東京・五反田の目黒川沿いに「幻の鶏ホルモン」をアピールしている「ばかたれ」という店がある。商品名も店名もキャッチーで記憶に残る名前だ。同店は一般の焼肉店のようにロースターで鶏肉のさまざま部位をお客様が自前で焼いて食べる店である。この形態も珍しいが、店名にあるように工夫を凝らしたタレが評判を呼んで繁盛店となっている。

同店を経営するのは株式会社ばかたれ(本社/東京都品川区、代表取締役/禹在賢〈ウザイケン〉)。同社では現在「ばかたれ」を五反田エリアに2店舗展開している。

五反田の目黒川沿いにある「ばかたれ」1号店は2階にあり、「幻の鶏ホルモン」をアピール

名古屋から東京・五反田へ移り新たに挑戦

同社代表取締役の禹在賢氏は1979年12月生まれ、愛知県の出身。東京・国分寺にある朝鮮大学校を卒業後、保険の営業マンとして社会人をスタートした。ここで10年間勤務する。
その後脱サラし、アルバイトを1日に4カ所掛け持ちして、独立資金を貯めた。

1年後、「誕生日にはチキンの丸焼きを食べよう」をコンセプトにした「バースデーチキン」という店をオープンした。場所は名古屋市名東区の藤が丘、10坪のテイクアウト専門店で、開業資金としてサラリーマン時代に貯めた600万円と公庫で借りた500万円を充てた。

しかしながら、この商売がうまく行かず、2年半で同店を閉店。100万円を手元に2015年に上京した。東京では五反田にある奥さまの実家に入った。これがきっかけとなり五反田で商売を始めることになった。

ばかたれ代表取締役の禹在賢氏

上京したたばかりの当時、前回の失敗を猛省して立地環境をしっかりと把握することが重要だと考え、バイク便のアルバイトを行った。こうして都心をバイクで巡るということを3カ月間行った。
このような経験を踏まえ、事業を起こすのは五反田がふさわしいと考えるようになった。その理由は、五反田は人口が多い割には飲食店が少なく家賃が比較的に低いということ。また、住まいが近くにあるので長時間働くことが可能になるからだ。

牛肉ではなく「鶏肉の焼肉店」で差別化を図る

そして、2015年9月、1号店となる目黒川沿いの物件と巡り合った。オープンしたのはその10カ月後の2016年6月。9坪で家賃は16万2000円。ここに20席を設けた。居酒屋の居抜き物件であったことから新しく造作をすることはしなかった。

ここで開業資金が必要となるが、公庫から再び500万円を借り入れることができた。それは、名古屋時代に2年半で店をたたんだとはいえ、公庫に対してきちんと返済していたからである。

この店は鶏肉の焼肉店である。この業種になったきっかけは、脱サラで始めた最初の飲食業がローストチキンで鶏肉の世界に詳しいこと。また、禹氏の友人知人には焼肉店を営んでいる人が多く、皆口をそろえるように「原価が高くで商売が厳しい」と言っていたことから、「それが鶏肉だったら原価も抑えることができて、差別化ができるのでは」とひらめいた。

開業に際して、在日韓国人のコミュニティの紹介で新宿のホルモン焼きの店に3カ月間修業に入った。このコミュニティでは、商売の情報を求めていると皆オープンに教えてくれる。この環境が、禹氏の事業の大きな支えとなった。

使用食材の鶏肉の仕入に関しては、運よく地元五反田に鶏肉専門の精肉店があった。ここでは業務用を扱うと共に、一般家庭向けにも鶏肉を販売している。

ここで扱っている鶏肉は銘柄鶏と親鳥である。銘柄鶏とは地鶏の条件に当てはまらないがブロイラーではない食鶏のこと。親鶏とは排卵目的の鶏で年間280個ほど卵を産み、飼育日数は700日を超える。ばかたれの鶏肉は、この親鶏で排卵を終えたものを使用している。
ちなみに親鶏には毛並みのしっかりとした赤鶏と、廃鶏と呼ばれるやせ細った白鶏が存在し、それぞれ30%、70%となっているが、ばかたれではこの赤鶏を使用している。

「幻の鶏ホルモン」がキラーコンテンツとなる

この親鶏の生産者とは直接結びついているのだが、そのきっかけは、ばかたれの中でお客様から「おいしい」と評判になった「幻の鶏ホルモン」が口コミで広がり、タレントのケンドーコバヤシ氏が来店してテレビ局主催「グルメ芸人祭」というイベントに招聘してくれたこと。
この商品は親鶏の首皮を使用したもので、「イベントに出るためには大量の首皮が必要になる」ということから、取引のあった大手の鶏肉業者に相談したところ、この首皮を商品化している処理場を紹介してくれた。イベントで提供する首皮はこの処理場の商品で賄ったが、以来良質の親鶏の仕入をここから行うようになった。

