コロナ禍によるテレワークの導入や、社会インフラといった生活のさまざまなシーンのIT化、東京五輪をきっかけにジェンダー平等の推進など、今、SDGs(貧困や飢餓、環境問題など、国際的に取り組む必要がある課題について定められた国際目標)やサステナビリティ(持続可能性)が注目されています。その波は当然、飲食業界にも訪れています。

今回は、大阪で社会に優しい経営を行う「海鮮居酒屋 てつたろう」を紹介します。障がい者雇用や生活困窮者へのお弁当配布など、SDGs達成に貢献する取り組みを積極的に行っている同店について、運営する株式会社フォーシックスの代表取締役 柳川誉之氏(冒頭写真右)にお話をお伺いいたしました。

 

―社会への配慮を行うようになったきっかけを教えてください。

今思うと、以前私がカフェを経営していたときのある出来事がきっかけだったのかもしれない、と感じます。カフェの運営でお付き合いのあった業者さんから、利益を追求するあまり当店に対して無常な対応をされたのです。

そこで、社会が何だかおかしい、と感じたのを覚えています。どんな商売も利益をただ追い求めればいいのではなく、社会全体の一部であるという意識を一人一人が持つ必要があると感じました。みんなが全体によって生かされている、社会の中で生きているのです。

 

―社会の中で生きる意義について、意識されるようになったということでしょうか?

そうですね、徐々に自らのことだけを考えるのではなく、社会の中で周囲にも配慮し、支え合っていく必要があると強く感じるようになりました。障がいについての勉強なども始めて、2015年8月からは障がい者雇用を積極的に行っています。よく居酒屋で一緒に働くのは難しくないかと言われることがありますが、そんなことはありません。特別な設備を用意する必要はないですし、スタッフ一人一人、それぞれが理解しあえば問題は発生しないです。

 

―それが難しく、なかなか障がい者雇用に踏み切れないという経営者様も多いと思います。一人一人の理解を深めるために、どのようなことをされたのですか?

雇用を開始する前にアルバイトスタッフを含めて全員と面談をしました。一人ずつ2時間ほど、全員が納得できるように、とことん話し合ったのです。

雇用した障がい者の方を“一緒に店を運営する仲間”として受け入れるのが難しい人もいるのではないかと考えたため、全スタッフがきちんと理解できるように障がいとは何なのかについてじっくり伝えました。人間誰しも個性があって、苦手なことがあります。障がいを持っているかどうかは関係ないのです。苦手なことは、みんなが理解して、協力して助け合えばいいだけです。特段フィルターをかけて考える必要はない、ということです。

40人ほどのスタッフがいたのですが、「自分の身の周りにも障がいを持った人がおり、今回の雇用はとてもうれしいことだ」と話をしてくれた人や、感動して号泣したスタッフも2人ほどいました。

 

―他にも何か取り組まれたことはありますか?

コロナ禍に無償で食事の提供を行いました。飲食店は2021年4月時点でも人口の多い都心部を中心に時短営業が求められ、私を含めた飲食業界の経営者は未曽有の出来事に、厳しい状況に立たされています。

自治体などによる一時支援金といった補助で目の前にお金があっても、経営者にとってそれは店舗の賃料、スタッフの給料を含めた必要経費となるため、自由に使えるお金ではありません。一見大丈夫そうに見えても、実は多額の借金を抱えることになっているなど、精神的に苦しい状況にある人は多いです。

そのような状況から死を選んでしまう方もいます。「死ぬことを選んでほしくない、生き続けてほしい」という思いを込めて、職を失った、仕事が激減したという困っている方々に「てつたろう」にて無料で食事を提供することにしました。お店に来れば私やスタッフがいます。一人ではないことで、少しでも気持ちが明るくなればとも思いました。

 

「誰かの助けになりたい、支えになりたい」という想いを込めて、1回目の緊急事態宣言が発令してからすぐの2020年4月に食事の無料提供を行うことを、上記で述べたようなメッセージとともにSNSで発信しました。

1日もたたないうちに100件以上のシェアがありました。私の考えに共感してくれる方が大勢おり、わざわざ連絡してくれる方もいました。

 

―そうなのですね。どのような連絡があったのですか?

