例えば、大きな公園で開催されるフードフェスや骨董市、夏の盆踊り大会……普段は何でもない空間がお祭りとなって市ができる。とてもワクワクすることだ。このような世界を創出し、新しい消費空間の可能性を追求している企業が株式会社Mellow(本社/東京都千代田区、代表/石澤正芳・森口拓也=冒頭写真)である。

 

同社が提供するサービスはホームページにこう記されている。

「モビリティの機動力を生かして『必要なサービスを』『必要な時に』『必要な場所へ』お届けするプラットホーム事業を展開しています。」

 

「モビリティ(mobility)」とは、「動きやすさ」「可動性」「移動性」という概念だ。消費空間が、百貨店とか商業施設という大きな箱が担っていたものとは対極にある考え方だ。今風に言えば「不動産DX」ということになるだろう。

 

同社はフードトラック(=キッチンカー)業界や空地活用に精通する石澤正芳氏が進めてきた事業を基盤に2016年2月に設立し、ITの専門家である森口拓也氏、ファイナンスやバックオフィスに詳しい山本英人氏が参画し、現在に至る。

フードトラックが公園に集まることによって、公園はフードコートのような食空間となる

フードトラック事業者が困っていることは何か

創業に至る状況を代表の森口氏がこう語る。

「会社が立ち上がったのはお客様目線でのフードトラック体験が素晴らしいものだったから。冷めた弁当を持ってコンビニのレジに並んでいるのとはまったく違って、ニコニコして並んでいる人たちの顔色がまったく違っていたからです」

 

そこでフードトラックの状況を調べたところ、市場は大きく伸びる感覚があった。また、当時はITが使われていなかったことから、「フードトラック×ITで生み出される価値は限りなく存在し、これをうまく引き出すと事業領域も増えていく」と確信し、現在の事業をスタートした。

 

当初はフードトラック事業者にITシステムを提供することを事業としていたが、それぞれのオペレーションがまちまちであったことから限界を感じるようになった。そこで「フードトラック事業者はどんなことに困っているのか」という観点に立ち、ヒアリングを重ねていった。

 

結果分かったことは「出店する場所がなかなか出てこない」ということ。そこで不動産デベロッパーに営業をして、だんだんと場所が増えるようになった。

 

こうして「フードトラックの事業者支援」というスタンスが出来上がり、「しっかりとした車を届ける」という発想が生まれた。当初は中古車の軽トラックを入手して自分でキッチン機能をつくるということが一般的で、車検の際に不合格になることが多々あった。そこで、トヨタグループとディスカッションを重ね、業務提携をしてMellow仕様のフードトラックを開発し、車のリースも行うようになった。車は「タウンエース」がベースで基本的なキッチン機能が付いて価格は650万円程度。残価設定型ローンで5年リース、初期費用が96万円で、車検や保険料、営業場所確保等のサポートを含め月額8万5000円にてサービスを提供している。

 

さらに「フードトラックの開業支援、開業後のサポートを行うフードトラックのパートナー」を標榜し、継続的に売上を上げていくコツをセミナーや個別コンサルティングで伝えている。

三菱地所グループが管理するマンションの敷地内に出店し、今後拡大していく意向だ

飲食の個店が一等地で輝く環境をつくる

昨年コロナ禍となりフードトラックの需要が増加するようになり、同社のモビリティビジネス・プラットフォームである「SHOP STOP」のフードトラックの登録店舗数が1100店舗を超えて、出店場所は390台を超えた(2021年3月末現在)。

 

『PR TIMES』でMellowを検索すると、「住友生命と業務提携」「福岡市中央区と親不孝通りエリアまちづくり協議会と連携」「東京都世田谷区と連携」「山口県の移動型アンテナショップが稼働」「東京建物グループ管理のマンションに本格導入」「駐車場予約のakippaと提携」等々、ほぼ1週間ごとに新しい取り組みがリリースされている。まさにフードトラック業界のリーディングカンパニーである。

 

