最近、焼き鳥居酒屋が高級化している。具体的には7000~8000円あたり。それは原材料が高騰しているという背景もあるが、それだけではなく「外食の楽しみ方」や経営する側の事情が変化してきていることも要因として挙げられるようだ。そのことを含めて、2022年11月東京・代々木に「代々木鳥松」をオープンしたけむり(本社/東京都港区)の代表、アイキャッチの小松大地氏に同社の動向について伺った。

 

高級すし店のような外観、シンプルな内装

まず「代々木鳥松」の概要はこうなっている。

場所はJR代々木駅から西方向へ約5分、小田急線の南新宿駅にも近い。高級住宅街の入口といったエリアだ。車の通行も多い路面で、エントランスは高級なすし店の風情がある。店内も同様で余計な装飾がないところに専門店としての意気込みを感じさせる。店舗規模は18坪でカウンター16席、テーブル6席となっている。

高級住宅街の入口に相当する立地で、一人でサクッと飲む需要や、カップルでゆったりと楽しむ需要に応える
外観・内装ともにシンプルで、高級な専門店としての意気込みを感じられる

焼き鳥の鶏肉は熊本県天草産の地鶏「天草大王(あまくさだいおう)」を使用。天草大王は肉質がよい、おいしい鶏肉として重宝されていたが、産卵率が低く卵肉兼用の輸入種が普及したことによって昭和初期に絶滅。しかしながら、この復元を望む声は絶えることがなく、熊本の農業研究センターで10年間かけてそれを実現した。

 

天草大王は背丈90㎝、7㎏という大きい鶏で、肉質は絶妙な弾力がありジューシー、ほのかな甘みとこくがありながらもしつこさやクセがない。焼き料理、揚げ料理、煮込み料理、鍋料理など料理の幅も広い。

 

一般のブロイラーの飼育日数は40~50日だが、同店では130日かけた天草大王を丸鶏で仕入れている。これを店内でドライエージングによって熟成。届いた丸鶏を脱水シートにくるんで一日置く。その後5日程度、冷蔵庫の中で熟成させる。こうすると地鶏のうま味がぎゅっと凝集される。丸鶏は店内でさばいている。こうるすことでさまざまな部位を提供することができる。例えば、モモは5つの部位に分けて食感の違いを楽しんでもらう。

 

これらをアラカルトで注文することも可能だが(税込:むね生姜330円、かしわ330円、ちょうちん440円など)、あえてコースを設けず、おまかせのストップオーダー制を採用している。飲み物はナチュールワインを取りそろえて、おいしい焼き鳥とのマッチングを楽しんでいただく。

 

同店はオープンしてたちまち評判を呼び、すでにリピーターも定着している。想定していた客単価は7000円で1日の客数は30人程度だったが、現状は8000~9000円でボトルが入ると1万2000円になるパターンも多い。予約をしてくれた20~25人のお客にゆったりと食事を楽しんでいただくことを信条としている。

熟練の焼き師が、クオリティの高い焼き鳥に仕上げる

 

天草大王とナチュールワインのマッチング

代表の小松氏(40)は大学卒業後、サービス力が秀逸なグローバルダイニングに進んだ。ここでクオリティの高い焼き鳥居酒屋の開業を準備していた経営者からスカウトされた。同店で高級な丸鶏のさばき方やメニュー設計、経営のノウハウを学ぶ。2008年8月東京・府中に創業の店「炭火串焼 けむり」をオープン。時代はリーマンショックであったが、吉祥寺、立川、八王子と中央線沿線をガンガン攻めた。独立開業者も輩出し、2022年12月には三軒茶屋に貝専門店をオープン、FC6店舗を含め5業態18店舗となっている。

 

同社メインブランドの「けむり」は客単価3500円。いわゆる大衆的な焼き鳥居酒屋だ。しかしながら、この業態だけでは利益のゾーンは減ってくる。そこで、小松氏は2018年ごろから「高級焼き鳥店」の必要性を感じるようになった。イメージは店舗のハードは冒頭で述べた凛とした雰囲気。しかしながら、商品に関してはそれに見合うものをイメージできていなかった。

 

コロナ禍となり構想はそのままとなっていた。が、そんなある日、以前の常連客からメールが届いた。その人物は東京からIターンによって熊本で天草大王の生産者となっていた。「コロナ禍で当社の天草大王が200羽ほど行き場を失っている。小松さんの会社で仕入れてもらえないか」という内容。早速サンプルを取り寄せて、同社の焼き師である濱口雄太氏とともに鶏料理の試作を行った。そこで最高の食味を引き出す方法が、前述したドライエージングによる熟成であることを発見した。

 

こうして「高級焼き鳥店」のフードは決まった。ではドリンクはということで、ナチュールワインの赤・白・オレンジ・泡と合わせてみたところ、商品の歯車が見事に合致した。

 

「どうすれば焼き鳥居酒屋でお客様から1万円をいただくことができるか。それは既存のけむりの箱を変えるだけでは無理だろう。高級店にかなう新しい箱にさらにクオリティの高い鶏肉とドリンクのベストなマッチングが重要。このような取り合わせを今回実現することができた」

 

これらのストーリーは偶然の産物かもしれないが、小松氏自身が日ごろ妥協することなく理想を高く抱いていたからこそ可能になったものであろう。

高級食材の「天草大王」の焼き鳥にナチュールワインを合わせることで高級焼鳥店の業態は整った

 

高級業態は従業員を成長させる

さらに小松氏は「高級業態で仕事をすることは、従業員に“成長”というプラスの効果を強くもたらす」と語る。高級業態における従業員は、高級な食材に触り、クオリティの高いメニューづくりにいそしみ、そして外食の経験値の高いお客と対面することになる。このような世界には、「自分を磨く」という向上心とその行動力が必要とされる。

 

また、外食のマーケットにはクオリティの高さを理解する顧客が増えていて、経験値が高まるにつれてこれらの層は厚みを増していく。そして、クオリティとサービスの高さを認めることで高い料金を支払ってくれる。こうして利益は増えていくようになり、高い給料を支払うことができるようになる。

 

かつて飲食業は「ブラック」と呼ばれていた。そのことごとくは「安さづくり」「低価格競争」に起因していた。しかしながら今日の飲食業は、原材料の高騰によって「値上げ」が迫られている。そして経済界では「物価上昇を上回る賃上げ」が声高に語られている。けむりのように複数店舗を擁する飲食業は、「代々木鳥松」のような高級店にチャレンジする可能性を持っていると言えるだろう。

 

飲食業が「高級業態」という次のステージに進むためのストーリーが「代々木鳥松」の中に存在している。

 

店舗情報

店舗名 代々木鳥松
エリア 代々木
URL https://mobile.twitter.com/yoyogitorimatsu

運営企業情報

企業名 株式会社けむり
URL http://www.kemurigroup.com/company

新着記事

新着動画

物件を探す

カテゴリーメニュー

メインメニュー