「ドミナント戦略」の意味を調べると、「地域を絞って集中的に出店する経営戦略のことで、ある地域内における市場占拠率を向上させて独占状態を目指す経営手法」とある。飲食業界では、2000年に入り起業した若手経営者がこの手法で基盤を固めている事例が多い。

 

ここで紹介する株式会社バイタリティ(本社/東京都中央区、代表/岩田浩=冒頭写真)はその典型的な飲食企業と言っていいだろう。

 

創業期、馬喰町・東日本橋に集中出店を行う

同社は、大手外食企業に勤めていた岩田浩氏が仲間とともに2008年12月に立ち上げた。1号店は東京・小伝馬町の「鳥番長 総本店」で2009年2月にオープン、2号店は少し離れて上野に出店するが、その後、浅草橋、馬喰町、東日本橋と展開していく。町名は異なるがこれらは徒歩圏である。

 

小伝馬町に始まる同社草創期の店舗展開は、岩田氏が浅草育ちで近隣にあるこのエリアに親しんでいたこと。また、起業する前に勤務していた外食企業の本部が小伝馬町にあったことからランチ・ディナーの市場動向を熟知していた。そして、このエリアで多店化するようになった。岩田氏はこう語る。

 

「地元が浅草なので、浅草に出店したいと思っていましたが、浅草では観光客相手になる。そうではなく、地域に住んでいる人の店にしたかった。そこで地縁のある小伝馬町で創業したが、このエリアには高級マンションが多数存在し常連客がついてくれて、顧客に富裕層が多いことを知った」

 

馬喰町、東日本橋の一帯は繊維問屋街で、50年ほど前に街並みが形成された。バイタリティが店舗展開をしている間にビルの建て替えが進み、大型のホテルもたくさんできた。ここに拠点を置くアーチストも増えて、ユニークなエリアとなった。

 

さらに、2013年に勝どき、月島と東京の湾岸に出店。この一帯にも集中出店していく。

2013年9月、筆者は月島に出店したばかりの焼肉店「山形山」に記者仲間と訪ねた。同店は大きなタワーマンションの1階にあり、周辺には広大な空き地があって異様な感じがした。岩田氏によると「これからタワーマンションがどんどんできるようですよ」と言っていた。

月島を象徴する「月島もんじゃストリート」がタワーマンションと融合するようになった。

月島のタワーマンションに3店舗を新規出店

筆者は昨年末Facebookでの岩田氏の投稿から月島に3店舗を同時出店したことを知り、これらの店を訪ねた。月島はすっかりとタワーマンションの街になっていた。岩田氏とバイタリティは実に計画的にドミナント戦略を進めていたということだ。

 

そもそも岩田氏が月島との縁ができたのは2013年6月八王子に業務委託で出店したとき、リーシングを担当していた不動産業者に「月島、勝どきあたりで商売をしたい」と相談を持ち掛けたところ、このエリアの物件を紹介されたことがきっかけという。このエリアの近くに住む岩田氏は、これから大きく再開発が進むことを知っていて、ここにドミナントで展開することで新しい企業像が描けると想定していた。

 

昨年月島に出店した店は「BAR96 MOON」「魚釜」「鳥番長」「巻島」の4店舗だが、「BAR96 MOON」以外は同じタワーマンションの1階に出店している。

「魚釜」はクオリティの高い和食の居酒屋として定評があったが、月島店では一層磨き込まれている

中でも「魚釜」と「鳥番長」では顕著な動向が見られる。

「魚釜」は2014年7月日本橋横山町に1号店がオープンしていて、月島は2号店にあたる。“産直鮮魚と釜めし”を冠にする同店はクオリティの高い和食居酒屋として定評があったが、月島の店はさらにクオリティを磨き客単価が1万円あたりとなった。タワーマンションに住む富裕層がリピーターとなり、顧客から好みの食材や料理の依頼を受けるという。こうして臨機応変な対応とクオリティアップに余念がない。

