拡散力が高いため、臨時休業や新メニューの告知などお客様とのコミュニケーションツールとして利用している飲食店も多いTwitter。アカウント名に「SDGs(※1)推進の店」と記載し、積極的にSDGs達成に向けてさまざまな取り組みを行っている飲食店があります。それが、神奈川・秦野市にあるラーメン店「味乃大久保」です。

今回は、同店の取り組みに関して、代表の小野瀬幸弘氏にお話をお伺いいたしました。

(※1)SDGs(持続可能な開発目標)とは、気候問題や貧困、ジェンダー平等などの国際的に取り組む必要がある課題に関して、2030年を達成期限として定められた国際目標です。

「味乃大久保」代表小野瀬幸弘氏

―「SDGs推進の店」とのことですが、SDGsに関心を持たれたのはいつ頃だったのでしょうか?

初めてSDGsを知ったのは、1年ほど前です。それ以前から環境問題への関心は非常に高く、5年程前から店舗運営での配慮や、地元・秦野で「HADANO ECO PROJECT」というグループを1年2カ月ほど前に立ち上げるなど、さまざまな取り組みを行っていました。当時は、SDGsについて知らなかったので、環境問題にアプローチすることが目的でした。

SDGsを初めて聞いたのは、HADANO ECO PROJECTの活動で秦野市役所に相談に行く機会があり、担当の保全課の方に教えていただいた時です。

SDGsについて知ると、自身が行っていることや考えることとの関連性を強く感じました。

 

―HADANO ECO PROJECTでは、どのような活動をされたのですか?

最初は、Facebookでコミュニティをつくり、身の回りで簡単にできる環境問題に配慮した行動を共有することから始めました。現在は184人ほどのメンバーがいます。

具体的には、グループ発足時はまだ無料だったプラスチック袋の利用削減を目的に、エコバッグの作成・使用の推進を行いました。秦野市内にあるリサイクル繊維工場の見学なども行い、土に還ることができる生地でエコバッグを作りました。

 

―ご自身が運営する飲食店でも、環境に配慮した取り組みを行っていたのでしょうか?

はい、そもそも「HADANO ECO PROJECT」を開始することとなったきっかけは、飲食店運営の中で環境に配慮する必要性を感じたことでした。

最初は、店舗で使用していた割り箸を毎日大量に捨てることに対して、「もったいない」という気持ちが沸き起こったためです。すぐに、割り箸から洗って繰り返し使える箸に変更し、紙おしぼりも廃止。少しではありますが、ごみが減ったことで処理代のコストが減り、環境にも配慮できるため、やって良かったと感じました。次第に他にもできることがあるのではないかと考え、取り組みを強化するようになりました。

 

―具体的に、どのようなことをされたのか教えてください。

ストローをプラスチックから紙製に、さらには草ストローへと変更しました。

環境問題に関心を持っていると、どんどん情報が入ってくるようになるのです。紙製ストローに変更してから、草ストローというものを知りました。草ストローは自然由来の製品で、自然の力だけで土に還るだけでなく、家畜の飼料や農場の堆肥として再利用することができます。

加えて、当店で使用している草ストローの生産企業は、環境への配慮だけでなく、原材料の生産地であるベトナムの農村に新たな雇用を生み出し、持続可能な農村開発にも取り組んでいます。環境や社会にとっても優しいことを知り、導入を決定しました。

 

また、当店でも新型コロナの流行によりテイクアウトを開始したのですが、容器はプラスチックではなく、できるだけ紙製のものにしています。全体の約8割が紙製です。

プラスチック袋もごみとして残りにくく、環境に優しいバイオマスプラスチック25%(※2)のものにしています。

(※2)バイオマスプラスチックとは、再生可能な動植物や農産物などから製造されたプラスチックのこと。

プラスチックと環境問題の関係性について詳しくはこちら⇒SDGs達成にむけて飲食業界ができること-目標12.つくる責任つかう責任-

「味乃大久保」では、環境にも社会にも優しい草ストローを利用している

―エコストローや紙製容器への変更は、コストがかさんだのではないですか?

確かに、一つ一つの単価は上がります。ですが、工夫をすることで運営に負担をかけることなく、導入できています。例えば、テイクアウト容器に関しては販売価格を上げましたが、お客様にも納得していただけるように、環境に配慮する目的で紙製容器に変更したこと、それにより原価があがる旨の告知を行ったとことろ、注文量は以前と変わりませんでした。

また、ストローは全員にお渡ししていた以前とは異なり、希望者のみ提供する形に変更しました。「ドリンクを購入すると付いてくるため使用していただけで、実際には必要ない」という方も多く、提供する数が格段に減りました。仕入れの単価は上がりましたが、ストローにかかる全体的なコストは下げることができました。

工夫の仕方次第で、環境にも、お店の経営にもプラスにすることができるのです。飲食店だからこその発信力もあると私は考えているので、積極的に取り組まない手はないと思っています。

