株式会社馬喰ろう代表取締役の沢井圭造氏は「馬肉文化の伝道師」を自認しているが、近年それがすっかりと堂に入っている。
同社は2007年4月に馬肉料理専門店の「馬喰ろう」を東京・神田西口にオープンして飲食店を店舗展開するようになったが、現在は直営7店舗、「馬喰ろうプロモーション」を省略した「BP」という地方で展開する店を14店舗展開している。

株式会社馬喰ろう代表取締役、沢井圭造氏。常に「馬肉文化を広げること」を考えている

「馬喰ろう」の地方展開で大きな手応えを得る

BPとはいわゆるFCであるが、「現地の経営者に地元密着で営業していただきたい」という思いを込めて、あえてBPという呼称を用いている。
こちらのオーナーは同社が創業当時からパートナーシップをとり、同社の企業文化を熟知したるサッポロビールの担当者から、同社の企業文化や方向性に合致する企業を紹介されることが多くなっている。現在は金沢、富山、岐阜、三重、名古屋、新潟と広域に及んでいる。

このような企業は地元のことを熟知していることから、同社からの縛りを緩くして地元の嗜好や文化にかなった商売を行っている。馬肉は同社から供給するが、野菜は旬の地元のものを使用してもらう。また、同社ではさまざまな酒蔵と「馬肉に合うお酒」を共同で開発しているものが多くあり、これらもメニューにラインアップしてもらう。この他、同社オリジナルの器やユニフォームが同社指定のものを使用してもらう。これらのネーミングやロゴは大手メーカー品のパロディを多用し、お客様をクスっと笑わせる。これらの数々には「お客様に喜んでいただく」という姿勢が強烈に伝わって来る。
これらの一貫した姿勢が「馬喰ろうらしさ」というものであろう。

「馬喰ろう」の地方出店の動向について沢井氏はこう語る。
「地元のお客様から『待ってました!』という感じの歓迎ぶりがあり、どの街でもとても大きな反響をいただいています。オープン景気は都心よりも根強いものがあります。日本には馬肉食文化を持つ街がさまざまありますが、現状出店しているところは馬肉食文化がないところでありながら、馬肉は絶賛されていて、これからの地方出店に大きなポテンシャルの高さを感じています」

加えて、地方都市は東京と比べて家賃が低い、人材も集まりやすいという環境にあり、経営的に安定していて生産性が高いというメリットがある。

直営店展開は東京のベッドダウンに着眼

「馬肉の伝道師」の活動は、大きな成果を見せている。沢井氏氏は馬肉メーカーである株式会社NTCデリバの常務取締役も務めていて、ここでの営業活動が大きく奏功している。沢井氏はこう語る。
「『馬喰ろう』が展開を始めた10年前の当時は、東京圏に馬肉を出す居酒屋は10店足らずでとても珍しいものでしたが、今では一都三県に140店ほど存在しています。これらのうちの7~8割の店にNTCデリバが馬肉を供給しています」
この数字が示す通り都心の居酒屋では馬肉がすっかりと浸透していると言えるだろう。

このような傾向から、同社では直営店舗の展開を東京のベッドタウンに目を向けるようになった。
そこで、2017年に千葉・船橋に出店。この5月に千葉・柏に出店した。この「柏の馬肉屋」は60坪100席の規模で、家賃は80万円、アルバイト募集にも十分な応募があった。地元のお客様への認知が速く、平日で1回転、土日祝には2回転近くになっている。沢井氏はこう語る。

この5月に柏に出店、茨城県在住者も来店するようになり都心以上に商圏が広がった

「都心での馬肉の存在はサラリーマンの酒のあてでしたが、ベッドタウンではファミリーがたくさんやってきてくださり、より食事性が求められるようになります。また柏に出店したことで茨城県の方々もいらっしゃるようになりました。柏は、我孫子、取手、土浦といったエリアの窓口になっていて、都心で展開していた当初よりもより広域よりお客様が来店されるようになったという手応えがあります」
このように「馬喰ろう」のベッドタウン展開は新しい可能性を引き出した。