オリジナルに手間暇をかけて原価率を抑えている

この「幻の鶏ホルモン」は100g880円。ぷりぷりとしてかつ無臭、辛みソースに絡めてロースターで焼くと香ばしくお酒が進む。
この商品は原価率10%となっている。この他、商品名に「名物」と付いているものは全て原価率10%で、利益が上がる体質となっている。焼き物のメニューは8品、このうち3品目が親鶏で5品目は若鶏となっている。客単価は4600円で、売上構成比はフード55%、ドリンク45%。これらで原価率23%となっている。

2号店は1号店の五反田西口の反対となる五反田東口に今年2月15日オープンした。これによって原価率はさらに抑えられる模様だ。

1号店(9坪)の売上は月に25日営業で360万円。ランチ営業をしていない。17時から23時30分までの営業だ。現在は本店がオーバーフロー気味なので、そのお客様を2号店に誘導している。1号店から2号店までは直線距離で200mほど離れているが、ばかたれの商品の魅力を理解しているお客様であれば2号店に向かってくれるという。

2号店で多店化するための仕組みを整えた

禹氏は2号店を「私にとって多店舗展開の試金石」と位置付けている。
「1号店で売れるための仕組みづくりに2年間費やした。2号店はそれにさらに試作を重ねてパッケージ化していくことがその役割」という。そこで「まず、レイアウトを検証する。次に、教育・マニュアルの作成。多店化につなげていくために、これらを自社で固めていく」という。

2号店は長方形の物件だが、店内のレイアウトを効率的なものにしたことで、開放的でゆったりとした空間に感じられる。実際には11坪だが、同業者ですら「20坪程度に見える」という。宴会では32人を収容することができる。内装には1600万円を投じた。

また、多店化に備えて、自動釣銭機と食洗器を入れた。
「これから飲食店の中にITとAIを取り入れて労働集約型の短時間労働の環境を整えることが重要だと考えています。そこで、レジ機能、予約・売上・PL・顧客管理などのシステムをたくさん取り入れて、人がやらなくていいことはこれらに任せて、8時間労働と週休2日制を確立しています」

「さらに、店舗作業の分業化。掃除や仕込みはそれを専門に行う人を雇っています。そして、社員は営業時間にフルにパワーを発揮できる体制をつくっています」

「飲食業の原理原則はQSCで、クオリティ・サービス・クレンリネスという順番になりますが、英語では最後の言葉が協調される存在です。だから、掃除については専門の担当者を入れて徹底的にきれいにしてもらっています」

このように禹氏のフードサービス運営論はロジカルに整理されている。

2号店は11坪だが、宴会では32人が収容できる

2028年500店舗構想に向けて効果的に動く

また、さまざまなルールを明文化してスタッフたちと共有化している。
まず、「カイゼンのルール」。
1、 スタッフの手間と無駄な作業を減らしてラクにならないか?
2、 お客様の不便をなくすことができないか?
3、 バラツキをなくして、誰がやっても同じ結果にすることができないか?
4、 ムダな在庫を減らすことができないか?
↓1~4をやって……
5、 お客様の満足を高められるか?

さらに本店の「KPI」(重要業績評価指標)はこうなっている(1day)
・売上:15万6000円
・来店数:34人
・リピート率:70%
・人件費率:25%未満
・原価率:23%
・食材ロス:0%
・ターゲット:男性30代~50代、3人グループ
「このターゲットの男性が喜ぶことを徹底して行う。お酒はケチらない。ジョッキに氷をたくさん入れたアルコールの薄いドリンクをつくらない」(禹氏)

そして「多店舗展開の絶対条件」について。
① 25~20坪の店しか出さない。
② 撤退しやすい物件に出す。→売れる、造作譲渡ができる。
③ ROIで判断する。「2年回収」。
④ 厨房最小、客席最大
「2号店は厨房と客席の比率は2:8にしている」

スタッフと和気あいあいとした雰囲気を醸し出している

現在、禹氏は五反田商店会と五反田料飲組合の会員となっている。「五反田でまず4店舗出店すると決めてから、地元の経営者と協調することは必須条件だと考えました。五反田で4店舗出店すると、五反田でナンバーワンになります」と語る。実際に2号店の物件は、五反田商店会から紹介されたものであった。今年の目標は五反田に3号店を出店し、4号店の物件を12月までに押さえることという。

店舗展開は2028年の段階で「500店舗」を目標としている。この構想の中にはFC展開も含まれている。
禹氏の信条は「やることを決めたら、何を手掛けるか、誰と会うかということを細かく決めて行動すること」。商品にはキラーコンテンツが整い、店舗運営の仕組みに余念がないことから、「ばかたれの発祥は五反田」と言われる日は近いことであろう。

店舗情報

店舗名 ばかたれ
エリア 五反田

運営企業情報

企業名 株式会社ばかたれ

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