テイクアウト時に使用する紙製容器

―飲食店の発信力とはどういうことですか? 具体的に教えてください。

飲食店は年齢・職業問わず、さまざまな方が訪れる非常に生活に密接した場所です。飲食店で見かけたことをきっかけに、あまり環境問題に興味がなかった方にも意識してもらえるようになれば、と思っています。

そういう意味では、草ストローはお客様の意識改革に貢献していると考えています。草ストローは、一見で素材が分かりません。プラスチックや紙と異なることは分かりますが、何から作られているのか疑問に思い、興味を示してくださるお客様が多いのです。レジ横で販売しているので、お支払い時に聞いてくれる方もいます。草ストローの環境や社会へのメリットなどを、お話させていただいています。

「家族や会社でもみんなで使ってみるね」とご購入されるお客様がいらっしゃるため、環境問題について考えるきっかけが飲食店から広まっていることを実感できます。

 

―その他に、SDGsに関連した取り組みはされていますか?

2021年2月からフードバンク(※3)の拠点としての活動を開始しました。知人がフードバンクの活動を広めようとしており、渋沢ブランチ(枝分かれ、支店の意味)として当店周辺エリアを担当しないかと声を掛けてくれたのです。

(※3)フードバンクとは、企業や家庭で余った食料品を児童養護施設などの団体、一人親世帯といった、その日の食事を満足に取ることが難しい方に無償で提供する取り組み。

 

これまでも食品ロスには関心があり、食材が無駄にならないような工夫をしていました。下処理では複数の切り方をしてさまざまな用途に使用できるようにしたり、それに合わせてメニューも同じ食材を複数の料理で使い回せる構成にしたりしました。

 

友人が担当する地域は学生が多く、新型コロナの影響でアルバイトができなくなったり、家族からの仕送りなどが減ったりした方をメインに食材の提供を行っていました。私が店舗を構える渋沢地域においても、困っている方はたくさんいるだろうとフードバンクへの参加を決めました

秦野市のFacebookグループで告知したり、地方紙に掲載したりしたおかげで、私の知り合いだけではなく、初めましての方もたくさん食料を提供してくれました。2月に開始し、これまで2回配布を行ったのですが、一人親家庭などを中心に1回目は6家庭、2回目は8家庭に提供させていただきました。お子さまの人数、年齢、前回喜んでいた食材など、それぞれのご家庭に合わせて集まったものを仕分けてお渡ししています。1家庭で、段ボール1箱満杯になるくらいの量をご提供しています。

フードバンクについて詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標1.貧困をなくそうー

各家庭の事情に合わせて食料品を配布

―開始されてみていかがですか?

例えば、農家の方が通常であれば廃棄になる小さい玉ねぎなどの食材を集めて持ってきてくれたり、自宅にある食料品を持参いただいたり、食品ロス削減に貢献できています。中には、近所のスーパーマーケットで購入してまで提供してくださる方もいました。

寄付してくれる方、何度も心からの感謝を述べながら食料品を受け取っていく方の優しさに触れて、毎回とても心が温かくなります。

毎月2週目に配布しているのですが、事前に受け取り日を確認し、卵などの生鮮食品も併せてお渡しするようにしています。生鮮食品は購入するのですが、費用は寄付で集まった文房具などの食料品以外を店舗で販売し、その売上で賄っています。

食品ロスを防ぐことに加え、誰かの助けになれていることを実感できる素晴らしい取り組みだと思います。

食品ロスについて詳しくはこちら⇒SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標2.飢餓をゼロにー

多くの食料が同店に集まった

―今後はどのような展開をお考えですか?

現在は、渋沢ブランチを含めて秦野市内に3つの拠点がありますが、もっとブランチを増やし、フードバンクの活動を広げていきたいと考えています。

例えば、当店までは少し距離があるため食料品を持参しにくいという方でも、近所なら気軽に寄付できると思うのです。その方が自らフードバンクの活動を行ってくれると、さらに活動が広がるので、それが理想ではあります。仕事や育児などの事情から寄付はできるけど活動に参加することはできないという方ももちろんいらっしゃるので、各所で集まった食料品をまとめて私のところに持って来ていただいてもいいです。

ブランチをより地元に浸透できるように細かく増やすことができれば、地域の多くの方が参加しやすくなります。

受け取りを希望するご家庭も同じです。当店までは来れないということでしたら、近くの知り合いの方から受け取ればいいのです。そうすれば、食品ロス削減と誰かへの助けを、地域全体で取り組んでいくことができると思っています。当店から活動を広げ、渋沢エリアをもっと人が人を思うコミュニティにしていきたいです。

 

【関連記事】

SDGs達成に向けて飲食業界ができることー目標2.飢餓をゼロにー
SDGs達成にむけて飲食業界ができること-目標12.つくる責任つかう責任-

店舗情報

店舗名 味乃大久保

運営企業情報

企業名 味乃大久保
URL https://twitter.com/ajinookubo

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