『e店舗media』で執筆している千葉哲幸が、コロナ禍の中で新しい試みを行っている飲食業の事例を見てきている。テイクアウト・デリバリーだけではなく異業種を手掛けたことで、中小も大手も事業領域を豊かにしている。そこで連載の形で、「コロナ禍での新しい取り組みによって、飲食業はどう変わるか」ということを述べていく。

 

5年間で7店舗のドミナントをつくる

東京・三軒茶屋にドミナントで7店舗展開している株式会社和音人(わいんびと、本社/東京都世田谷区、代表/狩野高光)という飲食企業がある。三軒茶屋で創業した「焼鳥 月山」は2015年6月にオープン。以来、5年間でこのような陣容を築き上げた。

代表の狩野高光氏は1987年1月生まれ、飲食業で独立する道を一貫して歩み、グローバルダイニングを含めてさまざまな職場で経験を積み、28歳で独立を果たした。

和音人の店舗は料理のクオリティが高いと同時に客単価も高い。7店舗の中に餃子の店があり客単価3500円だが、他の店はどれも5000~8000円になっている。

この狙いについて、狩野氏は「日本の外食の価格は安い。どちらの店も現状のものから1000円、2000円は引き上げるべきだ。私はこのようなところから日本の外食の地位向上を図っていきたい」と語る。

さて、和音人にこの度の新型コロナウイルス禍が降りかかった。今年に入り1~3月の業績は前年を上回っていたが、4月に入ると通常の3割以下に減少するようになった。

政府は4月7日に「緊急事態宣言」を発出した。それを受けて、狩野氏は9日より和音人の7店舗中6店舗の営業を自粛した。ここからの同社の行動は俊敏であった。

それは、以下のようなものだ。

 

コミュニティを育てるチャンスをつくる

(1)4月10日より、7店舗中6店舗はイートイン営業を休止しテイクアウト営業に切り替え、無添加・無化調の食事を提供することにした。

デリバリーは、業者ではなく同社の社員が行った。地域密着で育ってきた同社として地域との結びつきを大切にしたため。

メニューは軽食やサイドメニュー的な500円のもの、1000円のお弁当、オードブル(3000円、5000円)もラインアップした。デリバリーの場合は2000円以上購入の場合は送料無料、2000円未満の場合は送料300円としている。

開始してから1日80~100食を販売した。

(2)ECサイト(通販)を立ち上げ、オリジナル商品を「和音人 月山 STORE」というサイトで発信した。

商品のコンセプトを山形の月山で一貫している。まず「おうちde 芋煮」「おうち de 餃子」(1700円)を開発、また「山形斉藤の千日和牛」という和音人のブランド牛(1000日飼育の黒毛和牛の雌)を部位別にラインアップ。また、和音人のアンテナショップでも販売している商品を逐次ラインアップ。開始して1週間で40万円を売り上げた。

(3)「社長をタダで貸します」――代表の狩野氏が、他者の社員の勉強会に講師として出講。

営業を自粛している中で、この期間に社員教育や、幹部研修をしたいという会社の要望に応えて、狩野氏が勉強会を行う。ちなみに、4月27日の場合、ホテル業界の企業よりオファーがあり「みんなの知らない危ない食べ物の話」「最強の組織を作る人創り」などをテーマにzoomで60人に向けて講演を行った。

zoomで60人を相手に講演会を行った(人物は狩野高光氏)

(4)オンライン飲み会「zoom de BAR」を開催。

4月10日から、不定期ながら週に3回程度のペースで開催。三軒茶屋のバーから狩野氏を始めとした3人が司会を務め、参加者と盛り上がる。参加者は和音人の顧客、関係者の友人、知人など。東京だけではなく、マレーシア、アメリカ、スイスなど多岐に及んでいる。4月21日は「スラムダンクの勝利学に学ぶ」をトークテーマとして10人程度が参加し1時間強行った。

「zoom de BAR」を進行している合間には、和音人のECサイトの内容を紹介している。

「zoom de BAR」の様子。三軒茶屋のバーを舞台に双方向で盛り上がる

このように和音人では、イートインを休業しているときに、販売チャネルを開拓し、コミュニティづくりを推進してきた。これらは通常営業となったときに大きな力となるのではないだろうか。

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