ある経営者の方から、「このような前代未聞の状況でも周りを考えて行動していることに感動した。何かできれば」と連絡があり、クラウドファンディングによる資金集めを提案してくれました。早速、コロナ禍で職を失った方や、それ以前から路上生活をしている方に当店のお弁当を届けることを目的とした資金集めをクラウドファンディングで実施。

開始2日目で目標だった150万円に達したため、第2弾も行い、合わせて300万円以上の支援金が集まりました。ご支援いただいた方のおかげで、養護施設退所者や路上生活の方々に、お弁当や店内での飲食を提供することができました。

栄養バランスを考えたおいしいお弁当を配布した

―配布されてみていかがでしたか?

当初はNPO法人を通じて当店で作ったお弁当を配布していたのですが、次第に直接お渡ししたいと思うようになり私も参加するように。中には、「正直もう生きていたくないとさえ思っていたけど、『てつたろう』のお弁当のおかげで生きる希望を持てるようになった」という声を掛けてくれる方もいました。

お弁当を受け取った方からは温かい感想が多数寄せられている

―まさにSDGs達成につながる素晴らしい取り組みです。SDGsに関して、何か意識されていることはありますか?

最初に言ったように、一人一人が社会の一部だということを意識して行動することが必要ですが、SDGsはそのとっかかりになると思っています。全部で17の目標がありますが、紐解いていくとすべての目標が個人に関係あるものなのです。特に飲食店はSDGsにも深く貢献できる場所だと考えています。

 

―飲食店がSDGsに深く貢献できる場所とは、どういうことでしょうか?

大手企業が社会貢献やSDGsに向けた取り組みを行っていますよね。ですが、それぞれ意識をもって動けば、小さな地元の飲食店の方が大きなうねりになっていくと思うのです。

その大きなうねりになることを願って、近々、「イーデリプロジェクト」を始動する予定です。飲食店が運営を持続させていくことと、生活に困っている方を助けることにつながるプロジェクトで、サブスクリプション制(※)を導入しています。

ユーザーは月額3,000円、5,000円、1万円のいずれかのプランを選び、その金額内で期間内にお食事をしていただきます。期間内に利用がなかった、もしくは使い切らなかった場合は、その未使用金額分を生活困窮者の方にお弁当などの形で配布いたします。

 

(※)サブスクリプション制とは、個々の商品に対して費用を支払うのではなく、月額など一定期間の利用権を販売する定額制のサービス。

「イーデリ」を通して、社会に優しい行動を広げていく

 

―どのようなきっかけで「イーデリ」をお考えになったのですか?

サブスクリプション制にはずっと関心があったのですが、未使用分の使い道が見えないこと、むしろ使用しない人がいることを見越して利益計算されていることに疑問を感じていました。そのため、イーデリでは疑問点を解消した形でのサブスクリプションになり、2020年のお弁当配布の時と同じく、社会の誰かの支えになれるシステムにしました。

生活に困っている方への支援にもなる仕組みなので、「イーデリ」のテーマである「みんなの支え合いで創る、持続可能なミライ」をかなえると考えています。

「イーデリ」は、飲食店にとっては安定収入を得ることができる持続可能な仕組みで、お客様にとっては未使用分の使い道が明白なだけでなく、社会貢献につながるプロジェクトです。まずは当店で実施し、将来的にはたくさんの飲食店で導入していただき、社会に優しいお店を増やしていければと思っています。

 

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店舗情報

店舗名 海鮮居酒屋 てつたろう
エリア 梅田
URL https://tetsutarou.com/index.html

運営企業情報

企業名 株式会社フォーシックス
URL https://tetsutarou.com/index.html

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