冒頭の写真の人物は際コーポレーション株式会社(本部/東京都目黒区)代表取締役の中島武氏である。同社は飲食業や宿泊業をはじめ、家具・衣料品・雑貨販売などの企画・運営・支援を行っている。「ライフスタイル創造企業」を標榜し、グループの店舗数は400弱となっている。中島氏は1948年1月生まれ、社会人は航空会社勤務から始まり、金融会社に転身するなど、会社経営のノウハウを積んで、1983年に独立。東京・福生から事業を開始して、1990年に現在の会社を設立した。

 

中島氏は、昨年のコロナ禍にあって政府や東京都に「要望書」を提出し、飲食業界への対応の改善を求めた。コロナ禍における飲食業界が置かれた状況と、それに対してどのような活動が行われたのか、中島氏の活動から今一度確認しておきたい。

 

国と東京都に要望書を提出し改善を求める

中島氏の要望書の1回目は2021年1月13日、東京都知事の小池百合子氏宛て。時短協力金を中小企業だけではなく、従業員100人以上の飲食業にも支給してほしいという内容であった。「大手飲食店は一つ一つの店の集約で成り立っております。そこには従業員がおります。家賃を大家さんに支払っております。米も野菜も、魚、肉もすべての生産者とつながっております。私たちは自分たちの生活を守るために懸命です」と訴えかけた。

 

2回目の要望書は同年6月1日。東京都ほか大阪府、京都府、兵庫県に緊急事態宣言が発出され、酒類を提供する飲食店には休業、それ以外の飲食店には20時までの時短要請があった。これに対し、東京都知事の小池百合子氏宛てに、「酒類提供禁止措置の緩和」を求めた。

 

この二つの要望書が求めたことは、果たしてかなえられることになった。飲食業者が自らの生活と従業員や関連業者を守るために、国や自治体に声を上げることの正義を確信した。

 

3回目は7月12日、当時の内閣総理大臣の菅義偉氏と内閣府特命担当大臣(地方創生)の坂本哲志氏に提出。この日に発出された4回目の緊急事態宣言によって東京都の飲食店では酒類の提供が禁止となった。その要請に従う飲食店が存在する一方で酒類を提供し、20時を越えても営業する飲食店が存在するようになり、営業に優劣が顕在化するようになっていた。

 

酒類提供禁止に逆らう飲食店は経営を防衛するためである。国が飲食店に酒類提供禁止を要請するのであれば、より毅然とした形で要請するべきだと中島氏は訴えた。「新型コロナ収束に向かう動きが一つにならない」ことを大いに憂慮しているからだ。そこでこの要望書は、飲食店の「営業収入の減少を現実的に補填することができうる水準の補償についての再検討をお願いいたします」と結んだ。3回目の要望書は、それまでの正義を貫き通すために必要なことであった。

 

このように国や自治体からの要請を守り通した理由について、中島氏に尋ねた。

「日本の国の中にいて、みなさんで選んだリーダーに従うのは当然のこと。みなさんと力を合わせてコロナ禍をシャットダウンしようと考えました。要望書を出したのは、『われわれはキチンとルールを守る』という意思表示もあった」

 

コロナ禍にあってヒット業態を誕生させる

このような中島氏と際コーポレーションの一貫した姿勢は経営面にも表れた。それは同社がコロナ禍の中で生み出したうなぎ専門店「にょろ助」が大ヒットを飛ばし、飲食業界に「うなぎトレンド」をもたらした。

 

「飲食店は売れない」という嘆く市中に対して、中島氏は「コロナ禍でも売れる飲食店は売れている」「20時の時短でも、20時までに合わせてお客様がやってくる店がある」という信念を掲げた。それを貫いたことの成果と言っていい。

 

「にょろ助」が誕生するきっかけはこういうことだった。

同社では東京・赤坂でうなぎ専門店「瓢六亭」を営んでいた。しかしながら、コロナ禍で赤坂から人がいなくなり、鳴かず飛ばずとなってしまった。

 

