去る9月、東京・新宿御苑に「博多おでんと自然薯 よかよか堂」(以下、よかよか堂)がオープンした。同店は「天ぷら串 山本家」など6店舗を展開する株式会社やる気カンパニー(本社/東京都港区、代表/山本高史=冒頭写真、以下やる気Co.)の新業態である。

 

ファサードは一枚布でできたのれんを真ん中でくくっていて、それが神社の佇まいに似ていて印象に残る。コの字型カウンター席で中央にオープンキッチンを設けている。天井が高いことから中2階席を設けていて、16坪の中に46席と効率よく客席を配している。

新宿御苑前、裏通りの商店街の中に現れる神社のような店頭

カジュアルながらアッパーな店づくり

よかよか堂のメニューは「一皿おでん」といって特徴が際立っている。いわゆる「おでん」、つまり鰹節と昆布でとっただしに味を付け、種と呼ばれるさつまあげ・はんぺん・ゆで卵などいろいろな具材を入れて長時間煮込む、といった料理ではない。一品ずつ手が込んでいて、一品ずつ別の鍋で煮て、一品ずつ提供するというものだ。

 

ベースとなるだしはあごの焼干しや昆布など数種類をブレンドしたもの。メニューの一例を挙げると、「もち巾着おでん」385円(税込、以下同)、「ロールキャベツおでん」418円、「和牛すじトごぼう 山椒唐辛子添え」同、「雲丹ト湯葉」748円となっている。基本は13品目前後となっている。

同店の「博多おでん」は丁寧にとっただしで一品目ごと別々に調理して一皿ずつ提供する

 

もう一つのこだわりは店名にもある「自然薯」。メニュー名もずばり「山口県産自然薯すりたて生とろ」550円で、山口県直送の最高品質「黄金」を皮ごと擦りおろしたとろろでコクがあり、アクを感じない、もちもちとした弾力が特徴である。

 

さらに、オレンジワイン、ナチュールワインなど、日本酒やワインを幅広くラインアップしている。メニュー構成からお酒とのマッチングに至るまで、外食のボリュームゾーンのワンランク上を想定しているようだ。客単価は5000~6000円を想定している。

契約栽培で仕入れている自然薯は強い粘りが特徴で同店の看板商品となっている

やる気Co.ではよかよか堂が出店した新宿御苑で、すでに「天ぷら串 山本家」を営業している。そして、このエリアのポテンシャルの高さを実感している。同店は緊急事態宣言の当時も営業していてランチタイムだけで15万~20万円を売り上げた。ディナー帯の客単価は5800円となっている。同社代表の山本氏はこう語る。

「周辺は、小さなオフィスと集合住宅が集まっていて、ランチタイムの需要が高い。住民は富裕層で、ディナー帯は客単価3000円の店を必要としていない。土日祝日にお二人で来店いただくと1万5000円くらいのフルボトルワインが出る。そこで、クオリティの高い料理をいかにして納得して食べていただくかがポイント」

 

そのポイントとは、一品一品のクオリティを磨くこと。そうすることによってお客は自分の好みのコースに仕立てて食べる。こだわりの自然薯は一年前から生産者によかよか堂の看板メニューとするために栽培量をお願いした。これらをお客に提供する際には、有り体のものではなく高級品の器を使用する。――このように山本氏は、カジュアルながらアッパーな路線で営業するための方法を語ってくれた。

「独立」の意思を固めてから生まれた縁

山本氏は1990年5月生まれ、徳島出身。小・中・高と野球に打ち込み、高校卒業後は地元の工場に就職した。ここで東京に出て飲食の世界で働こうと考えるようになった。上京し、飲食店での勤務を転々としている中で店舗展開をしている飲食企業と巡り合った。恵比寿のホルモン業態で働いていたが同店の店長が辞めたことから、山本氏は店長を任された。店長であるから店の数字をコントロールしなければならない。まったく初めてこのとだったが、その習熟は速かった。

 

そんな中でふつふつと独立への意欲が湧いてきた。その目標を「3年後」に設定。現状のままでは変わることができないと考え、同店に勤務して1年たって辞めることを決意した。

 

ここからは今日に至る“ご縁”が続いていく。

 

退社することになっている月のある日、「山本のハンバーグ」を展開する株式会社俺カンパニー(本社/東京都渋谷区)の山本昇平代表(以下、山本代表)の一行が深夜同店で送別会を行った。これがきっかけとなり山本代表と山本氏は意気投合し、「3年後に独立する」ことを伝えた。

 

