アイキャッチの人物はJ・ART代表取締役の坂井哲史氏である。坂井氏は飲食業界の歴史の中でも業界にトレンドを生み出すアイデアマンとしての才が光る存在である。

 

坂井氏は1948年1月生まれ、岐阜県各務原市の出身。祖父母が旅館業を営み、父母が縫製業を営むという起業家精神にあふれた家庭に育った。大学卒業後、メーカーの営業マンとなったが、「刀剣ビジネス」で起業する。ここで資金を得て、1980年5月「餃子の王将」のFCに加盟、2店舗同時出店し繁盛店に育て上げた。

 

次に展開を始めたのは「焼肉屋さかい」という焼肉チェーン。1993年10月に1号店を岐阜市にオープン。同店は焼肉価格破壊でたちまち繁盛店として全国から注目を集めるようになった。焼肉チェーンでは「牛角」が一世を風靡したが、牛角の創業店舗は1996年1月にオープンしていて、焼肉屋さかいはそれに先駆けてチェーン展開をしている。1999年には直営・FCで200店舗体制となり、株式の店頭登録を行った。1号店のオープンから6年目で株式公開を達成するという異例の速さであった。

 

焼肉業界は2001年9月に発生したBSEによって大きな転換期を迎えることになったが、焼肉屋さかいも同様であった。そのような中にあって、2004年12月岐阜市の郊外ロードサイドにオープンした「元町珈琲」が大ヒットを飛ばした。坂井氏によると「焼肉屋さかいを展開していた時に、郊外でのコーヒー市場の可能性を感じていた」ということだが、同店には1日1000人のお客がやって来た。「田んぼのなかに人が湧いてくる」感覚だったという。

 

その後、焼肉屋さかいを中心とした事業はジー・コミュニケーショングループに引き継がれ、大ヒットした「元町珈琲」は坂井氏の元を離れることになったが、そのアイデアは「さかい珈琲」として再び形となって比類ない繁盛店となった。

 

日本人が好む「焼肉」「うなぎ」に着眼

元町珈琲は郊外ロードサイド型のカフェであったが、「さかい珈琲」のつくり上げた業態モデルは、“新世代型ファミリーレストラン”というもの。独自にブレンドしたこだわりのコーヒーとふわふわのパンケーキによって豊かなティータイムを提供することに加えて、フードメニューを充実させることによって全時間帯型の業態として注目されるようになった。ターゲットはずばり女性で、メニューの一つ一つに“健康志向”“彩り”のこだわりが一貫している。のちに大手ファミリーレストラン系がこの分野に参入してきたが、「さかい珈琲」はまさにこの市場を切り拓いた存在である。現在全国に27店舗を展開している。

 

そして、J・ARTではこのコロナ禍にあって丼チェーンのフォーマットを開発し、FC展開を進める体制が整った。店名は「炭火蒲焼 かば金」と「炭火 うなぎ美濃金」である。

 

まず「かば金」のメニューは、豚肉の薄切りを「秘伝自家製蒲焼たれ」をうたううなぎのたれにつけて備長炭で焼き上げ、これをご飯に合わせたもので構成。メイン商品は「炭火蒲焼き豚丼バラ」「炭火蒲焼豚丼ロース」で、みそ汁と香の物がついて並盛880円(税込、以下同)となっている(小盛780円、大盛980円)。これにサラダを付けた定食スタイルがそれぞれ1080円、「豚唐揚げ定食」1080円、「ゴロゴロにんにく豚唐揚げ定食」1280円、「ローストビーフ丼」並盛1000円、大盛1100円とバリエーションを豊富にした。

三元豚の薄切りを蒲焼のたれにつけて備長炭でじっくりと焼き上げたものを丼に仕立てている

代表の坂井氏はコロナ禍にあって、これからチェーン展開するための業態を画策した。そして、「日本人が伝統的に大好きな食べ物」として「焼肉」と「うなぎ」に着眼した。

 

「日本人はみなさんうなぎが大好きです。しかし、うな重は一般的に4000円、5000円という価格になっているので毎日食べることができない。うなぎを豚肉に変えれば毎日食べられる商品ができるのではないかと考えた。また、うなぎはうな丼にして親しみやすい価格で提供しようと考えた」(坂井氏)

 

こうして、2020年10月東京・末広町に「かば金」1号店(43坪)をオープン。この店は同社東京本部のあるビルの隣の路面にあり、オフィス物件であったものを飲食店の仕様につくり替えた。「かば金」はその後、愛知県春日井市に郊外ロードサイド型店舗(60坪)をオープンした。

オーダーはタッチパネルで行い、クイックに商品が提供される

もう一つの「美濃金」はうな丼の店で、この10月岐阜県各務原市にオープン。うなぎを蒸し焼きではなく、直焼にしているのが特徴だ。一般的なうなぎ専門店のメイン商品はうな重で高額になるが、「美濃金」のうな丼は、並1700円、上2300円、特2800円となっている。

 

「さかい珈琲」に続くチェーン展開の体制

「かば金」を二つの店で検証を重ねてきて見えてきたフォーマットは「30坪」「客単価1000円、1日客数200人、うちテイクアウトが50食」というものだ。テイクアウトとデリバリーも慎重に検証することでフォーマットの中に組み入れることができた。

テイクアウトを直営店で検証して「1日50食」のフォーマットとなった

 

出店に際しての標準的な投資額は「工事費2240万円」「加盟費450万円」「開業費180万円」としていて、3000万円以内で出店が可能としている。FC展開ではロイヤリティを3%としている。

 

「かば金」の豚肉は現在カナダ産の三元豚を使用、これを国産に切り替えることによって劇的にクオリティがアップするということで、現状契約している豚肉を使い切ってから国産に切り替えてFC展開を本格的に進めていくという。

 

「かば金」のクオリティについてはそれぞれに大きなこだわりがある。豚肉は備長炭でじわーっと固くならないように焼き上げる。たれ、しょうゆ、みりん、たまりは自社で開発した上質のものを使用。中でもテーブルに備えた山椒は“山椒の王様”と称される「飛騨山椒」を使用している。米は、坂井氏の地元である岐阜のブランド米「ハツシモ米」のなるべく新米に近いものを羽釜で炊き、炊き立てを提供する。

東京・末広町の店舗は43坪だが、標準店は30坪を想定している

 

「かば金」の都心型店舗ではディナー帯での居酒屋利用に期待を寄せている。そこで、「かば金」に使用するメニューを応用してつまみメニューの開発を行った。現状は「蒲焼豚バラ」「蒲焼豚ロース」各780円、「炭焼きスペアリブ」(3本)980円、「炭焼ソーセージ盛り」980円、「炙り枝豆」380円、他に揚げ物、サラダ、キムチ・塩ダレキャベツといったおつまみも充実している。

 

こうして、「かば金」は丼のファストフードと居酒屋という二毛作型での業態を確立しようとしている。「美濃金」も新しい市場を発掘する構えである。これまで外食シーンの中でトレンドの先駆けをつくってきた坂井氏のアイデア力が今後どのような展開を見せるか大いに注目される。

 

店舗情報

店舗名 炭火蒲焼き かば金
エリア 末広町
URL http://www.kabakin.jp/

運営企業情報

企業名 株式会社J・ART
URL http://www.j-art.co.jp