料理教室

社会や環境への配慮を行うことは、企業にとって重要な課題となりつつあります。その波は飲食業界にも押し寄せていて、SDGs(※)達成に関連する取り組みなど、細かな配慮を行う飲食企業が増えてきています。

中でも、餃子の皮の製造販売を行うほか、広島にて餃子居酒屋「餃子家 龍」を10店舗、イタリアンレストラン「ピッツェリアカナダカン」を1店舗運営している井辻食産株式会社(代表取締役社長:井辻龍介氏)は、多数の取り組みをしています。食品ロス削減、男性の育児休暇取得、食育としての料理教室、子ども食堂の開催などです。今回は同社専務取締役の井辻俊行氏に、これらの取り組みに尽力するきっかけや理由などをお伺いしました。

(※)SDGs(持続可能な開発目標)とは、2030年を期限として国連で採択された世界全体で取り組むべき国際目標。貧困や環境問題、気候変動などに関する目標が設定されている。

戦後広島の復興を願った創業者の想いを受け継ぐ

―SDGs達成に向けた取り組みを多数行っていらっしゃるのは、なぜですか?

当社の企業目的の一つに「社会貢献」があるからです。社会の流れに合わせて良いと感じたものには、迅速に全力で取り組んでいくという社風もあるため、2015年のSDGs採択以前から、関連する取り組みを実施していました。
現在は、日本でも働き方改革が推進されるなど、時代としても社会や環境への配慮が必要とされています。そこで、当社でもSDGsを意識した取り組みを、より積極的に進めるようになりました。

 

―「社会貢献」という企業目的の基に採択以前からSDGsに関連する取り組みを積極的に実施されていたのですね。いつから社会貢献を企業目的とされているのでしょうか?

創業当時から「社会貢献」を企業目的としています。

当社は終戦から約2年後の広島で創業したのですが、創業者の井辻美代次は当時から利益よりも周囲の人に喜んでもらうことを目的としていました。創業地は原爆の爆心地からほど近く、最も被害の大きいエリアです。創業当時は戦後の混乱で食べる物も満足にない厳しい状況ではありましたが、街の人たちは広島を復興させようと奮闘していました。美代次は厳しい現実の中で必死に生きる街の方々に、少しでも喜んでもらいたいという想いを持ち、当社をスタートさせたのです。

現代のように自由に食材を購入することは難しい当時、配給で小麦粉を手に入れられたそうです。美代次は満州にいた経験があり、現地で身に付けた中華麺の製造技術を活かして製麺業を始めました。

創業時の様子。創業者井辻美代次氏(左)と妻・井辻満代氏(右)

食品ロス削減や働き方改革を推進

―創業者の想いから社会への配慮を意識して運営されているのですね。ここからは具体的なSDGs関連の取り組みについて伺います。まずは食品ロス削減について、どのような取り組みをされているのか具体的に教えてください。

製造販売部門では、賞味期限が通常の倍という餃子の皮を開発しました。
通常、餃子の皮の賞味期限は製造から20日前後ですが、2015年に40日間もつ商品の開発に成功したのです。以前も賞味期限は30日間と通常のものと比べれば長めでしたが、さらに長期化することで、他社と差別化できますし、余るとなかなか消費できずに賞味期限が過ぎて捨ててしまうことが多い家庭での食品ロスの削減にもつながると考えました。

また、製造段階の端材を再利用する取り組みも行っています。

 

食品ロス削減に関して詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標2.飢餓をゼロにー

 

―端材の再利用とは?

餃子の皮は一枚に薄くのばしたものを丸く切り抜いていくため、どうしても端材が生まれてしまいます。餃子の具で豚肉を使いますが、その豚の飼料として端材を利用することで食のループを実現しました。

餃子の皮の端材。
餃子の皮の製造時に生じた端材は豚の飼料として再利用される

また、2021年5月にはこの端材を利用して、うどんの製造を行いました。

当社は元々製麺工場として創業しており、製麺のノウハウがあったので、コシのあるおいしいうどんをつくることができました。うどんは自社居酒屋業態の店舗でランチ帯に期間限定で販売を行ったのですが、好評だったため、今後も継続的に提供できるよう考案しているところです。

