コロナ禍での飲食業界は大きな影響を被ったが、これらを打開するべく革新的な開発がさまざまな形で行われている。ここで紹介するのはDX。「デジタル変革」と略されるが、進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革することを意味している。

 

この顕著な事例が9月1日にオープンした「焼鳥IPPON(やきとりいっぽん)」である。JR大崎駅(東京都品川区)と直結するオフィスビル群の飲食店街に位置する。経営するのはDDホールディングスの連結子会社、ダイヤモンドダイニング(本社/東京都港区、代表取締役/松村厚久)である。これまで同社の肉バルとして営業してきたが、この度DXの店舗にリニューアルした。その陣頭指揮を執ったのはダイヤモンドダイニング取締役副社長の鹿中一志氏(=冒頭写真)である。

 

鹿中氏は1975年4月生まれ。外食企業の社長を務めた後、2010年ダイヤモンドダイニング入社。以来、営業本部副本部長、執行役員営業本部副本部長、執行役員営業支援本部長、執行役員営業統括と一貫して営業部門を歩んできた。

肉バルから業態転換、トーンを抑えた色使いが“新しい店”としての個性を発揮している

注文から会計までをスマホで完結

「焼鳥IPPON」は、ダイヤモンドダイニングと、フードテックを推進するトレタ(本社/東京都品川区、代表取締役/中村仁)がワンチームとなって開発した飲食店である。両社が業種の垣根を超えて、新しい飲食の在り方を模索していき、デジタル技術を前提としてゼロベースでつくり上げた新業態である。この開発の経緯について鹿中氏はこう語る。

 

「昨年コロナ禍となってから、甚大な影響はしばらく続くだろうと読みました。そこで、われわれのアルコールビジネスはどのように変化していくのか、トレタさんに相談したことからこの計画は動いていきました」

 

トレタでは、自社の予約システムのデータから大きなトレンドをつかんでいた。それは「コロナ禍にあっても、高単価業態や専門店、超繁盛店には予約が継続して入っている。オフィス街の3000~5000円あたりの宴会は戻っていない」ということだった。

 

当時、トレタでは新しいモバイルオーダーの仕組みを開発していた。それは、新型コロナウィルスワクチンの接種が進んで、飲食店に客足が戻り、反動需要が期待されるようになってから、客単価3000~5000円あたりの業態に向けた仕組みである。

 

これは今年の7月26日に「トレタO/X(トレタオーエックス)」としてリリースした。この特徴は以下のようなものだ。

 

①自由度が高いデザインカスタマイズ

メニューは、料理一覧ではなく飲食店と来店客をつなぐメディアだと捉え、画像・音声・動画を用いて、飲食店の世界観や料理へのこだわりを伝える。

 

②豊富なメニュー表示

通常メニューの他に、飲み放題、食べ放題やコースなど柔軟に対応。味付けや追加トッピングなどのカスタマイズも表示が可能。

 

③会計までスマホで完結

来店客は各人のスマホから同時オーダーが可能。会計も個別会計からまとめ会計まで煩雑な会計業務を自動で完了。来店客は自分の好きなタイミングで注文ができて、会計の待ち時間から解放される。

 

④運用・管理の支援

きめ細かなメニューデータの更新やメンテナンスを同社の専任スタッフが支援。データを基にした継続的なメニューのブラッシュアップ、仮説検証を通じて共に「売れるメニュー」を育てていく。

 

「トレタO/X」が導入されている環境の中で、お客が行うことは以下のような手順となる。

 

①飲食店から提示されたQRコードをスマホで読み取り、デジタルメニューにアクセス

②メニューを選び、オーダーを送信(自動的にキッチンプリンタから調理指示を出力)

③食事終了後、クレジットカード情報を入力

④会計後、必要に応じて電子レシート発行。電子レシートはメールで本人に送信

 

この仕組みは「外食体験のオンライン化」である。「食事をする」という本質的な目的以外の、「注文」「会計」はスマホ一つで完結される。

焼鳥の味付けからサワーのアルコールの濃さなどカスタマイズできる要素がふんだんにある

オフィス街宴会から脱して地元客にも対応

これらの開発途中の構想についてダイヤモンドダイニング側ではどのように受け止めたのか。鹿中氏はこう語る。

 

