「チンチロリン」とは丼の中にサイコロ3個を転がす賭け事であるが、これがいつの間にか大衆酒場で取り入れられるようになった。サイコロは2個になり、ゾロ目(同じ数)が無料、偶数で半額、奇数の場合はメガジョッキで倍額になるというものだ。無料や半額はもちろんうれしいが、2倍の価格になったとしてもメガジョッキで飲みたいということで奇数が出ることを天にお願いをする人もいる。所詮普通のジョッキで2杯飲めば価格は2倍になるのだから。

元祖「チンチロリン」の大衆酒場

この大衆酒場でのチンチロリンを考え出した人物は大衆鳥酒場「鳥椿」を展開する株式会社TKG代表取締役の北野達巳氏である。チンチロリンが誕生した経緯はこうだ。

現在板橋区大山にある「鳥椿」の前身の店「ひよっこ」でのこと。2010年の暮れ、北野氏は前職でその店を運営していた。ドリンクの品揃えはあったもののビールしか売れなかった。
客数も少ないことから集客のためにビールを割引販売すると、お客様はビールを飲んだら帰るということが常であった。

そのような中で、北野氏はハイボールブームをつくったメーカーの人々と交流があり、ハイボールの売り方にも取り組んでいた。漬け込みハイボールもいち早く手掛けたが、お客様の反響は今一つ弱かった。

「ジャンケンゲーム」がチンチロリンの原点

そこで、ある焼肉店でのジャンケンゲームの話を聞きつけた。それは、お客様と従業員がジャンケンをして、お客様が勝つとアイスクリームを無料で提供するというもの。「それは面白い」とそのゲームがハイボールの売り方に取り入れられないものかと考えた。

株式会社TKG、代表の北野達巳氏

ジャンケンだと人の感情が入るので、それに代わるものとしてサイコロが思い浮かんだ。本来のチンチロリンのサイコロは3個だが「酔っぱらってくるとサイコロ3個では覚えきれない」と考えて、サイコロは2個にした。

2つのサイコロで、「勝ち」「負け」「あいこ」にしたかったこと、またメーカーサイドでメガジョッキをアピールしていたことから、その容器も取り入れようと考え、ゾロ目無料、偶数で半額、奇数で倍増(メガジョッキ)で価格2倍というルールにした。

チンチロリンは大山のお客様に大いに受けて、同店の客数は倍増した。2011年5月、北野氏はこのタイミングで大山店を引き継いだ。
「チンチロリンは、実は店の生産性を高めているのです。倍増倍額になった場合は、オペレーションが簡略化して、倍の金額をいただくことができて、しかもお客様から喜ばれる」
北野氏はこう語るが、このWin-Winの仕組みは同業の人たちからにわかに注目されるようになった。

その後幾つかのチェーン店が、このゲームを店に取り入れたいということで北野氏の元に挨拶に来るようになった。実に礼儀正しい人たちである。このような形で「鳥椿」が生み出したチンチロリンは今や大衆酒場の店内ゲームの定番となった。

26歳でオリジナル業態の店長に就任

北野氏は1977年4月生まれ、千葉県茂原市出身。社会人は内装関連の問屋に就職したことからスタートした。ここで3年間従事して、衣食住の分野で生きて行こうと、「食」の分野に進むことにした。

まず、池袋の中華料理店でアルバイト。ここには1年半在籍した。次に、新宿の大衆酒場のFC店でアルバイトをした。フランチャイジーの本業はビル管理業であった。同社ではオリジナル業態を立ち上げることになり、酒類メーカーの提案を基に豚肉料理専門店をオープン。北野氏は当時26歳で同店の店長に就任した。2004年のことである。この会社には7年間在籍して管理職にも就いた。

そこ後、知人に誘われて飲食業の会社に転職。2010年9月北野氏はこの会社で「鳥椿」の前身となる「ひよっこ」を大山(板橋区)で立ち上げた。コンセプトは前職の豚肉料理専門店と同様で、食材を豚から鶏に変えたものであった。

2011年3月の東日本大震災がきっかけとなり、北野氏はその会社を辞めることになった。
そして2011年5月に名義変更した「ひよっこ」大山店で独立開業した。

前職を辞めた時に同社の従業員が北野氏と共に働きたいと付いてきたことから、事業としても基盤を固めるために、店舗展開を急ぐことになった。
2011年11月「鳥椿」鶯谷朝顔通り店をオープン。当初7坪でオープンし、途中改装して8坪15席となった。

