筆者はFacebookで「羊SUNRISEのラムのおいしさに感動する」という投稿を見る機会が増えるようになったことから、神楽坂の店を訪ねた。オーナーの関澤波留人氏(冒頭写真)は、このシリーズで2020年10月に紹介した味坊集団代表の梁宝璋氏同様、オーストラリアの羊肉の魅力をアピールする「ラムバサダー」であることを知り、羊肉には一家言ある人であるとは想像していた。

※以前、味坊集団代表の梁宝璋氏にインタビューさせていただきました。
詳しくはこちら→中国東北地方の現地料理をはじめとして「羊肉愛」の事業を展開

 

店は、住宅と飲食店が混在した一帯の2階で、大きなカウンターがある。関澤氏は顧客に向かって直接食事の要望を訪ね、ジンギスカンの鉄板で野菜や羊肉を焼いていく。この時に関澤氏の口からよどみなく出てくる羊の歴史、人間社会との関わり方、羊肉の種類、魅力について、その情報の深さと量に圧倒される。「羊は1万年くらい前にシリアで家畜化が始まった人類最古の家畜です」――このような具合に、どんどん羊肉の関澤ワールドに引き込まれていく。

関澤氏は顧客の前で羊肉を焼きながら、羊肉の世界について熱心に語りかける

ジンギスカンでことを起こそうと家族と離れ修業

ジンギスカンと言えば北海道が連想されるが、2001年、2003年に日本とアメリカで牛のBSE(牛海綿状脳症)騒動が起きてから、焼肉店に変わる業態としてジンギスカン料理店が増えて行った。関澤氏は1982年4月生まれ。茨城県土浦市出身。20歳そこそこの時に、関澤氏の地元にもジンギスカンブームがやってきた。

 

関澤氏にとって羊肉を食べることは初めてであったが、その食味に魅入られた。当時は建築関連の会社のサラリーマンをしていたが、都内の店に食べに行ったり、2泊3日の休日を取って北海道を訪ね歩いた。食べ歩いたジンギスカンの店はいつしか100店舗を超えていた。

 

32歳となった関澤氏は、「何か自分で好きなことをやり遂げたい」と考えるようになった。

二人目の子どもの誕生が迫っていたが、妻を説得してジンギスカンの修業に出た。向かったのは自分のジンギスカン体験の中で一番おいしいと記憶にあった「札幌成吉思汗 しろくま(以下、しろくま)」札幌本店、2015年のことである。

 

この段階では「札幌で1年間頑張ろう」と考えていたが、入店して3カ月で2015年に東京・新橋の店舗の店長となった。3カ月が経過して、新橋店をしろくま3店舗の中で一番の売上をつくった。この時に奏功したのは、現在のように関澤氏が顧客に羊肉にまつわる話を語りかけるスタイルだったという。

 

しろくまを退社して、茨城からフェリーで北海道に渡り、2週間車中泊をしながら北海道を3000キロメートル走った。この間に15軒の羊飼い農家をアポなしで訪ねた。羊飼い農家の正式なリストが存在していないことから、北海道の羊肉の情報から割り出していったという。そして、6軒の羊飼い農家と取引する契約を結んだ。

 

B級グルメではない羊肉料理店を麻布十番に出店

開業する場所は地元である茨城県土浦市を想定していたが、羊飼い農家と交渉していく過程で羊の本当の価値を伝えるのであれば東京で勝負をするべきだと考えるようになった。

羊肉料理と言えば「5000円で食べ放題のジンギスカン」「B級グルメ」と連想されがちだが、自分が思い描く羊肉料理の世界はこのような価値観ではないと考え方がまとまっていった。

羊肉は産地と部位に分けられて提供。顧客の要望に沿って関澤氏がコースを組み立ててくれる

そこで銀座を想定したが、煙とにおいの問題からすべてNGと言われた。別のエリアを検討しなければと思っていた時に、知人から「関澤君がやりたいことは麻布十番が向いているのでは?」とアドバイスをされた。

 

いざ、昼となく夜となく麻布十番の街を散策した。イタリアン、フレンチ、和食、焼き鳥など、外食文化が成熟していることを感じ取った。

 

そして、最初に訪ねた物件のオーナーが「ジンギスカンはOKですよ」という。空中階の15坪で家賃が想定していたものよりも低かった。煙対策として新たにダクトをつける必要性を感じたが、オーナーは「煙は窓から出せばいいのでは?」という。おおらかな人だった。ダクトの必要がないということで、カウンター越しに顧客に語りかけることが存分にできる。こうして「羊SUNRISE」1号店、麻布十番店は2016年11月にオープンした。

