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  3. 上野の街に「絆」を育んだ「食べないと飲まナイト」発起人

 

「食べないと飲まナイト」(通称、たべのま)というイベントがある。これは飲食店街がお客さまに食べ歩きを楽しんでいただくというもので、第1回は「上野仲町・湯島」で営業する40店が参加して、2011年5月10(火)11日(水)に開催された。この試みがユニークだということで、その後「赤坂」「広島」「神楽坂」「鳥取(米子・朝日町)」と全国に広がった。そして、今年の10月29日(火)、30日(水)の二日間上野仲町・湯島での第13回が開催される(参加店舗49)。全国での累計では第38回となる。

 

このイベントを発案した人物は前川弘美氏である。上野仲町通りを中心に飲食店を展開する長岡商事株式会社の代表を務めている。

前川氏は長岡商事創業者・長岡清吉氏の次女として育ち、服飾デザイナーの後に雑誌編集者をしていた。そして、2006年に家業である長岡商事に入社した。

長岡商事株式会社代表の前川弘美氏

 

人の流れを変える「下町バル ながおか屋」誕生

上野は上野恩賜公園という由緒ある公園があると同時に、アメ横という大きな食の観光スポット、また上野仲町通りという大きな風俗街が同居する多面性のある街だ。

 

上野恩賜公園は元和8年(1622年)に徳川2代将軍・秀忠が天台州の天海僧正に寄進したことにはじまり、伝統の象徴として「上野の山」と呼ばれる。一方、長岡商事の本拠地でもある商業と飲食が集まる一帯は「上野の街」と呼ばれる。前川氏は、長岡商事に入社する前から、「上野の山と街が一体化できないものか」と考えていた。

上野仲通りは昭和40年代に居酒屋を楽しむサラリーマンで活気があふれ、後に風俗街と言われるようになったものの、組みひも、画材や、文豪が愛したそば店など、日本に誇る由緒ある店が存在する。

上野仲通りから、上野の街が連帯するイベントが動き出した

 

前川氏はこのように多面性のある上野の「山と街」を一体化させようと上野の文化を論じる「新聞」を発行した。その後長岡商事に入社して、上野の街の改革を自らの事業で実践することになった。

 

「どうすればこの街がよくなるのか」ということを一生懸命考え、まず「パトロールを強化してください」と警察に働きかける日々が続いた。そんなある日、はたと気付いた。「治安を守ってもらうこと以上に、ここに繁盛店をつくれば人の流れを変えることができる」と。

 

そこで誕生したのは「下町バル ながおか屋」(以下、ながおか屋)である。前川氏が長岡商事に入社して3年が経過した2009年のことだ。同店はオープン当初から「ラムチョップがぶりつき」と、「女性客が気軽に入れる店」をアピールした。後に苗場スキー場で夏に開催される「フジロック」に出店を要請されるなど、〝ラムチョップのながおか屋″のブランディングが進み、今やフードの売上の40%を占めるというキラーコンテンツになっている。

「女性が気軽に入れる店」を狙いとして誕生した「下町バル ながおか屋」

こうして「ラムチョップがおいしい」「女性客が気軽に入れる」というながおか屋の存在は、上野仲町通りのイメージを大きく変えていった。そして、前川氏は「街全体の来客数がもっと増えれば、街が様変わりするのではないか」と考えるようになった。

「ラムチョップ」は1本440円で2種類の味を楽しむことができる

 

 

「北の玄関、上野から元気を発信します!」

2010年に居酒屋甲子園の主催で「居酒屋サミット」が名古屋で開催された。そこで名古屋の勉強会「NAGOMU」が食べ歩きのイベントを行い、街とお客さまが一体化した事例を発表した。前川氏はこのことに感銘を受け、さっそくこの事務局に赴き、イベントの総括を伺い、実際に参加店舗を巡った。

「このようなイベントを上野で開催しよう!」と確信し、翌年2011年春開催に向けて準備に取り掛かった。

 

しかしながら、「たべのま」を企画しているさなかに東日本大震災が起きた。そして、世の中に「自粛ムード」が漂った。前川氏の地元では、上野桜まつり、浅草三社祭、墨田川の花火大会が中止となった。このほかの小さなイベントにも自粛が要請された。

前川氏は「たべのま」を自粛するべきか否か悩んでいた。そんな中で「開催するべきだ」と背中を押してくれる出来事が続いた。

 

ある日、被災地に復興支援で赴いた医師が「ながおや屋」を訪ねてきて、「また被災地に行くことになるけれど、ほっとしたくてこの店にきた」と言う。

また、仙台の友人が突然訪ねてきて、「あらどうしたの?」と尋ねたら、「なぜか分からないけど、上野行きの新幹線に乗っちゃったんだよ」という。

 

そこで前川氏は考えた。

「上野は北の玄関口だ。北からくる人たちを、われわれが元気で迎え入れて差し上げよう」

――上野の街には、仕事に従事している人もお客さまも東北の人が多い。「やろうよ! やろうよ!」と後押しし、参加店舗は快く賛同してくれた。こうして、「たべのま」の第1回が開催された。スローガンはこのような文言である。

