクレームが劇的に減少

今の客単価は2200円あたり、大衆居酒屋チェーンよりワンランク低く、空白マーケットで顧客をつかんでいる。「水炊き」のスープはメーカーのPBであるが、メーカーから「ラーメン専門チェーン店並みにスープが売れている」と言われるほどの人気商品に育っている。鶏肉は国産とブラジル産を使用、内臓系は国産である。これらで原価率30%となっている。

 

オーダリングはタッチパネルで行っている。これに切り替えたのは2019年の半ば頃のこと。これによってオーダーミスがなくなり、それまでの「呼んでも来ない」「料理が遅い」といったクレームが劇的に減った。

また、タッチパネルにすることによって店舗の管理も効率化した。社員は1店あたり3人体制の店もあれば一人の場合もあり、平均で1.7人となっている。店舗規模は標準化されておらず。大きな店は150席、180席というのがある。小さいところで60席くらい。

標準は80席当たり。客単価を抑えていることから客数を追求している。売上ナンバーワンは中野店で、1、2、3階の3フロア、160席で平常時では1200万円、繁忙月で1300万円当たりとなっている。

 

約50店舗中、路面店は3割程度。路面店は家賃が上がるがその分注目度も上がる。大衆居酒屋チェーンは空中階を狙うところが多いことから、路面店を想定して物件を探すと他社とバッティングすることが少ない。

溝の口駅前(神奈川)の店舗は路面にあり店の特長を大胆にアピールしている。

 

デリバリーによってリアル店舗のクオリティがアップ

さて、緊急事態宣言が発出中であるが、「とりいちず」では商機に対する大きな学びを得たと認識している。それはテイクアウトとデリバリーで売上をつくることができたこと。さらに、これらの商品がリアル店舗のクオリティアップにつながっている。これらは、路面店をメインに食品サンプルを置いてアピールするようにしている。

 

リアル店舗の看板商品である「水炊き」をデリバリー用に商品化した。生肉を運ぶことはできないことから、肉は店内で煮込み、それをスープと一緒に袋に入れてセッティングする。野菜は別に用意する。デリバリーの際にはこれにアルミ鍋を付けて、家で最終仕上げをしてもらう、という仕組みである。ボリュームは店と同じ、価格は1800円(税込)。

 

デリバリーによってリアル店舗のクオリティアップにつながることに気付いたのは、Uber Eatsや出前館のデリバリープラットホームでは、1個の商品に対して口コミがたくさん集まってくることから。デリバリー用の「水炊き」の鶏肉と野菜のボリューム配分はリアル店舗のものと同じ内容にしているが、「肉が少ない」「野菜が少ない」という口コミが上がると、これらをリアル店舗での調整に役立てるようにしている。こうすることによってリアル店舗にやって来る顧客の満足度が上がってきているという肌感覚がある。

 

同社の2019年12月の年商は27億8000万円だが、新型コロナ禍となりテイクアウト・デリバリーは3億円を売り上げている。年商の1割がテイクアウト・デリバリーということだ。これが緊急事態宣言の最中では、その1.3倍を売るようになった。リアル店舗の営業が限られている中で大きく役立っている。

 

また、新型コロナ禍で顧客は以前に増して目的を持って来店していることを実感している。そこでデリバリープラットホームの口コミを生かして、「とりいちず」を鶏料理の専門店としてより磨いて行くことを心掛けている。

池袋の店舗は地下1階にあるが、緊急事態宣言で周辺の居酒屋が休業している中で営業、店の灯りが目立つ。

 

出店を考えずに新業態のアイデアを練り込む

また新型コロナ禍では、都心部の店舗に対して、都心部以外の店舗の落ち込みが比較的に少ない。それは、都心に勤務している人が明らかにリモートワークにシフトしているからだ。新型コロナ禍になるまでは、都心部の店舗は、家賃が高い、土日が効かないというデメリットがあったものの、宴会の売上が多いという特長があった。しかしながら、それがなくなった分マイナス要素が大きく顕在化している。

 

そこで遠藤氏は、「しばらくは都心で出店をしない」と決意している。2017年以降は年間約10店舗のペースで出店してきたが、次の出店は新型コロナが収まれば今年の夏あたりからと想定している。

 

出店を止めている現在、新業態の検討に余念がない。それは「とりいちず」とはまったく異なり、食事に力を入れて、客単価を上げることを念頭に置いている。ざっくりとしたイメージは、洋食の店で住宅街にあってランチの売上が期待できる、というものだ。

 

遠藤氏は、「2021年は出店するというスタンスではなく、新業態に取り組んでFS.shakeの事業領域を充実させる年」と語る。新型コロナ禍は飲食業の経営にマイナス面ばかりを持ち込んだのではなく、新しい改革のヒントをもたらしてくれたようだ。

新規オープンのキャンペーンでは、皮串をはじめとした人気定番を価格訴求している。

店舗情報

店舗名 とりいちず
エリア 中野
URL http://www.fs-shake.com/

運営企業情報

企業名 株式会社FS.shake
URL http://www.fs-shake.com/

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