 

続いて、神楽坂に「TEPPAN羊SUNRISE」を2019年1月にオープン。この他、FC店を西麻布とつくばに1店舗ずつ擁している。客単価は麻布十番が1万4000円、神楽坂が1万8000円となっている。

 

使用する羊肉は1店舗1カ月で国産が一頭買いで12~15頭くらい、オーストラリア産が1カ月2店舗分で40~50キログラム程度。これらを店内でさばいて、店のコールドテーブルの中で保管している。

コースの〆に出てくる羊骨のラーメン。マイルドで甘味を感じさせるのが特徴

「羊肉の普及」というテーマを掲げ発信を続ける

「羊SUNRISE」が人気を博しているのは、羊肉のおいしさやサービスの方法だけではない。店として発信を絶やさない努力もしている。

 

これらのエピソードの一つとして、コロナ禍での売上対策で手掛けたECを紹介しよう。ECでは前述の味坊集団の工場を借りてジンギスカン用の冷凍肉の販売を行った。

 

コロナ禍で飲食店の多くはテイクアウトやデリバリーを手掛けるようになったが、羊肉は脂の融点が44~55度と高いことから冷めるとおいしさが減少する(※)。「では、羊SUNRISEらしさとは何か」と話し合った結果、「羊肉の普及」というテーマに行き着いた。

 

関澤氏はこう語る。

「私が店の中でお客様に語り掛けているのは、『楽しくないとおいしくない』という考え方が本にあるからです。家庭では七輪で肉を焼くのは難しいので、ホットプレートで焼いていただこうと考えました。しかしながら、羊肉を手渡したところでどのようにして食べるといのか分かりません。そこで羊肉の食べ方をYouTubeで発信することにしました」

 

第1回の発信は、2020年の4月頭のこと。4月に入り時短営業で20時に営業を終えてから、夜中の2時ごろまで事務所にこもって製作した。外国人スタッフが調理方法をユニークに解説して、それにテロップを入れるとか、作業の一つ一つがとても楽しくて、「コロナ禍でも笑って過ごした」という。このYouTubeの視聴者は600人程度で「バズらないことで有名」と照れながら語るが、コアなファンが多く、公開するたびにECの注文が増えていった。今ECだけで月に100万円程度売れているという。

 

(※)編集部注:融点が高いと脂が固まり始めるのが早い。冷めて固まった脂は舌触りがよくなく、おいしくないと感じられる。

 

星付きレストランのシェフも注目

リアル店舗では、現在麻布十番は予約が1カ月先の状態となっている。これには「直接予約」という仕組みも奏功している。「直接予約」とは、初めて来店した顧客に従業員の全員が所持している、LINEなどの個人情報を載せた名刺を手渡して「直接予約してくださっているお客様を優先してお席を取らせていただくようにしている。この仕組みによって、月間50組の予約を獲得する従業員もいる。

 

このような新しい試みを展開する「羊SUNRISE」に対して、羊肉のインポーターや星付きレストランのシェフたちが注目するようになった。インポーターからは輸入ができるようになった羊肉のサンプルが届く。さまざまな品種の羊肉を食べに星付きシェフがやってくる。このようなシェフの間では「羊SUNRISEで食べたか?」という会話が出てくるようになっている。

 

関澤氏の羊肉に対する熱い想いは、羊肉輸入や羊肉調理の世界も変えている。そのエピソードの一つを紹介しよう。

「2018年3月にオーストラリアに滞在して、この時に初めてパスチャーフェッドラムというオーストラリア産のラムを食べてそのおいしさにはまりました。そこで日本にも輸入されていることを知り、羊SUNRISEで翌月の4月から扱い始めたのですが、その商社さんの輸入量が月間で20キログラムだった。オーストラリアから空輸で持ってくる1コンテナ内の重量が1.3トンですから、200キログラムは割増です。パスチャーフェッドラムを1回に1.3トン持ってくることができたら温度管理が安定して幅広い人に使用してもらえるな、と考えました。そこで、いろいろな機会に、たくさんの料理人にこのラム肉のことを紹介して半年間で1.3トンまで輸入量を増やすことができました」

関澤氏のお気に入りで日本での消費を広めた「パスチャーフェッドラム」

このように関澤氏の羊肉愛は募る一方であり、日本における羊肉文化の発信基地と認められる存在になっている。

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店舗情報

店舗名 羊SUNRISE
エリア 麻布十番
URL https://sheepsunrise.jp/

運営企業情報

企業名 株式会社SHEEP SUNRISE
URL https://sheepsunrise.jp/

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