そこで同社の役員稟議があった。ここでは「撤退」という文言が連なるようになり、最終判断を下す中島氏は「1カ月間時間くれ」「売れるようにするから」と答えた。

中島氏は1日考えて「潰れるなら、もっと原価かけてやってみよう」と判断し、新しい売り方に向けての準備を3日間取り組んだ。

 

赤坂店の新しい価格は「鰻重」が「蒲焼一尾」3080円(税込、以下同)、「蒲焼一・五尾」4180円、「蒲焼二尾」4950円である。二尾の場合は、蒲焼と白焼の食べ比べもできる。ざっくりと一般的なうなぎ専門店の価格の8掛けといった設定である。これらで原価率は40%強となっている(価格とメニュー構成は店によって若干異なり。価格や数値はすべて当時のもの)。

「にょろ助」が大ヒットしたポイントは巣ごもりになったお客が「おいしい外食を食べたい」と思うようになったところに割安感をもたらしたこと

 

「瓢六亭」から「にょろ助」となった最初の営業日の売上は70万円、翌日の日曜日は90万円を超えて繁盛業態となった。今後は出店要請のある商業施設内に出店する意向だ。

10月1日に緊急事態宣言が明けて以来、11月20日東京・銀座四丁目の「銀座ブルーリリー ステーキ&チャイニーズレストラン」を再出発させた。これまで同店は中華料理の店でインバウンド需要も多く、当時大層繁盛した。その店を“ステーキハウス”での再生を図ったが、従来の“中華料理”のファンも存在することから、二つをつなげて“ステーキ&チャイニーズ”とした。店内装飾はレトロモダンを踏襲し“古き良き時代に思いを寄せた紳士淑女の社交場”をイメージさせる。中島氏によると当初は違和感を抱いたとのことだが、お客がこのメニュー構成を楽しく受け入れてくれたという。

「古き良き時代」「大人の社交場」をイメージした内装で、店に来ることにわくわく感がある

 

メニューのメインとして打ち出しているステーキで、国産黒毛和牛の経産牛を主としている。元気な仔牛を生むために健康的に育った母牛で、サシが少なく風味やうま味が強いことが特徴。ここ数年の赤身肉ブームやSDGsの観点から人気が高まっている。同店では仕入れた肉の状態を見ながら、熟成させるものとすぐに提供するものを判断して管理している。

 

また、日本を代表する銘柄牛の神戸ビーフと食味が安定している米国産ビーフ、さらに自然な形で育てられた国産のグラスフェッドビーフもラインアップして銀座に集まるさまざまな客層のニーズに応えようとしている。

 

ステーキメニューは幅広く、アメリカンTボーンステーキが1万7000円(2名様相当)、黒毛和牛のウチモモなら3400円から。コースは8800円からとなっている。

経産牛、国産グラスフェッド、神戸ビーフ、米国産ビーフとさまざまな牛肉をそろえることで多様な客層に応えている

同社では、これまでステーキハウス、ハンバーガーレストラン、焼肉店など牛肉を扱う飲食店を展開し、その仕入れのために毎月10頭程度を自社で買い付けしていて、コストを抑えるとともに牛肉の有効活用を図っている。

 

「お客様は自己承認を求めている。それは自分を認めてほしいということ。そこで、これからの飲食業は『おいしさ』もさることながら、ブランディングが必要です。『○○に食べにいった』ということを人に語るときに、自慢できるような世界観をつくる必要がある」

 

食材の肉や端材のさまざまな使い道によって、ひき肉でコロッケやメンチかつ、餃子にしたり、すね肉を煮込んで「カレー屋」を展開するとか。コロナ禍で「Kiwa Bazaar」(キワバザール)という通信販売を始めているが、「銀座ブルーリリー」がきっかけで誕生した商品によって、ここでのラインアップを豊かなものにしていきたいという。

 

中島氏の社会に対して信念を貫き通す姿勢から、際コーポレーションが展開する業態の力強さとバラエティの広がりが表現されている。

店舗情報

店舗名 銀座ブルーリリー ステーキ&チャイニーズレストラン
エリア 銀座
URL https://kiwa-group.co.jp/bluelily_ginza/

運営企業情報

企業名 際コーポレーション株式会社
URL https://kiwa-group.co.jp/

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