「北の玄関、上野から元気を発信します!街を、日本を盛り上げていきましょう!」

 

これ以来、「たべのま」は概ね年間2回のペースで開催してきた。

第6回(2014年3月)からは松坂屋上野店も加わり、「たべのま」の趣旨を盛り上げている。このときと第7回(2015年3月)は「東北復興」をテーマに東北の産品を仕入れて、参加店舗がこれらをメニュー化し販売した。

 

趣向が凝らされる「たべのまメニュー」

前川氏に「『たべのま』を継続するためにどのような配慮をしているか」という質問をした。前川氏はこう語る。

「一つは収支バランス。収支がマイナスとなったら継続できない。もう一つはイベントの形式を簡略化すること」

 

形式の簡略化とは、当初はお客さまの参加費を5枚つづりのチケット制にしていたが(前売り1シート3500円、当日4000円)、第6回から缶バッヂ制に切り替えたこと。

チケット制ではこれを一人でも複数で使用しても構わない。参加店舗は、チケットをお客さまから受け取り、「たべのま」が終了後事務局に請求するのだが、このためにチケットを整理する作業が煩雑で、また請求してお金が振り込まれるまでの1カ月ないしは1カ月半の期間が売掛になってしまう。

 

このような課題を解決することと、第6回は「東北復興」をテーマにしていることから、参加者が缶バッヂをつけてエリア内を歩くことでイベントの雰囲気が盛り上がるのではと、第6回からチケット制を缶バッヂ制に切り替えた。これは参加者に缶バッヂを購入してもらい(前売り500円、当日600円)、参加店舗でイベントメニュー(1回800円)を楽しんでいただく。5軒まわったら記念の手ぬぐいをプレゼントする(先着1200人)というものだ。

第6回から缶バッヂ制が取り入れられ、「たべのま」ファンはコレクターになっている

 

筆者は第1回をはじめ複数回「たべのま」を体験しているが、「たべのまメニュー」のお値打ち感にはいつも感動している。参加店舗のそれぞれを象徴するフードメニュー1セットと1ドリンクがセットになっていて1回800円である。例えば、前述の「下町バル ながおか屋」ではフードメニューが「がぶりつきラムチョップ1本、カジョス(スペインのモツ煮)、白身魚のエスカベッシュ、うずらの卵・トマト・オリーブのピクルス」、ドリンクは「ワイン赤白、ウーロン茶、コーラ、オレンジジュース、グレープフルーツジュース」から1つを選ぶというものだ。原価率は100%を超えているかもしれないが、お客さまに「食べ歩きを楽しんでいただくこと」がテーマであることから、参加店舗各店ともに「たべのまメニュー」の趣向が凝らされている。

 

「たべのま」のファンは事前に入手したメニューが掲載されている参加店舗一覧をじっくりと研究していて、特にお値打ちと感じた店には行列ができる。このようなこともあり参加店舗のメニューは年々ブラッシュアップされている。

前川氏はこう語る。

「『たべのま』は私が取り組んでいるというよりも、上野の街になじんだイベントになっています。第8回(2015年10月)に上野エリアをアピールする『youフェス』(湯島・御徒町・上野の頭文字をとったもの)や、第11回(2017年11月)『シャンシャン』(パンダの赤ちゃん誕生)をテーマにしたことも上野の街の人から提案をいただいたこと。また、第10回(2017年2月)の「バレンタイン1day」では上野公園の袴腰広場でハート形のイルミネーションを飾っていただいたり、『たべのま』はみなさんのものという観があります」

 

昨年の第10回(2018年10月)では「ハロウィン」をテーマにすることによって街ぐるみのイベントとしての認知が高まった。きっかけは御徒町南口商店会が「シタマチ ハロウィン」を開催することになったこと。ジュエリータウン、パンダ広場で開催されたのだが、「たべのま」も一緒になって盛り上げようと開催を合わせることになった。

 

また、昨年参加した焼肉店では「たべのま」でお客さまが多数来店するようになり、検索の件数が上がるようになり大手の店に埋もれることなくweb上での順位が上がったという。

 

近年では実行委員がそろい各エリアを分担してまとめる体制が整ってきた。これがスムーズな運営をもたらしている。

 

ちなみに昨年の参加店舗は56で、実際の参加人数に相当する缶バッヂ販売数は2042個であった。訪問した累計は9750であるから、参加者一人当たりの訪問店舗は4.8回となる。「継続は力なり」というが、「上野の街を良くしたい」という前川氏の一念で発案されて継続している「食べ飲ま」は、上野の街に「絆」という文化を定着させてきている。

上野仲通り・湯島地区の「食べないと飲まナイト」の第13回は10月29日(火)30日(水)に開催される

 

 

店舗情報

店舗名 下町バル ながおか屋
エリア 上野
URL http://nagaoka-ya.com/

運営企業情報

企業名 長岡商事株式会社
URL www.nagaoka-syouji.com/

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