いまSNS上で「謎の急成長」と話題になっているのが、うなぎ専門店チェーンの「鰻の成瀬」である。1号店を横浜にオープンしたのが2022年9月で、FC展開を始めたのはその約半年後、以来1年3カ月を経て、この7月上旬で200店舗を超えた(うち直営は10店舗)。

アイキャッチが同チェーンを展開するフランチャイズ ビジネス インキュベーション株式会社の代表、山本昌弘氏(40歳)である。なぜ、「鰻の成瀬」が急成長できるのか、山本氏に解説をしていただいたことを、ここで紹介しよう。

 

FC本部に勤務してFCのノウハウを習熟

山本氏は滋賀県の出身。高校を卒業後、イタリアに渡る。ここで語学を習得して、帰国後は英会話教室に5年間勤務。その後、ハウスクリーニングのFC本部に10年間勤務した。ここでスーパーバイザーや、加盟店開発、新たなフランチャイズパッケージを考えたり、法務に関わったり「FCの入口から出口までありとあらゆることを学んだ」という。

 

山本氏はここでのノウハウを生かし、FCの本部を後方支援するコンサルティングを行おうと2020年9月にいまの会社を立ち上げ、この分野の事業を行っていた。

 

「鰻の成瀬」を始めることになったのは、うなぎ専門店の運営を職人に頼らないオペレーションでできる仕組みを構築していた会社の社長と知り合ったことがきっかけであった。

そこは中国をはじめとした海外の養鰻業者とつながっていて、現地で一次加工したものを日本に送り、店舗ではそれを仕入れて、職人ではなく機械が調理するというオペレーションができていた。「鰻の成瀬」はその仕組みを活用した形とのこと。店名の「成瀬」とは、同社の担当者の名前である。

 

1号店の横浜本店は、横浜駅から徒歩約8分、横浜駅の隣、相鉄線平沼橋駅より6~7分のマンションの1階にある。同店は、山本氏の知人が経営していた元居酒屋で、コロナで経営不振になって、それを従業員ごと引き継いだ形でオープンした。ここから「うなぎ専門店を始めた」ことをSNSで発信して、それに興味を抱いた人が集まってきた。ここからFC展開につながっていった。

1号店の横浜本店は駅から離れた住宅街の中にある。「家の近所にある、気軽に食べられるうなぎ屋さん」といったイメージ

「鰻の成瀬」のフードメニューは「うな重」の「松」2600円(税込、以下同)、「竹」2200円、「梅」1600円の3つのみ。ドリンクは瓶ビール、冷酒、ノンアルコールビールのみ。酒のつまみとしての「蒲焼」はない。漬物もない。実に割り切ったメニュー構成である。

 

 

ちなみに、横浜本店の年商は5000万円程度。「鰻の成瀬」の全体では真ん中くらいの位置にあるという。売上が高いところでは千葉店の「年商1億円超え」という例もある。店の家賃や規模などで異なるが、損益分岐点は200万円から250万円あたり。商品の原価率は40~45%、ロイヤリティは固定10万円に売上の4%をプラスしている。

こちらが「梅」1600円。全体で原価率は40~45%となっている

分かりやすくて合理的な業態をつくる

ここから「鰻の成瀬」いう業態の仕組みの数々を述べていく。

 

まず「うなぎ専門店」の魅力について。

「この業種はランチタイムに2000円の単価が取れる。うなぎは日本人の老若男女が大好きな食べ物であるから、目的を持ってうなぎ専門店に行く。そこで価格が業界の水準より安いということであれば、食べに行きたいと気軽に考える。そこで、店は一等立地にある必要はない。居抜きで十分にやっていける」

 

店内では、商品のこだわりや、値段を安くすることが出来ている理由について、書面にして壁に張ったり、テーブルに置いてお客に読んでもらっている。

「その理由は従業員がお客様から質問をされたときに、誰でも同じような回答ができるようにするため。現金払いにしているが、キャッシュレスなどの仕組みを入れることで、加盟店に煩雑な仕事の負荷をもたらせないため」という(キャッシュレスが可能な店もある)。

