アイキャッチの人物はSEP代表取締役の加藤雅彦氏である。同社は近江うし焼肉「にくTATSU」の3店舗を運営受託している。運営受託と述べたが、人材を採用し、育成し、そして店舗展開も担っている。

 

1号店は2018年5月東京・青山の外苑前に近江うし専門の個室焼肉店としてスタート。地元密着を心掛け、客単価がランチ4600円、ディナー8000円の焼肉店として定着している。2号店は2019年8月銀座にオープン。そして3号店の渋谷店をこの9月にオープンした。青山、銀座の店はコロナ禍にあっても低迷することなく営業を続けた。

 

渋谷の店のコンセプトは「カジュアル&リッチ」。青山、銀座で培ったリッチなノウハウを若者が多い街の渋谷でカジュアルに表現するということ。接客は丁寧であるが、表情に親しみやすさがある。これがSEPならではのサービス力と言える。社名の由来は「スマイル・エナジー・プリビアス(笑顔・元気・前へ前へ)」である。

渋谷パルコ近くの路面に「カジュアル&リッチ」コンセプトで営業する

グローバルダイニングで「サービス力」に目覚める

飲食業の経営者の中には、長谷川耕造氏が率いるグローバルダイニング(以下、グローバル社)の卒業生が数多い。その理由はグローバル社に独立心が養われる企業文化があるからだろう。加藤氏もその一人である。グローバル社のサービス力には目を見張るものがあるが、それを自分のものとすれば、飲食業界の中で勝つことができる

加藤氏がグローバル社で働くきっかけとなったのは、先輩に相談事をしていたときに食事をしていた店がグローバル社の店だったということ。この時、加藤氏は「お客様に喜んでいただく仕事がしたい」という思いがあり、実際にその店で体験している居心地のよい空気感に魅かれて、グローバル社の店で働くことを決断した。そして現場に立って、どうすればお客に喜んでもらえるか、常にお客の立場になって一生懸命に考えた。いつしか周りの人たちからサービス力を称えられる存在となった。

その当時の学びが加藤氏の今の事業を形づくっている。

 

加藤氏は2002年に接客分野のコンサルタント会社であるアンドワークスを立ち上げた。「これからの飲食業はサービス力が差別化のポイントになる」と考え、グローバル社で学んだことを全国の飲食業界に伝えることをミッションとした。サービス力を養うための本を執筆し、セミナー活動を盛んに行った。

 

筆者が加藤氏のことを知ったのは十数年前のこと。知人から「焼き肉店の運営について日本で一番詳しい人物」と紹介された。加藤氏はセミナーを受講したメーカーの担当者から、飲食店のサービス力をサポートする仕事の依頼を受けるようになり、それが焼肉店のサポートで実績を重ねるようになり、焼肉店のエキスパートとなっていった。

 

接客とは「スキル」と「マインド」

加藤氏のサービス哲学が定まったのは、接客とは「スキル」と「マインド」の二つの要素が存在するということを理解したことがきっかけという。「スキル」とは時間がたつと慣れるもの、「マインド」とは時間がたつと忘れるもの。「そこで現場ではスキルにマインドを重ねることが大事」という。

 

これを加藤氏は「トイレ掃除」を例に挙げてこのように表現する。

「『トイレを掃除しよう』というだけではスタッフに浸透しない。そこで『ギンギラギン』といったワードを使用する。『ギンギラギン』とは、掃除して光り輝いた状態。このような状態を一度体験するとトイレに対して『すてきだなぁ』という意識を抱くようになる。このような意識を持っている人は、ペーパーでトイレの水をふき取るという行為だけでも、トイレがめちゃくちゃ光り輝くようになる」

 

年間出荷頭数が5000頭という希少な「近江牛」を使用

この法則を接客に落とし込むと、日々の接客は「スキル」として慣れていくが、これにお客に喜んでいただくという「マインド」が強く働かなければいけない、ということだ。このような加藤氏の考え方が多くの飲食業者から共感を呼び、焼肉店で実績を上げた。

 

「にくTATSU」という店名の由来は、「肉が立つ」というシンプルなことだが、これこそ肉の凛とした状態を示し、クオリティの高い肉をおいしく食べていただくという姿勢が込められている。数ある銘柄牛の中から「近江うし」専門店としたのも加藤氏の経験値によるものだ。「近江うし」は年間出荷頭数が約6000頭(※1)という希少なもので、滋賀県の現地のサプライヤーから独自に仕入れている。

 

(※1)編集部注:出典「「近江牛」生産・流通推進協議会」

 

来店目的の意識の高さに適格に応える

加藤氏の「焼肉店」のあるべき姿は、「焼肉を食べたいという目的意識を強く持ったお客様に適格に対応すること」という。

 

「お客様は予約を入れた段階で焼肉を食べるモードに入る。店にいらしたらスムーズにご案内する。早く食べたいという心理を受け止めて、すぐにオーダーを受ける。肉の盛り付けに気を配り、肉を焼く前にサプライズを演出する」

 

このような発想から「にくTATSUコース」8500円(税込)や「にくTATSU盛り」2200円をおすすめメニューとしているが、単品でも看板となっているメニューもある。

焼肉はお客様が調理する(焼く)ものだから、焼く前の盛り付けは特に重要と説く

「近江うし」の味を一番分かりやすく伝える「極上サーロインステーキ」3080円。1頭から2~3㎏しかとれない希少な部位の「和牛極上ハラミ」2990円、さっと炙ってポン酢でいただく「極上ロース焼きしゃぶ」2640円、「にくTATSUユッケ」1595円、「極上タン塩」2970円、また長時間煮込んで柔らかくなった上質なタンを揚げてパンに挟んだ「やわらかタンカツサンド」2200円(2切れ)は、食事としての他に土産品としても定番となっている(※2)。

 

「にくTATSU」は全室が個室で電源とWi-Fiが設けられている。このような機能があることからお客のそれぞれが独自の使い勝手を楽しんでいる。コロナ禍で見られたのはパソコンを持ち込んでのZOOM飲み会。一人または二人で個室を利用して、パソコンの向こう側の人と食事を共にするというものだ。

(※2)編集部注:すべて渋谷店での提供価格。

全室個室であるからお客は思い思いの使い方を楽しむことができる

コロナ禍にあっても「焼肉店」はさほどの影響を受けることはなかった。それは通常営業から「換気」を充実させていて、コロナ禍になってこの機能をアピールしたからとされている。それも重要な要素であろうが、消費者にとって外食で最も食べたいものは焼肉だからと筆者は考える。少し古いデータだが、ROIの「ファンくる」が2020年5月15日に一般消費者1000人を対象に行った「緊急事態宣言明けに行きたい外食」の第1位に「焼肉」が選ばれていた。

 

「当社では20年、30年続く店をつくっていく。恋人同士が結婚して、子どもと一緒に来て、子どもが大人になって、子どもを連れてくるといった生涯顧客を育てていく」

 

このように加藤氏は語るが、「外食で最も食べたいものが焼肉」という来店目的の意識の高さに適格に応じるサービス力を備えているからこそ、長期的なビジョンで焼肉店の運営を語ることができるのであろう。

 

店舗情報

店舗名 近江うし焼肉「にくTATSU」
エリア 渋谷
URL https://nikutatsu-shibuya.com/

運営企業情報

企業名 株式会社SEP
URL https://nikutatsu-shibuya.com/