焼肉店の業界はフードサービス業の中で今や最も勢いがあると感じている。それは、1万円を超える高級店、8000円のクラス、6000円・5000円あたりという具合に焼肉店が類型づけられ、近年では一人焼肉を標榜する客単価1400円の「焼肉ライク」が急速に出店ペースを上げている。このように、焼肉店それぞれの客単価に対するお客様の価値観が明確になっている。

このようなマーケットの中で、低価格食べ放題とミドルアッパー(6000円・5000円あたり)という路線で焼肉店を展開しているのが株式会社パッションアンドクリエイト(本社/東京都港区、代表取締役/豊島堅太)だ。

株式会社パッションアンドクリエイト代表取締役の豊島堅太氏

 

「社長になる」目標に向かって学びと経験を積む

豊島氏は1981年10月生まれ、北海道当別町出身。小学生の時にアルペンスキーをはじめ、中学生時代からスポンサーがついて、中学・高校とも全国チャンピオンとなった。しかしながら、最終的にナショナルチームの選に漏れて、スキーは高校で引退した。

そして、「将来は社長になろう」という思いが膨らみ、その道を歩むべく札幌の大学に進んだ。学生時代は自己啓発本や経営者に関する書籍を集中して読んだ。この過程で渡邉美樹氏の『青年社長』と出合った。
豊島氏は渡邉氏の「志の高さ」をリスペクトするようになり、2004年4月ワタミに入社した。

ワタミ時代の豊島氏は同社の新規事業を繁盛店にするなど店長としての実績を積んだが、「社長になる」目標に向かって2007年2月に同社を退社した。

2009年9月「焼鳥の鉄人」新宿御苑店で創業、店名のショルダーに「1500円だけ握りしめて来い!」とある。強烈なキャッチフレーズだ。70分の焼鳥食べ放題飲み放題(税別)で、その後、鶏肉と豚肉の焼肉食べ放題「しちりん炭火焼鉄人」にシフトしていった。

「需要を掘り起こす」発想の業態で起業

豊島氏がこのような業態を選んだ理由は、居酒屋業界を取り巻く状況が大きく様変わりをしていると感じたからだ。大箱の居酒屋では一様に売上が3分の2程度に落ち込んでいた。マーケットがデフレ基調にあり、2008年にリーマンショックがさらに消費に対する不安を強くした。

そこで、「なぜ飲食店にお客様が行かなくなったのか?」ということを豊島氏は考えていくのだが、豊島氏はこのような仮説を立てた。
「お客様の消費は二極化してきている」
「お金があるが使いたくないという消費不安が存在する」
「利用頻度が以前より圧倒的に落ちてきている」
「若い世代のお酒離れ」とは言われているが、これを分析すると、「上司から酒を飲みにつれていかれるが嫌だ」ということも挙げられる。その理由は「自分の時間を無駄にされたくはない」という具合に、「時間消費に対する不安」があるのではないか。

このように「お金に対する不安」と「時間消費に対する不安」を解決してくれる店があるのであれば、お客様はその店をとても便利なものに感じてくれるのではないか。そして、高い利用頻度で使ってくれるのではないか、と考えた。

そこで誕生したのが「時間料金制」「食べ飲み放題」という明朗会計の業態である。さらに、「1時間1500円だけ握りしめて来い!」という文言を生み出した。
「こういうことがお客様にちゃんと伝わっていれば、会社帰りに『飲みに行こうよ』と誘われても店が使われやすくなると考えました」(豊島氏)――つまり、「需要を掘り起こす」という発想だ。

低価格からミドルアッパーの焼肉店にシフト

現在は「鉄人」の展開を抑えて、ミドルアッパーの焼肉店にシフトしてきている。そのきっかけはロードサイドでの焼肉食べ放題が隆盛している動向を捉えたことであった。
そこで、ロードサイドで焼肉店を展開している経営者にプロデューサーとして参画してもらい、2013年7月、ミドルアッパーの1号店「牛8」錦糸町店をオープンした。「和牛をリーズナブルに楽しんでいただく」というコンセプトで、ディナーの客単価は5500円である。

現在「牛8」を12店舗展開、また、この低価格バージョンで「ウシハチJR.」の展開をはじめ3店舗展開。「牛8」を軸とした業態は現在15店舗、「鉄人」は10店舗となっている。

