「角ハイボール50円」「生ビール280円」「ドリンク全品99円」「宴会コース(3時間飲み放題付き)2000円」……このような圧倒的低価格を極彩色の看板に表示しているのが「居酒屋それゆけ鶏ヤロー」だ(以下、鶏ヤロー。他に「鮭ヤロー」もある)。独協大学前、北越谷、草加、竹ノ塚、北千住という具合に東武線沿線が目立つが、西千葉、武蔵境など広域に及んでいる。展開しているのは株式会社遊ダイニングプロジェクト(本社/千葉・流山市、代表取締役社長/和田成司)である。会社設立は2009年10月で、今年5月には直営10店舗、FC・業務委託など14店舗、計24店舗の陣容が見えている。

株式会社遊ダイニングプロジェクト、代表取締役社長の和田成司氏

同社代表取締役社長の和田成司氏は1982年12月生まれ、千葉県野田市で育つ。
飲食業に進むことになったのは高校生時代3年間焼肉店でアルバイトをしたことがきっかけだ。当時の店長より懇意にされ、同じ高校生アルバイトとも仲良く、とても楽しく充実した時間を過ごしたという。その同僚とは「将来は一緒に焼肉店を経営しよう」と誓い合っていたが、その彼はオートバイの事故で突然亡くなった。

彼は和田氏にとって「永遠のパートナー」の存在であると認めていることから、起業に際して彼の名前である「裕太」から同じ音の「遊」の字を社名に付け「ゆうたing=遊ダイニング」和田氏が外食企業の「一家ダイニングプロジェクト」をリスペクトしていることから、それにあやかって「遊ダイニングプロジェクト」としているのだという。

独立起業した焼肉店は幸先のいいスタートだったが……

和田氏が鶏ヤローに行きつくまでの経緯を紹介しよう。
和田氏は高校を卒業してから調理師専門学校に進み、卒業後は、東京のフレンチに入る。その後、千葉・流山市にあった焼肉の会社に就職し、21歳から27歳まで勤務した。そこでは店長からマネージャーまで経験した。

その後独立起業し、2009年10月柏駅西口の雑居ビルの中で「焼肉牛ヒレ」をオープン。焼肉店を始めた。25坪、家賃25万円、月商400万円あたりで「そこそこ繁盛した」(和田氏)幸先の良いスタートとなった。

2号店は東京・亀有に焼肉チェーンの居抜き物件に出店したが、店長に売上金を持ち逃げされるなど不運が続き3カ月で撤退した。
この失敗がきっかけとなり「居酒屋をやってみたい」と思うようになった。その理由は、「居酒屋の居抜き物件が多く、ロースターが必要ない」ということであった。

そして、千葉・市川市本八幡に居酒屋の物件を見つけ初の居酒屋業態である「鮭ヤロー」をオープンする。店名の由来は「サーモンの刺し身」をメインにしたからだ。「良いアイデア」と思ったが、この商品では集客のフックが弱い。そこで「30分299円飲み放題」を取り入れた。売上150万円であったものがこれによって250万円のレベルとなった。家賃が27万円で、自分がシフトに入ることで僅かであるが利益が出るようになった。しかしながら、この状態では借り入れができない。「前進も後退もできない状態」と和田氏は当時を振り返る。

業務委託をした店で集客のための策を練る

この時、かつて勤務していた焼肉の会社の社長に電話を入れ、自分の窮状を語り相談した。
すると同社の取引業者が経営している居酒屋が苦戦していて、「和田君に店の運営をしてもらえないか、と言っていたよ」と言う。
そこで、さっそくその会社の社長に電話を入れて、翌日松原団地(現・獨協大学前)にあるその店を訪ねた。
この近くには、低価格均一の焼鳥居酒屋チェーンがあり、その中でも上位の繁盛店となっていた。

この時、現在同社の取締役となっている邨井裕己氏が頼れる人物として一緒に働いていた。そこで邨井氏とその店に対抗するべく、集客力をつけるための相談を重ねた。
「どうすれば店がお客様でパンパンとなるか」
「それはタダでしょう」
「タダでは損する」――ということで、「ハイボール50円」ということを打ち出した。

飲み放題は品揃え豊富で、圧倒的な低価格だ

こうして徹底的な低価格路線を行おうと考えた。周囲からは「低価格路線はおしまいだ」と言われたが、「低価格だとしても、客単価2000円になればいい」ということを目標とした。
そして、冒頭の打ち出し方を行った。こうして鶏ヤローの原型がスタートした。2014年の2月4日のことである。