 

営業時間が11時から14時と17時から20時と短時間にしている。その理由はこうだ。

「ランチの営業時間を11時から14時にしているのは、子育て世代の方が働きやすい環境にしているから。この場合、拘束時間は10時から15時ということになる。朝お子さんを学校に送り出して出勤し、店の仕事を終えて家に帰ると、お子さんを迎えることが出来る」

 

「ディナーを17時オープンにしたのは、晩御飯をつくるのは面倒だと考えたお母さんがテイクアウトでうなぎを買いにきてくれたらいいな、と考えたから。お店で食べる人は18時ごろからやってきて、20時過ぎにはうなぎを食べたいと思う人はやってこないだろうと」

 

店のうなぎの仕入れについては、一次加工を終えているうなぎが店に届く。店ではそれを仕込み作業として蒸しておいて、注文が入ったら仕込んであったうなぎを焼いて提供する。

厨房の機械は厨房メーカーの新品を使用。煙が出ない仕組みになっている。一般的なうなぎ専門店は「重飲食」であるが、煙の出ない「鰻の成瀬」は「軽飲食」で通る場合もある。こうして、カフェの居抜きでも出店することができる。

 

ざっとこのようなことが、店を急ピッチ出店することができて、すぐに安定した営業状態を保つことが出来る要因となっている。

家賃の高い立地での営業状況を把握するために直営で出店した六本木店。週末は唯一深夜営業を行っている。外国人客が9割を占める

 

儲かる仕組みが明確だと細かいルールは不要

さて「鰻の成瀬」では加盟店の募集はしていない。ホームページでも「フランチャイズ募集」ということをうたっていない。それでありながら加盟店が増え続けているのはなぜか。

「加盟される方のタイミングは、当社の問い合わせフォームに『鰻の成瀬では加盟店募集を行っていますか』という問い合わせをしてきて、『もし行っているのであれば是非加盟をさせていただきたいのですが』と、完全に仕上がった問い合わせをされる。そこで当社の状況を説明して引きの営業のスタンスで対応している」

 

「これによって、他責加盟店が発生しなくなる。他責とは、物事・結果の原因や責任が他社にあると思い、振る舞うこと。『鰻の成瀬』の場合は、自分で選択をして加盟したという認識となる。そこで加盟店との間には強い信頼関係が出来ていく。そして『よいFCがあるよ』と、新しい方を紹介してくださる」

 

加盟店になる人は、飲食業の人が約半数で、別の業種から転換して「鰻の成瀬」を始める事例が増えてきている。ほかの半数は異業種からの参入。例えば、青森県のある加盟店は、本業が建設業で、新規事業として「鰻の成瀬」をはじめて、この7月に7店舗の陣容となっている。総じて、加盟店はロードサイドにあって駐車場が整っている店舗の売上が好調とのこと。日商60万円70万円という店もまれではなくなっている。

 

加盟店のすべてはLINEでつながっている。各店の日商はすべて公開されて情報が共有されている。「鰻の成瀬」は今年の2月の上旬に100店舗を突破して、その記念パーティを東京都目黒区の雅叙園で開催、加盟店オーナーが集まってお祝いをした。最大の需要期となる「土用の丑」を今年初めて経験するオーナーがほとんどだが、これもLINE上で、新人オーナーが昨年の「土用の丑」を経験している先輩オーナーからのアドバイスを得て、それぞれオペレーションの対策を整えたという。

六本木の店内の様子。極力投資を抑えながら「日本情緒」を演出している

 

このように本部と加盟店の関係は実にシンプルである。それについて、山本氏は「加盟店のルールをたくさんつくるのは、加盟店の売上が上がらないから。加盟店が儲かっているとルールを細かくつくる必要はありません」と語る。

 

このような「割り切った仕組みのFC」によって「鰻の成瀬」はご馳走の低価格を実現して急成長を遂げている。