海外ですし職人や日本料理人の需要が高まっていることを見聞する機会が増えてきた。そして海外でこれらの料理人として働くと「年収1000万円超」とか、日本の場合よりはるかに厚遇されていることも伝えられている。では、日本で実績を積んできた日本料理の会社ではこの動向をどう捉えているのだろうか。

 

今回はその事例として大東企業株式会社(本社/東京都千代田区、代表/北尾拓也)の試みを紹介したい。アイコンの人物は同社の日本料理のブランド「北大路」グループマネージャーの廣瀬進氏である。廣瀬氏に取材したことから以下に記事をまとめておきたい。

「板前オープンスクール」で職人を短期育成

大東企業は昭和2年(1927年)に創業。東京・銀座エリアを中心に「個室会席 北大路」「個室和室 東山」など飲食店を運営し、現在30店舗を展開している(2023年7月末)。企業パーパスに「NEXT FOOD CULTURE GLOCALLY」(食文化を世界へ)を掲げて、日本の食を世界へ発信する活動を進めている。その足掛かりとなったのは2015年にタイのバンコクにオープンした料亭風の「会席 北大路」で、ここでの活動を基盤として世界視野での日本料理の展開を画策している。

 

冒頭で述べた通り、すし職人や日本料理人は国際的に需要が増えてきているが、その人材が不足しているという現実があった。同社ではこれを解決するために、昨年11月に、未経験でも同社で働きながら(給与を得ながら)学ぶことができる「板前オープンスクール」を開校した。

 

これまで日本料理の料理人がいわゆる一人前と言われるようになるためには10年ほどの時間がかかるとされていた。それは日本料理の厨房には5つほどのポジションがあり、それぞれを習熟し一巡するためである。

 

それを「板前オープンスクール」では「3年後、教える立場にキャリアアップ」を合言葉としている。

これまで料理人の一般的な「修業」期間よりも技能育成を早めたプログラムで新人職人のモチベーションが高まる

このキャリアパスは、年ごとにこのようにまとめている。

・1年目「プロ養成」:板前スクールで技術・作法・心構えを深く学び理解。調理場では先輩の補助役として活躍。

・2年目「プロ」:板前スクール卒業。後輩が入社し、日本料理を後輩に伝承していく立場に。調理場では自分の持ち場が与えられ最前線で活躍。

・3年目「一人前」:板前の花形と言われる刺し場をはじめ、揚げ物や焼き場などひと通りの持ち場を経験。包丁の技術がひと通り身に付き、一人前の板前へ成長。ふぐ調理師免許取得にチャレンジ。

そして、4年目は「キャリア形成」と位置づけ、同社でのキャリアアップや他社や海外でのキャリアチェンジを応援するとまとめている。

 

日本料理人を育成する「和食コース」のテクニカルなカリキュラムは、一般的に3年間を要するものを6カ月で終了できるようにしている。

 

カウンター業務が習熟を速くする

「板前オープンスクール」では「寿司職人コース」も設けて、ここで学んだ新人職人が実際にカウンターに立ち、実践で技術を磨くすし店「GINZA SUSHI BANYA KAI」(以下、バンヤ・カイ)を今年1月銀座にオープン。同店はメニューが「おまかせコース」8470円(税込、以下同)一本で、クオリティの高い材料を使いながら、ロスを抑えて高いお値打ち感を提供していて、54坪46席と大きな店でありながら、予約が取りにくい繁盛店となった。

8470円(税込)のコースが一本の「GINZA SUSHI BANYA KAI」は予約が取りにくいほど繁盛店となった。

新人職人は、最初の3カ月間カウンターの中でベテラン職人の補助役を務める。ここでベテランの技を見ながら、お客への接し方を実際に目で見て覚える。その後はお客の前で握ることを任される。このパフォーマンスのチャンスは新人職人にとって大いなるモチベーションとなり、すし職人としての習熟を充実させている。

 

同社ではこれらの「板前オープンスクール」を実施したことによって、2022年10月から2023年3月までの、すし・和食の板前志望者の応募が212人となり、前年同期で約6倍となった。応募者が増えたこともさることながら、志を持った人物が多く集まるようになり成長のスピードも速くなっているという。

 