うどんの製造はコロナ禍で政府や自治体から飲食店への時短営業・酒類の提供禁止などの要請があり、当社の居酒屋業態で何かできないかと模索する中、食品ロス削減にもつながることから製造・販売を実施しました。環境に優しい新たな取り組みのため、通常通りの営業ができない中でもスタッフのモチベーションアップにつながるのではという想いもありました。

端材を利用してつくったうどん
餃子の皮の端材を利用してつくったうどん
うどんの説明
うどんの提供開始にかける想いを発信

 

―うどんの提供は、従業員の方への配慮も含まれていたのですね。

当社はこれまでも働き方改革を率先するなど、従業員が働きやすい環境づくりに注力してきました。飲食店での勤務といえば、労働時間が長いなどのイメージを持つ方が多いと思いますが、当社は残業時間の短縮や完全週休2日制を実現しています。

の実現の背景には、2016年のセントラルキッチンの導入があります。各店舗での仕込み時間を短縮するなど、業務の効率化を行いました。

また、現在は女性のみならず男性の育児休暇取得を推奨し、実際に取得した社員がいます。制度を用意するだけでなく、子どもが生まれた社員に対して、会社から積極的に声掛けをすることで育児休暇を取得しやすい環境づくりを行いました。

 

働く環境の改善について詳しくはこちら→SDGs目標達成にむけて飲食業界ができること-目標8.働きがいも経済成長もー

 

食育や子ども食堂を実施し、地域社会にも貢献

―創業者の想い「街の方に喜んでもらう」ことに関しても何か取り組まれていることはありますか?

食育として、親子で参加する料理教室を実施しています。当店自慢の餃子の作り方をお伝えすることで、「作るたのしみ 食べるたのしみ」を感じてもらうことを目的としています。

餃子づくりは面倒と感じている方もいるかもしれませんが、実際は子どもでも作りやすいです。それどころか、こねたり、皮で包んだりと、親子で楽しみながら作れます。子どもの頃から調理に対して楽しいイメージを抱いてもらえると、食べ物を大切にしたり、健康によい食材を選んだりすることにつながると考えています。

また、子ども向けの取り組みとして子ども食堂も実施しました。

 

食育に関して詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること-目標4.質の高い教育をみんなに-

子ども食堂
自店にて子ども食堂を実施

 

―子ども食堂はどのように行ったのですか?

2019年8月から新型コロナ流行前まで月に1回、ファミリー層が多く住むエリアの店舗にて開催しました。子ども100円、大人300円という安価で、おいしく楽しい食事を提供できるように工夫しました。

実施する時間帯は16時から18時と、通常営業への影響が比較的少ない時間を選び、材料に関しても取引先企業やフードバンク団体に協力を仰ぎ、賞味期限が近くなった食材などを提供していただきました。集まった食材を当社の料理人が調理しバイキング形式で提供したところ、毎回40人ほどの方にご利用いただき好評でした。

 

子ども食堂に関して詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標1.貧困をなくそうー

子ども食堂
子ども食堂で提供したバイキング形式の食事
こども食堂協力先
子ども食堂に協力してくれた企業、団体名を感謝のメッセージとともに毎回掲示する

―創業者の想いを経営努力でしっかり実現されているのですね。

「社会貢献」は当社の経営目的でもありますし、目先の利益だけではなく、社会への影響を意識し続けています。

社会への影響という観点から、原価が上がるという悩ましさはありますが、プラスチック廃棄量削減のためにストローを紙製に変更しました。うどんや賞味期限の長い餃子の開発にも、時間と労力がかかります。

ですが、地球を守ること、自分たちだけでなく地域・周囲の人を含めた社会にとってプラスとなる行動を行うことは大切です。今後も創業者の想いを引き継ぎながら、短期的な目線ではなく長期的に考え、社会や環境に配慮した取り組みを進めていきます。

 

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店舗情報

店舗名 餃子家 龍
エリア 広島
URL https://www.gyozayaryu.jp/

運営企業情報

企業名 井辻食産株式会社
URL https://www.itsuji.co.jp/

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