柏での客単価は都心より200円ほど低い。4000円~4100円で推移している。
「馬肉を提供する飲食店の客単価4000円というのは、お客様は高いものと受け取ってはいません。二人で食事をして1万円でお釣りがあると“安い”と思っていただけます。焼き鳥店であれば3000円を切る感覚でしょう」

「飲」を外した業態を開発しチャンスを広げる

社員が定着して年齢を重ねている中で、新しい働き方の環境づくりを進めている。
その試みの一つとして、この3月に馬肉精肉店「HORSE MEAT MARKET BAKUROU」(ホースミートマーケット)を東京・恵比寿に出店した。同店は20時に閉店することから、一般のサラリーマンのような勤務の仕方ができる。

同店を出店したきっかけは、昨今「馬肉を家庭で食べたい」という需要が増えてきていて、通販が活発になってきていることからだ。その動向に対して、「商品は実際に目で確認して購入したい、このような需要は増えると思った」(沢井氏)といい、また年齢を重ねていく社員の今後を考えて、これから多店化していくことを検討している。

また、飲食店の事業でも新業態を検討している。沢井氏はこう語る。
「『馬喰ろう』は酒と食事を提供する店ですが、これから飲食店の“飲”の部分を外した業態に挑戦していこうと考えています。馬肉を扱う居酒屋では、かつて『馬刺し』で事足りていたのですが、最近は調理や見せ方も工夫を凝らした『馬肉料理』が増えてきました。これは馬肉が珍しいものではなくなり、食材として料理の表現の仕方で差別化していこうという流れになっているからでしょう」

現在想定している新業態は馬肉の中華業態とのこと。それは、中華料理は日本の食文化の中では圧倒的なシェアがあるからだ。そして、中国大陸と草原を颯爽と走る馬の姿に豊かなストーリーを描くことができる。馬肉のハンバーガーも十分に受け入れるのでは、と考えている。

「馬肉は馬刺しで使用する高いものだけではなく安いものもあるので、これらをきちんと調理加工をすることによって『飲』に頼らない料理ジャンルで表現することが可能となります。馬肉は唯一生食が認められていて、安全な食肉です。しかも癖がない。決してジャンクなものになりません。安全・安心・健康はこれから絶対になくならないし、伸びていくジャンルです」

「馬刺し」ではなく「馬肉料理」、「焼酎があう」ではなく「馬肉に合うお酒」「オリジナルのドリンク」という具合に「馬喰ろう」は日々進化している

プロモーションに頼らず継続する店を育てていく

そして沢井氏は「専門業態の『専門性』に頼った商売を超えようと常に考えている」という。
それは、例えば「馬肉には焼酎が合う」ということは良く知られたことだが、これを既存の焼酎をそのまま使用するのではなく、前段のBPのところで述べた通り馬肉に合う焼酎や日本酒を蔵元と共同で作り出すとか。酎ハイの中に巨峰やトマトを凍らせたものを入れて提供するとか、「馬喰ろう」で既製品にはない取り組みを行っている。

「馬喰ろう」の存在が知られるようになり、客層も多様化してきた。老若男女が広がって来たきただけではなく、肉体を鍛えているマッチョの来店も増えてきた。馬肉はタンパク質が多くてカロリーや脂質も低いことから、体形を維持するためには重宝する食べ物なのである。

これからの展望を沢井氏はこう語る。
「『馬喰ろう』はプロモーションに頼らず10年後20年後にも継続する店であるよう育てていく。そのために、われわれの理念は少しずつ変化していきます。一つのことにこだわっているのではなくいろいろなことに刺激を受けてアップデートしていくという発想です」

「馬肉の伝道師」の活動は著しい速さで成果を挙げている。そして、次々と新しいステージにチャレンジしている。

「居酒屋は大人の文化祭」と表現する沢井氏は新規オープンのレセプションパーティで率先して店内を盛り上げる

店舗情報

店舗名 柏の馬肉屋
エリア

運営企業情報

企業名 株式会社馬喰ろう
URL http://www.bakurou.com/

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