東京・立川と神奈川・川崎をJR南武線は西の東京の住宅街を縦断する線路。その南武線と交差する溝の口(東急田園都市線)と武蔵小杉(JR、相鉄線)は人口が急増している街だ。特に武蔵小杉はタワーマンションが林立していることで街の勢いを感じさせる。その中間に挟まれた駅が、武蔵新城と武蔵中原。この街も溝の口と武蔵小杉の勢いによって人口が増えている。古くからの“地元の人”と移住してきた“新しい人”で構成されている。

 

ここで紹介する「モツガスキ」は武蔵新城駅の北口から徒歩5分程度の場所にある。駅から住宅地を結ぶ商店街から路地に入った場所で今年の2月にオープンした。店頭に置かれた満面の笑顔の女の子のイラストをあしらった白地ののれんが際立ってセンスの良さを感じさせる。アイコンの人物が同店のオーナー・山田能正(よしまさ)氏(45)である。

 

タイ料理店の経営でアイデアひらめく

「モツガスキ」を経営するのは株式会社BAKASOUL(本社/川崎市中原区)。代表の山田氏は地元の出身で、20代の後半から「飲食業を起業したい」と考えるようになった。この当時、川崎・溝の口で飲食店を立ち上げた榊原浩二氏(ローカルダイニング代表)と知己を得て意気投合。山田氏は2009年に焼き鳥居酒屋で起業するが、その後榊原氏からアイデアをいただき、ローカルダイニングの事業会社の立ち位置で、2014年にBAKASOULを設立し、タイ料理店の「BAKASOUL Asia」を武蔵小杉にオープンした。同店はタイ人のシェフを招いて、山田氏もタイ料理の知識と技術を高めていった。

 

時代はコロナ禍に突入し、タイ人シェフは母国に帰国。「BAKASOUL Asia」は山田氏がワンオペで営むことになった。これによって山田氏の新しいアイデアが醸成された。コロナが落ち着いてきて、タイ人シェフも本国から戻ってきて、この店はクオリティの高いタイ料理店として定着している。

 

さらに元住吉(武蔵小杉の隣り街)での物件を紹介された。さすがにワンオペのタイ料理店と掛け持ちで営業はできないと考えていたが、焼き肉店で店長を務めていた友人が運営委託を申し出たことから、ここに焼き肉店の「ニクガスキ」をオープンした。今年の2月のことである。この委託先のパートナーが今日的なアイデアや人脈が豊富な人物で、山田氏の商売に大いに生かされることになる。

 

さて「モツガスキ」も今年の2月にオープンした。この店は山田氏が創業した物件である。その焼き鳥居酒屋は地元の同世代の人たちに愛されて、10坪ながらよく繁盛した。その後、知人が「ここで商売をしたい」と名乗り出てきたことから、この物件を譲渡した。そして、このたび先方の都合から再び山田氏がこの物件を引き継ぐことになった。

 

冬場にも強いタイ料理のアイデア

「モツガスキ」の最大の特徴はオリジナル料理の「モツギスカン鍋」。料理名から連想する通りに「モツ鍋とジンギスカン鍋」を合体したものである。この料理のアイデアは、かねて「BAKASOUL Asia」を運営しているときにひらめいて「いつかはこの料理の店を出したい」とイメージをあたためていた。

最初の発想は「鍋料理をつくること」。それは「タイ料理店は冬に弱いから」という。山田氏は過去の経験から「10坪程度の店で、夏と冬では売上が100万円違ってくる」と語る。

鍋の周りに野菜を敷き詰めて中央部で肉やモツを焼く(筆者撮影)

タイ料理の鍋料理は、日本では「タイスキ」がよく知られているが、山田氏は「タイスキよりも辛さがあってパンチが効いたもの」を想定した。そこで今回のベースとなる「ムーガタ」を候補に挙げた。

 