「激安」を打ち出したことでオープン初日に大行列

オープン初日のこの日は朝から雪が降っていた。
その天気模様を見ていて「これまで1勝2敗、俺の人生はついていないな」と思ったという。
しかし、オープン1時間前の午後4時を過ぎたあたりから、店の前に行列ができるようになった。和田氏にとって、それまで「勝ちクセ」がなかったので、この光景には大変驚いたという。
同店のスタッフは、高齢の女性1人、女子大生1人、そして邨井氏と和田氏の4人であった。この体制にしたのは、「求人情報誌に掲載するお金がなくて、また店をオープンしたところでお客様がたくさんくることはないだろう」ということで、4人で十分だと考えていたという。オープンに際して、チラシ配りをしていないし、看板は文房具店の拡大コピーでまかなった。
しかしながら、その日のお客様は次から次とやって来た。和田氏はチャーハンを炒めていたのだが、うれし泣きでむせんでいたという。
店内はお客様で満席となり、4人のオペレーションでは営業不能の状態になった。6時を回って、和田氏は「今日の営業は止めよう」と考えた。
そして、フロアに出でこのような行動を取った。
「みなさん、本日のお代は結構ですので、お帰りください」
お客様が帰ってから、4人で缶ビールを飲みながら、「自分たちはこれからすごいことになるかもしれない」と話したという。

お通しは店内で揚げた「えびせん」の食べ放題で380円

松原団地(獨協大学前)はベッドタウンであるが学生街でもある。学生の場合、徳のある情報はSNSで拡散することから、チラシを配りよりも、徳のある情報が強烈であればあるほど拡散するスピードが速い。
そこでオープン前に店頭に打ち出した激安の内容が地元の学生たちに知られたようだ。この月に700万円を売り上げた。人生初の大きなキャッシュである

「唐揚げ食べ放題」に終了時間を設けて原価率を調整

売上があったものの、この時の原価率は70%。FLで100%となっていた。その原因は「唐揚げ食べ放題」であった。このメニューのために、鶏肉を1日70㎏ほど唐揚げにしていた。
唐揚げを揚げていたのは70歳を越えた女性スタッフである。
ある日、満席営業中の夜8時ごろ、この女性スタッフが和田氏に困った様子で話し掛けてきた。
「鶏肉がなくなったのに、オーダーがどんどん入って来る。オーダーの機械を止めてほしい」
和田氏も忙しく、その対応をすることができずにいた。他のスタッフも同様であった。
業を煮やしたその高齢の女性スタッフは、満席のフロアに一人で立った、大きな声でこのように話した。
「本日の唐揚げは終了です!」
すると満席の学生たちから、「よっしゃー」という歓声と拍手が起きた。
その時、和田氏は「唐揚げ食べ放題終了」ということがあっていいのだと気付いたという。
その日以来、同店は頃合いをみて「唐揚げ食べ放題終了」を宣言するようになった。そして、これを定例化することによって、同店の原価率は30%に収まるようになっていった(「唐揚げ食べ放題」は現在定例化していない)。

現在のフードメニューは、フライドポテト食べ放題(19時まで)199円、鶏の串が1本120~150円、298円(クイックメニューなど)、499円(サラダ、鉄板料理など)のプライスラインにしている。

学生に受けることから大学のある駅近くにオープン

このような価格構成で果たして利益が出るのだろうか。
和田氏によると、一般的な売上構成比をフード70%(原価率50%)、ドリンク30%(原価率20%)と想定して、これを逆のフード30%(原価率20%)、ドリンク70%(原価率50%)にしているのだという。
また、お通し代380円が存在する。このお通しは店内で揚げるエビ煎餅、ないしは枝豆のどちらかを選んでもらう。エビ煎餅は駄菓子屋にあるような大きな透明の入れ物に入れられて食べ放題となっており、「鶏ヤロー」の名物となっている。いかにも“利益の基礎票”と言える存在だ。
これらの商品は、計画的に導入していったのではなく、「狙って当たったものは何もないが、営業しながら取り組んでいって、評判となったものを取り入れて行った」(和田氏)という。

この松原団地(獨協大学前)の店で上手くいったことから、「大学のある駅」に注目するようになった。この後、千葉大学のある西千葉駅、FC店であるが早稲田大学の正門横でも営業している。

大学のある駅近くに出店し、若者客でにぎわっている

FCは北越谷(文教大学近く)が始まり、現在10店舗となっている。
FC加盟条件は、加盟金50円、ロイヤリティ毎月50円。食材は配送が同じルートであれば同じ業者から仕入れるようにしていて、そうでない場合は独自に仕入れてもらう。

一般的なものと比べると著しく低いが、これは「これまでのFCの条件ではハッピーになれない」と感じていたからだ。そして、本部と加盟店とは「教え合う」関係性であるべきだと考えている。
FCビジネスよる利益は、鶏ヤローはアルコールが大量に売れる業態であることから酒類メーカーや業者からの協賛金で上げている。「激安」の業態であるが、客単価2000円弱となっている。フードとドリンクの原価のバランスに加えて利益体質が見事に整っている。

このような鶏ヤローのユニークな売り方が評判を呼んで、FCの加盟希望の会社が続々と増えており、2019年には20店舗の増加を想定している。しばらくの間は現状の鶏ヤローの展開を進めていく方針で、新業態については検討していないという。

店舗情報

店舗名 居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!
エリア 獨協大学前

運営企業情報

企業名 株式会社遊ダイニングプロジェクト
URL http://www.yuudining.com

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