「牛8」のプロトタイプとなる店は渋谷店。スクランブル交差点を見下ろし、立地を含めて象徴的な存在となっている

今後の「牛8」は首都圏で東急沿線、小田急沿線といった比較的所得の高いエリアでの展開を想定している。

これから郊外ロードサイドで「エンタメ焼肉店」を出店したいという。
「現状、郊外ロードサイドで繁盛している焼肉店は、基本的に食べ放題です。そこで先行してヒットしている郊外ロードサイドの焼肉店と真っ向勝負することは避けたい」
「当社が考えていることは、A4のカルビを980円程度で打ち出し、赤身680円、780円、ホルモン500円以下の価格設定にして、ウエーティングスペースから肉の加工場がフルオープンで見えるようになっているとか。月に1回か2回肉のブロックの解体ショーを行うとか。ショーアプに加えて商品の安心感を訴求する。店に入ってから、食事中、店を出るまでの間に当社の店の価値を感じられるエンタメの要素をちりばめるという感じ。体験型の焼肉、ないしは社会見学の要素を持った焼肉店という存在感です」

同社では、将来の焼肉店の展開を見据えて、JAから肉を直で仕入れている。JAが購入した枝肉に同社のスペックで依頼することで、良質の肉を比較的に低い価格で仕入れることができている。ミドルアッパーの店から派生した客単価3000円の焼肉店を展開していこうと考えている。

豊島氏が考えるあるべき企業の姿は「単一業態」「チェーン志向」である。しかしながら、従業員としては「可能性を幅広くしたい」という思いが存在することから、食材や業種・業態にこだわったミッションにしていない。
「当社は常にヒットする新しい業態を生み出すことができる存在でありたい。だから、業態を常につくっていく」という。1業種の店舗数はミニマム50店舗、マックス200店舗というチェーンを複数つくっていくことに挑戦していくという。

食味の特徴が際立つ部位の肉を少量ずつ提供するコースが本領。部位ごとに図解で丁寧に説明する

 

コースで提供する内容にはストーリーが感じられる

事業の方針を定めさせた西山知義氏の教え

豊島氏がこのような戦略を練るようになったのは西山知義氏との出会いによるものと言う。西山氏は焼肉店の革命的な業態「牛角」の創業者で1000店舗体制のレインズ・インターナショナルを率いた人物である。

豊島氏は、この西山氏が中心となった多店化構想を抱く若手飲食業経営者の学びの場「西山塾」の第一期生となるという機会に恵まれた。きっかけは、西山氏を師と仰ぐ飲食業経営者から西山氏の下で一緒に学ぶことを誘われたこと。この時のメンバーのうち2人の会社がその後上場を果たしていて、西山氏の教えがメンバーそれぞれの事業を進める大きなファクターとなっている。

焼肉店の業態モデルづくりに意欲的に取り組む豊島氏は、西山氏には立ち上げたばかりの「牛8」に招くなどして、その都度「西山さんから見てどのように考えるか」「自分はこのような戦略をとろうとしている」ということを訴えかけてフィードバックをしてもらった。「私にとって西山さんは、メンターであり師匠でもあるんです」と豊島氏は語るが、西山氏からのアドバイスを大いなる指針となっている。

西山氏の言葉で最も心酔した言葉は「業態のクレームワークを考える」ということだという。それは、繁盛店をつくったら、10店舗50店舗100店舗と店舗数を積み上げていくのではなくて、「この客単価でこのような利用動機であれば、日本のマーケットの中で何店舗できるかを考える」ということだった。それが「100」であるのであれば、スピーディに100になる方法を考える。これによって過剰な出店とは無縁となり、店を磨くことに専念することになる。

その指摘に倣い、「牛8」が成立しそうな立地を精査していくことによって、「おおよそ80店舗」という結論が出た。そこで、「牛8」は88店舗で打ち止めと考えている。

そして、飲食業の基本は、売上に対するFLの数値を整えておくこと。これを遵守することで利益は必ずや出てくることを指摘された。

さらに、「人に対する想像力を持つ」ということを学んだ。
「これは西山さんがよく使う言葉です。これがない人は事業を手掛けてもうまくいかない。お客さまに対する前に、社員に対しても想像力を働かせないといけない。業態をつくるときも同様で、お客様がその店を利用する時に店に何が必要であるかを考えなければいけない」

このように、豊島氏のフードサービス業経営者としての新しいステージは西山氏の教えとともに築かれつつあると言えるだろう。

同時に、豊島氏の社内に対する発信も社風が大きく変化してきた。
「日本一ファンとクルーに愛されるクリエイティブチームになろう」
これが現在の同社のミッションであり、これをさらに深めていくことによって、パッションアンドクリエイトの企業像を実現していくという。

店舗情報

店舗名 牛8
エリア 渋谷

運営企業情報

企業名 株式会社パッションアンドクリエイト
URL http://www.pandc-vc.co.jp/

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