「ムーガタ」はタイ式の焼き肉としゃぶしゃぶの鍋こと。ムーは「豚」でガタは「浅い鍋」という意味。焼き肉やシーフードを鍋にして一緒に楽しむことが出来る。〆にはスープの中に麺を入れて楽しむことが出来る。現地では「タイスキ」と並んで一般的なメニューであるが、日本でよく知られていない理由は「体育館のような店で、お客が食材を取りに行くという業態だからではないか」と山田氏は考える。

 

ムーガタの鍋はジンギスカンの鍋に似ているがそれよりも深さがあり、ジンギスカンの鉄に対してこちらはアルミ製で軽い。使い方は、中央のドーム型の部分で肉やシーフードを焼き、周りの深さがある部分にぐるりと野菜や豆腐をぐつぐつと煮込む。ドーム型のところで焼くことでできた肉汁やシーフードの旨味が野菜のところに流れて来て、旨味が詰まった鍋を楽しむことが出来る。

中央部で焼いた肉やモツの肉汁が鶏ガラスープ、野菜スープに溶け込んで濃厚なスープ仕上がっていく(筆者撮影)

 

女の子のキャラクターが映える

そこで先の「ニクガスキ」のパートナーと相談してアイデアを詰めていった。

「元住吉の店が焼き肉であれば、武蔵新城の店はもっと大衆的なモツにしよう」ということで、豚の三枚肉に加えて、牛・豚・鶏のモツをミックスで提供するようにした。タレには焼き肉のタレのほかに、ナンプラーをベースにしたものも用意してエスニック感覚も楽しめるようにした。

 

現地でのムーガタの鍋はむき出しのアルミ製。軽いことは便利であるが、肉を焼くと鍋に焦げがこびりついて洗う作業が大変になる。そこで現地からアルミ製のままの状態で鍋を輸入して、日本の業者にフッ素樹脂加工を施してもらった。こうして鍋の中の食材の滑りが良く、焦げが付着することのない「モツギスカンの鍋」が誕生した。

 

焼き肉店の場合、ダクトが必要になるが、ムーガタの場合は肉を焼くと肉汁がすぐにスープに溶け込むために煙ではなく湯気となる。この点「モツガスキ」を開業するにあたって、追加投資なしで物件を引き継ぎ、すぐにオープンすることが出来た。

 

店舗は古い内装の居抜きのまま。そこで「ニクガスキ」のパートナーからキャラクターをつくることを提案される。そこで誕生したのが満面笑顔の女の子。このキャラクターは、ストーリーを変えながらBAKASOULの3店舗で共通している。製作をしたのは「ニクガスキ」のパートナーの知人で20代半ば女性のインスタグラマー。BAKASOULの各店に共感を抱いたからこそ楽しいキャラクターを創作することが出来たのであろう。

 

そこで「モツガスキ」では、オープンに際してあえて看板を設けず、このキャラクターののれんを掲げることで「営業中」であることを知らせている。

武蔵新城の店の他、武蔵小杉、元住吉の店舗の同じキャラクターを起用して絵柄を替えている(筆者撮影)

 

 

昔のファンが再びリピーターとなる

こうしてオリジナルの「モツギスカン鍋」を看板メニューとする「モツガスキ」が誕生した。現状はレギュラー1人3300円(税込、以下同)、これに飲み放題を付けて1人5000円で提供している。お客は、冒頭で述べた通り、地元で古くから住んでいる人たちや、新しく移住してきた若いファミリーなどさまざま。かつてここで焼き鳥居酒屋を営んでいた山田氏のファンが、山田氏が「モツガスキ」で再びここで商売を始めたことを聞きつけて店を利用するようになった。

 

メニューが「モツギスカン鍋」だけでは来店頻度が高くならないが、このような「山田ファン」に向けて「トマトキムチ」330円、「長イモキムチ」同といったおつまみメニューをラインアップして、気軽に来店してもらえるように対応している。

 

これらの体制で客単価は4000円程度。原価率は30%を切っている。「モツギスカン鍋」は営業を重ねるたびに知られるようになり、同業者の視察も見られるようになった。これからはこの業態のパッケージも可能になるのではと夢を膨らませている。

 

店舗情報

店舗名 モツガスキ
エリア 武蔵新城

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