1日売上10万円で利益が十分に出る経営体質

同店は元々「鳥椿」という店名で16年半の間焼鳥店を経営していており、そのままの店名を引き継いだ。
北野氏は、店舗展開をする上で物件を確保することの方が先決だと考えていた。いざ店名を考える段階になって、「前の店の『鳥椿』っていい店名じゃないか」と思い、そのまま継続することにした。看板を付け替えることもないので大家さんからも歓迎されたという。

雷門一丁目店の店内。居酒屋の居抜き物件に出店した

ここの店はカウンターが中心となっていたことから、メニューをお一人様用にスモールポーションかつ低価格に設定した。ここで今日の“ネオ大衆酒場”「鳥椿」のエッセンスが醸成された。お客様を厚切りのハムカツで驚かせ、チューリップで懐かしさを引き出し、ポテトサラダに振りかけとソースをかけて食べることを提案するなど、全く気どりのないメニューで非日常感を生み出している。

2012年6月に雷門一丁目店をオープン。13坪28席、個人経営の居酒屋であった。メニューはテーブル席があることからお一人様だけではなくグループ客も多くなることからメニュー変更を検討したが、鶯谷朝顔通り店のものを踏襲した。

2013年8月、鶯谷朝顔通り店がテレビ東京の『孤独のグルメ』に取り上げられた。テレビの効果は絶大なもので、放映された翌日にオープン前からお客様が行列になっていた。
そこで売上が伸びたかというと、同店は「売り切れ閉店」という形態をとっていたので、閉店時間が早まることになった。開店は10時だが、お客様が多くなると夜営業することなく15時ごろには閉店することになる。現在でも土日には15時、16時に閉店している。

北野氏はこう語る。
「お客様が増えたのなら営業中に仕込み作業をすればいいものですが、あらかじめ1日の売上予算を決めていて、それが達成出来たらそれ以上のことを行なわないという方針です」
1日の売上予算は10万円として。それで十分に利益が出るようにコントロールしている。
このように営業を安定させていることから、年間を通しての営業状態を見通すことができている。12月に売上が爆発するのでそれに向けて体制を整えるということはしない。
一方、日数の少ない2月には売上が下がるということはある。

社員もアルバイトも元々「鳥椿」のお客様

「鳥椿」ではFC展開も行っている。まず、直営の上板橋店をFCに切り替え、深川森下店、築地店と続いた。
加盟店となるオーナーの条件は「鳥椿ファン」であること。北野氏が築いてきた独特の空気感に共感していることである。
店舗規模は15坪までで、ロイヤリティは10坪未満が5万円、10坪以上が10万円となっている。肉と酒類は指定業者から仕入れて、それ以外は各自が仕入れることになる。いわゆる暖簾貸である。「本部の管理は緩いので、加盟店オーナーにとっては自由度が高い」(北野氏)という。

「鳥椿」は現在直営3店、FC3店となっていて、北野氏は直営店の出店を模索している。
「ただし『鳥椿』は家賃が高くてもいいという業態ではありません。駅近くの路面という条件で、慎重に探しています。家賃は坪2万5000円まで。これまで、定休日ありと定休日なしと実験してきましたが、それは立地と家賃によって変えればいいのかなと思っています。家賃はこれまでより落ち着いてきたような感じがしています」
日々物件調査に真摯に取り組んでいる様子が伝わって来る。

「鳥椿」の原価率は30%、客単価2100円。社員もアルバイトも元々「鳥椿」のお客様で、「鳥椿で働きたい」ということで入って来るという。だから、同社ではこれまで上板橋店のオープン以外では求人媒体を使用したことがない。アルバイトは潤沢にいて、シフトの管理は緩くして、アルバイトが働きたい時に入ってもらうという。そこでFLを60%以内に収めることが現状の課題となっている。

フードメニューのデリバリーを宅配の業者に委託して行っている

これからの店舗展開について北野氏はこう語る。
「過去に直営10店舗を目指していましたが、自分1人で管理できるのは5店舗までかなと思っています。『一緒に経営したい』という人が現れたら、店舗数を増やすことができるでしょう。現状、当社の社員は独立心が旺盛で熱心に働いています。私は既存店を譲っていくのはなく新規出店でゼロからスタートしてもらいたい。独立開業の応援はしていきます」

「振り返ると、自分が独立したばかりの2011年あたりは飲食の業界はどん底でした。そんな状況の中でチンチロリンの音は少しずつ明るさを取り戻す役目も果たしたのではないでしょうか」

北野氏が醸し出す独特の空気感とは自然体である。お客様の心を和ませるチンチロリンは、ここで記したような北野氏のマインドがもたらしたものだ。

店舗情報

店舗名 鳥椿
エリア 浅草

運営企業情報

企業名 株式会社TKG
URL http://apmb.jp/tkg/

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