森口氏はこう語る。

「飲食の業界はクリエイティビティが価値の源泉にあると思っています。つまり、大手数社で70%くらいのシェアを持つということは起こり得ないということ。個店それぞれの輝いているクリエイティビティを街の中に残すことは大事な論点です。これが都市への一極集中現象によって賃料はものすごく上がり、チェーン化比率が高くなり、個店がなかなか入り込めなくなる。そういった文脈に対してモビリティを通じて、個店が一等地で輝く環境をつくっていくことは非常に重要だと考えています」

 

「このようなことを不動産業界の人たちとディスカッションをすると、実は彼らも『綺麗なビルをつくって高級ブランドショップを入れる』という手法にもやもやしたものを感じていたのですね。このような課題意識を持っている人が、街づくりを行っている人の中に多かった」

 

「われわれのビジネスモデルは、『1等地だと家賃が高いですよ、郊外に行くと安くなりますよ』といった不動産のプライシングはやっていない。固定費や賃料を設定せず、あくまでも、その場所で売上が上がったらたくさんロイヤリティをいただくし、低いとそれに準じます。この仕組みで一等地に個人が出店できるようになる。この結果、個人のクリエイティビティはますます輝くことになり、街は豊かになる」

 

森口氏の談話は実にロジカルである。森口氏は「フードトラックの業界は去年拡大フェーズに入ったという認識をしている」ということだが、それはビジネスのパターンが見えてきたからであろう。

豊洲市場の仲卸事業者がMellowの出店プラットホームを活用して、フードトラックおよび鮮魚小売り移動販売事業に参入

 

飲食に限らずさまざまなサービスを手掛ける

さて、固定店舗とフードトラックは何がどう違うのか。森口氏によると「固定店舗1つとフードトラック1台を比べることに意味がない」という。

 

森口氏はこれまでの経験則から、この比較としてふさわしいものは「固定店舗1つ」と「セントラルキッチン(CK)1つにフードトラック3台」と考えるようになった。それは同じ人員数で生産性を図っているからだ。現状、フードトラック3、4台を運営している事業者はマジョリティではないが少なからず存在していることに着眼している。

 

フードトラック1台が目標とする月間売上は100万円。ここにオペレーションを仕組み化すると、アルバイトが1人で運営できるようになる。営業時間はランチタイム限定、最近では夜にマンションの前で営業してトップラインをより上げていく事例も見られている。

 

「固定店舗1つ」と「CK1つにフードトラック3台」と比較すると、カバーできる商圏は後者の方が広域であることが明らかである。またCKではフードトラックが稼働している時間帯にゴーストレトランを営業することができる。

 

現在、同社では直営部門を持っている。ここではCK1カ所に対してフードトラックが十数台紐づいている。ここでオペレーションを磨いてプラットフォーム上の事業者の支援に活かしていると同時に、固定店舗の商品を仕入れてフードトラックで売上向上の支援を行っている。このような活動が、不動産デベロッパーとの連携を深めていく上で重要なことだという。

 

「すると『お宅の敷地が空いているからスペースとして貸してください』だけではなく、『御社のビルの中の飲食店を一緒に支援しましょう』というアプローチができる。この関係性ができていくと、『新しくできるビルにもフードトラックを出してくださいよ』といった依頼が来やすくなります」

住友生命と業務提携を行い、この3月下旬から保険の簡易的な相談スペースを設けた車両の実証実験を行っている

「これからは飲食以外の移動店舗も計画しています。お客様目線で考えたときに何が一番すてきな姿かと考えて、『うちのマンションに毎日いろいろな店ができて楽しいじゃないか』といった状態をつくりたいのです。飲食に限らずさまざまな店舗がモビリティによってお客様のところに行く。ここでは作り手が目の前にいて、実際に接客をして提供してくれる。これはECとはまったく違う体験です。『なんでもない場所をうれしい場所に変えていく』ということがわれわれの大きなコンセプトです」

 

森口氏が語るモビリティの世界は、ローリスクでビジネスを手掛けることができるということにとどまらず、これまでの社会の矛盾を解決してくれるものとなりそうだ。

 

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