山本氏は店長を務めたホルモン業態を辞めた後、FCジーとして飲食店を展開する会社の店舗を業務受託していた。6カ月継続したが、オーナーは同店を閉店するという。そのタイミングで山本氏は山本代表から連絡を受ける。「当社が考える独立制度で独立しないか」という。

 

そこで山本氏は独立のために物件を探した。しかし、1カ月、2カ月が経過してもなかなか見つからない。そのような中で収入を得るために株式会社バイタリティ(本社/東京都中央区、代表/岩田浩)のお世話になった。バイタリティに在籍していたのは3カ月足らずであったが、同社が朝礼などで行う従業員のコミュニケーションを闊達にする仕組みには大いに感銘を受けた。

月商200万円の店を550万円に伸ばす

そんな最中に、山本氏は山本代表から再び連絡を受ける。

「赤坂にランチタイム『山本のハンバーグ』、ディナータイム『俺のワイン酒場』と二毛作の店舗がある。26坪で家賃50万円だが月商200万円。この店を3カ月間で利益が出るようにすれば、物件を更新して営業を続けていい」

 

いざ、その通りに店を引き受けたものの、お客がまったく来ない。そこでグルメ媒体を活用してみた。この時、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」が大ヒットしていて、その新店が赤坂にオープン。すると店名が似ている「俺のワイン酒場」がにわかににぎわった。2月に業務委託を開始して以来5月には550万円を売り上げた。十分に繁盛店である。ラッキーと言えばそれまでだが、これだけの繁盛店に引き上げることができたのは店舗運営力が備わっていたからである。そして、この年の9月「山本のハンバーグ」と「俺のワイン酒場」はやる気Co.の店舗となった。山本氏が22歳の時である。

 

この後、「串天 山本家」を二毛作の店のすぐ近くにオープン。雑居ビルの2階、15坪22席、居抜きでスタートした。「串天」が誕生したのは、この物件の換気扇が家庭用のレベルのものだったから。「これじゃ焼き鳥は無理だなぁ」と思っていたところ、当時の料理長に「天ぷらを串にしたらどうですか」と言われた。串カツでは既に串カツ田中が勢いをつけているので、串カツではなく「串天」なのだと。やる気Co.のオリジナル業態はこのような発想でスタートした。

 

しかしながら、1年半の間お客でにぎわうことはなかった。従業員が次々と辞めていく中で、当時交際中の妻がホールを手伝うようになった。毎日、二人で深夜まで奮闘。そして、妻はキッチンも担当するようになった。ここから「串天 山本家」の売上が跳ねるようになった。

店内に入ると細長いコの字型のカウンターになっている。一人客、二人客など気軽な利用動機に対応

「串天」ブランドはその後「天ぷら串」に変更した。それは「串天」を名乗っているとお客にとって串カツのイメージと重なるから。やる気Co.の天ぷら串は海の幸、山の幸を一串の中で組み合わせるというもの。例えばサンマとナスという具合に。この組み合わせを食べることで口中に新しい食味の発見がある。価格は一串400~700円だが、食べてみるとその価格の価値が十分に理解できる。「天ぷら串とは串カツと差別化するためにオリジナルを追求しているのだから、その価値をしっかりと伝える必要がある」と山本氏は「天ぷら串」のプライドを語る。

 

これらのメニュー開発と従業員教育は妻の志穂氏が現在担当。調理は標準化することによって高度に均一化するようになり、「天ぷら串」のクオリティを知るやる気Co.のファンは、新宿御苑、恵比寿、八重洲の店舗を目指して食事をする。「串天」をオープンした時には客単価3700円であったが、「天ぷら串」が育つようになってからは5500円を超えるようになっている。

 

山本氏は今後の店舗展開についてこう語る。

「この業態だったらこの街で売れるということではなくて、この街に必要な店をつくっていくという感覚で取り組んでいきたい。これまでビジネス街で展開していたが、これからは代官山、麻布十番とか、感度の高い人が住んでいる街で、われわれが表現する飲食店の価値を伝えたい」

 

飲食店の存在価値は、料理のクオリティを磨くこととその「価値の伝え方」が重要であるという。この商売の哲学が一貫していることに親しんだ顧客がリピーターとなり、それぞれの店舗に同じような雰囲気が醸し出されていくのであろう。

2階席から望むライブ感のあるオープンキッチン

店舗情報

店舗名 博多おでんと自然薯 よかよか堂
エリア 新宿
URL https://www.yaruki-co.jp/index.html

運営企業情報

企業名 株式会社やる気カンパニー
URL https://www.yaruki-co.jp/index.html