「われわれは業態開発には自信があります。しかしながら、単独で店をつくろうとすると、これまでの延長戦上の発想しかできず、新しいシステム・テクノロジーを導入しても最適な環境は実現できないでしょう。トレタさんのアプローチに大変刺激を受けたこともあり、それならば、トレタさんとゼロベースから組んで、お互いの得意な領域を生かし、知見を出し合って、お店をつくり上げていくのがベストだと結論づけました」

 

では、その業種がどのようにして「焼鳥」となったのだろうか。

「それは、外食するときのストレスを解消するという観点で、焼鳥店でのストレスがとても多いことに気付いたからです。複数人で利用した場合、味付けはたれがいいか塩がいいか、ねぎまを食べたいが頼んでいいか、1本を複数人でシェアする、ワリカンが面倒だ……という具合。また、当社にはブラッシュアップが必要な焼鳥業態が存在して、これをリブランディングするという発想もありました」

店内のデザインは「割烹」をイメージさせる和風モダン

場所が「大崎」となったのは、なぜだろうか。

「この店は以前当社の肉バル業態でオフィス街宴会が主でした。オフィス街宴会は店の稼働時間が短くて土日が利かない。これは以前から課題として認識していました。その一方で、大崎というエリアは地元住民の方も多い街です。そこで16時ぐらいから営業して、土日は地元のお客様が散歩ついでに立ち寄るというシーンをイメージしました」

「焼鳥IPPON」の注文の仕方のポイントは、自分好みにできる「カスタマイズ」と時間帯ごとに価格が変動するドリンクの「ダイナミックプライシング」の大きく二つが挙げられる。

 

例えば、「焼鳥」は自分好みの部位と味付けを選ぶことができる。同席している各人が食べたいものを食べたい味付けで注文するのだから、各人が「5本セット」を注文するとバラバラのものが届けられる。串の長さは10㎝ほど。これは一人前対応ないしおひとり様仕様だから。メニューはすべからくこのようにできている。 

 

サラダ、ラーメンもカスタマイズ可能。「私のサラダ」550円(税込、以下同)はベースの野菜に8種類の野菜から3種類、ドレッシングも3種類から選択。「鶏白湯ラーメン」650円はスープ2種類、麺2種類から選択。追加料金でトッピングをできる。

 

「レモンサワー」のカスタマイズは、まず「お酒の濃さ」。「ノンアル」「ごくうす」「うすめ」「普通」「濃いめ」から選択。次に「レモンの種類」。「フローズンカット」「フレッシュスライス」「塩漬け込み」から選択。そして「アクセント」。これは「ハチミツ」「ジンジャー」「ソルト」から選択する。

 

ドリンク全品が対象となる「ダイナミックプライシング」はこのレモンサワーでも行われる。通常価格は「550円」となっているが(19時~19時59分)、1時間繰り下がる、ないし繰り上がるごとに5%オフ、10%オフ、20%オフとなっていく(例えば、16時~16時59分と22時~22時59分は20%オフ)。これによって、店内の混雑状況が平準化されることが期待され、またこの仕組みが今後フードメニューに導入されるようになればフードロスの解決にもつながる。

 

筆者は同店のランチタイム、ディナータイムともに体験した。

ランチタイムに扱っているのは、「当日精米したごはんと鶏出汁みそ汁御膳」1000円の1品目のみだが、主菜は3種類から1品、副菜は5種類から2品選ぶ。これにすべて玉子焼きと漬物がつく。スマホでオーダーして、すぐに決済を済ませた。オーダーしたメニューは10秒経たずに運ばれてきた。店に入って食事をすぐに終えることができて、食事が済んでからレジに並ぶ必要もない。

ランチのメニューは1品目のみだが、主菜、副菜とも選べるようになっていて日替わりでカスタマイズできる

ディナータイムの場合、注文は一品ずつデジタルメニューにタッチすることになるので、従業員に「すみませ~ん」と声を張り上げる必要がない。従業員はみな穏やかで、スマホの使い方などを含めて丁寧に対応してくれた。

 

振り返ってみて、店の中にいてイライラする場面がまったくなかった。これが冒頭で述べたDXが意図する「人々の生活をより良いものへと変革する」ことの表れの一つではないだろうか。

店舗情報

店舗名 焼鳥IPPON
エリア 大崎
URL https://www.dd-holdings.jp/shops/yakitori_ippon/osaki

運営企業情報

企業名 株式会社ダイヤモンドダイニング
URL https://www.diamond-dining.com/