「寿司職人コース」のテクニカルなカリキュラムは「和食コース」の半分、3カ月で習得するように編成されている。

 

現在「寿司職人コース」の教室は「バンヤ・カイ」のほか、大東企業の二つのすし店があり、これらで現在約20人が、同社の従業員として給料を得ながら、すし職人としての習熟に努めている。

 

海外の富裕層の多い店で研修を体験

さて、タイ・バンコクの「会席 北大路」では、今年4月より3カ月間働きながら学ぶ研修企画「板前バンコク3カ月チャレンジ」を本格始動した。これは海外志向を持つ料理人をサポートしてグローバルに活躍できる人材育成を目指すというもの。

研修の目的は「日本料理をエンターテインメントとして表現する力を身につける」「文化の違いを受け入れて適応する」というもの。研修の内容は以下の通り。

・現地の文化や習慣、現地の人たちとのコミュニケーションを体感する

・英語、タイ語のお客に対しての受け答えを経験し慣れる

・他の国籍の人と共に働くことの難しさ、それぞれの目的をここに体感し理解し吸収する

・日本料理を知らない、食べる習慣のなかった人達に向けて、教えることの難しさを体験し理解する

・外から見る日本人、日本料理の価値を外から見ることにより、新しい価値観と思考を育てる

・現地での食材の仕入れ、取り扱い方法、調理方法までの一連の流れを理解し体験する

タイ・バンコクの「会席 北大路」は現地の富裕層が8割を占める高級日本料理店。

まさに日本料理店を海外展開するための要員を育成するための研修内容である。同社では年内にバンコクでもう1店、日本料理店をオープンする予定であり、研修終了後には同社の事業で活躍する機会を用意するほか、海外での独立も応援するという。

 

バンコクの「会席 北大路」は、まるで日本にいるような庭園を望むダイニングと9部屋の個室を備えた2階建ての一軒家で100人収容。客層はタイの富裕層が8割で、客単価は日本円で3万円、しかしながら貨幣価値としては日本での10万円に相当する。このようなレストランで研修を受けるチャンスは、これから海外での活躍を求める人にとって有意義なことと言えるだろう。

 

カウンターの店で若手職人のモチベーション高める

大東企業では7月12日、銀座に「北大路倶楽部」をオープンした。18坪・カウンター10席のみという小ぶりな店舗だが、ここでは同社にとって将来を見据えた実験的な要素が豊富に備わっている。

「北大路倶楽部」では若手料理人をカウンターに入ってもらいモチベーションを高めている

まず、料理は「おまかせコース」1本で四季で変化する。スタートしてから10月までは石垣牛を使用した「おまかせ肉割烹コース」全11品1万6500円(サービス料別)を提供していた。

この店の狙いは大きく二つ。廣瀬氏はこう語る。

「まず、若手職人が活躍するステージをつくること。当社に入社してくる職人希望者は3年くらいを経過してひと通りの仕事を覚えると、次の活躍の舞台を求めて辞めていく人もいる。当社の店は個室が多いために、カウンターでの仕事を覚えたいという人がそのスキルを磨きたいという。また、30代の職人で料理長ではない若い人たちに、どんどん当社のお客様に接してもらいたいと考えた」

 

「そして、バンコクでいま準備中の店のメニューや、これから展開を計画している海外店舗のメニューにフィードバックする、そのためのマーケティングの場としたい」

10月まで「北大路倶楽部」で提供される「おまかせ肉割烹コース」1万6500円(サービス料別)の内容。

大東企業ではこれからの店舗展開は日本国内ではなく海外を視野に入れている。ただし、海外展開をする際の雇用の在り方は国ごとさまざまであることから、同じ仕組みで一気に拡大をするという方法をとることはできない。しかしながら、その仕組みが個別に整ったときには店舗展開の大きなチャンスである。

 

同社の「板前オープンスクール」に始まる、すし職人・日本料理人の短期育成と、料理人のモチベーションを高める仕組みによって、すし店・日本料理店の海外展開に向けて基盤をつくりつつある。

店舗情報

店舗名 北大路倶楽部
エリア 銀座
URL https://www.daitohkigyo.com/kitaohjiclub-coming-soon/

運営企業情報

企業名 大東企業株式会社
URL https://www.daitohkigyo.com/

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