「鳥番長」ではテイクアウト用の窓をつくった。これが奏功してから揚げの注文が平日で40~50件、週末など多い時には1日100件ほどある。

 

創業の店を「台湾コンセプト」の餃子店にリニューアル

現在バイタリティの店舗数は直営21店舗、FC2店舗(2021年3月末時点)となっているが、コロナ禍にありながらも2020年4月以降8店舗オープンしている。この出店数について岩田氏は「コロナ禍が長引くとは思っていなかった」と語るが、同社のこれからの戦略を見通すことができるようになった。

 

象徴的な事例を紹介すると、まず、2020年9月に創業の店「鳥番長 総本店」をリニューアルしてオープンした「番長餃子道」が挙げられる。同店は台湾コンセプトの餃子を中心とした飲食店となった。台湾の飲食店街にあるような外観は周辺の中でもよく目立ち、内装も台湾イメージの備品などによってつくり込まれている。岩田氏はこう語る。

創業の店を2020年9月に台湾コンセプトの餃子業態に展開、にぎやかなつくり込みに台湾の顧客も感動している

「この店はコロナ禍でお客様が激減して、売上の落ち込みが激しかった。オープンしてから十数年がたっていて、設備も古くなっていた。10年定期借家だったことから10年たってオーナーから店を買い取っていたので別の事業者に貸すことも考えたが、『他人に貸すなら自分たちでやろう』となり、社員の一人が『餃子をやらせてください』と名乗り出た。『どうせやるならちゃんとやろう』と、いつものデザインの先生と相談してきちんと予算をかけた」

台湾の顧客が来店することもあり、故郷の屋台街を彷彿とさせる同店のつくり込みに感動して喜んでくれるという。

 

次に、「韓国屋台コンセプト」がブームではなく業態として定着していることを感じ取っている。

 

同社では2011年11月、馬喰町に韓国屋台「豚大門市場(トンデモンシジャン)」をオープンしていて繁盛店となっているが、このFC店を2021年1月神奈川の横浜西口にオープンした。同店は30坪で2月に1000万円をクリアし、3月はそれを上回ったという。馬喰町の直営店は3月8日より通常営業を行い、昨対110%で推移している。

 

「韓国業態が今人気なのは、コロナ禍の巣ごもりで『愛の不時着』とか『梨泰院(イテウォン)クラス』といった韓国ドラマに親しんだことが背景にあるのでは。海外渡航が禁じられて韓国で屋台に行くことができないが、日本で韓国を感じたいと思っているお客様が増えているようだ」

 

馬喰町の店がオープンした10年前の顧客は、当時の韓国ブームを支えた40代、50代の女性が中心だが、現在は20代の女性になっているという。

 

韓国料理はデリバリーの人気も高く、馬喰町の店では1日20~30件の注文があり、デリバリーで月商100万円が見える状態となっている。

 

今後の店舗展開ではFCをメインに想定していて、「豚大門市場」の他に「番長餃子道」も加えて今年1年間に10店舗の出店を想定している。

「鳥番長」はから揚げによって新しいキャッシュポイントをつくり上げた

さて、コロナ禍にあって一部の店で休業することが余儀なくされたが、これによって社員が店を異動したことで社員の中に大きなメリットがもたらされた。それは「自分の店ではできていなかったものが、この店ではできている」という気付きを得たことだ。それが営業再開でそれぞれの店に活かされるようになった。また、ドミナント展開をしているエリアの店舗間でヘルプを行うことが活発になった。

 

これらのバイタリティの動向をまとめていて、ひらめいたことは「走りながら考える」ということだ。商売の歩みは堅実に行い、チャンスの機会を求め続ける。そのような姿勢が新しいステージをつくり上げていると感じた。

店舗情報

店舗名 豚大門市場

運営企業情報

企業名 株式会社バイタリティ
URL https://vitality.co.jp