アイキャッチはしゃぶ禅株式会社代表取締役社長の菅野雄介氏(50歳)である。菅野氏は、1980年代から1990年代にかけてディスコブームを牽引した「マハラジャ」の創業者、菅野諒(まこと)氏の子息である。

いきなり本題から外れるエピソードから紹介したが、「マハラジャ」の存在感はまさに巨大であった。当時の若者は週末このナイトレジャーに熱狂した。

 

しかしながら、しゃぶ禅代表の菅野氏は、この話題とは一線を画して「しゃぶ禅のあるべき姿」について淡々と語る。1974年生まれの菅野氏にとって、「マハラジャ」が社会現象となっていた時代は小学校中学校当時の出来事であり、無縁のことであったということもその理由の一つである。

 

「しゃぶ禅」の1号店が東京・六本木にオープンしたのは1983年12月のこと。「マハラジャで遊ぶ前に、しゃぶしゃぶを食べていただく」という狙いも込められていた。そこでターゲットに若者も想定して、当初から「食べ放題」を取り入れていた。こうして「しゃぶ禅」は「食べ放題」にこだわりを持つ「しゃぶしゃぶ屋さん」として知られていった。

オープンした40年前当時のパンフレットの写真。時代はバブル経済に向かっていた

 

そこで後述するが、菅野氏は「しゃぶ禅」を「食べ放題」のエキスパートとして、新しい外食の楽しさを切り拓く存在でありたいと考えている。現在「しゃぶ禅」は14店舗、客単価は8000円から1万円あたり。別業態で胡麻だれ担々うどん「ごまいち」が3店舗となっている。

現状の客単価は8000~1万円。接待から記念日まで、ハレの日需要の定番となっている

25歳から飲食店経営の帝王学を学ぶ

菅野氏の社会人スタートは、ディスコブームが静かになった1990年代の後半、グループ会社で不動産管理を担当した。いわばバブルの時代を整理する仕事であった。当時、グループの中では「しゃぶ禅」が順調に推移していて「堅実な商売」とみなされていた。

 

そこで菅野氏はこの分野の後継者として、不動産管理の仕事と同時に「しゃぶ禅」の仕事も手伝うようになった。仕入れからフロア担当に至るまで、あらゆる業務を学んだ。

 

そして1999年9月、有限会社四谷しゃぶ禅を設立。菅野氏はこれまでの業務から離れて、「しゃぶ禅」の加盟店を営む同社の代表となった。当時菅野氏は25歳。資金繰りから店舗運営までのすべてを自分で仕切る帝王学と言っていい。

 

オープンした店の場所は四谷三丁目交差点。地下鉄の駅の真上。熟練の料理人は、六本木の本店から派遣していただき、フロアスタッフなどの従業員は、独自に採用し育成した。近くにあったフジテレビはお台場に移転していくが、それに関連する会社がこの界隈に存在し、同店を接待などで利用することが多く、順調なスタートを切ったという。

 

しかしながら、厳しい経営環境が訪れる。2001年9月のBSE騒動、2008年のリーマンショック、2011年3月の東日本大震災といった大きな局面を迎えるが、菅野氏はこれらを乗り切って経営をつないでいった。

 

2017年3月、しゃぶ禅社長に就任。四谷しゃぶ禅(現・ワイズフードプランニング)と同時に2社を見ることになる。四谷しゃぶ禅は人材からして自分が育てた会社という認識があったが、しゃぶ禅は会社の規模が大きく、また社員の中には自分より先輩の人も多い。ここでは、コミュニケーションの取り方から、組織のあるべき姿をつくり上げていった。

 

「発信」に注力することで客数が上向く

2020年3月、しゃぶ禅の代表取締役社長に就任。コロナ禍が始まった当時である。菅野氏は「1年程度でおさまるのでは」と考えていたが、厳しい経営環境は3年間継続した。厳しい局面をさまざま経験してきたが、今回のコロナは格別のことであった。そんな中にあって自粛要請を遵守しながら、営業は継続した。

2022年の終わりごろから、コロナ禍は落ち着いてきた。インバウンドも少しずつ戻ってきた。菅野氏は、ここより経営再構築に着手した。

その一番のポイントは「発信」である。この分野に詳しい外部の人材を管理者として依頼し、さまざまな仕組みづくりを行った。

 

まず、顧客データの入手と整理。性別、年齢、属性、食事内容などの整理を行った。インバウンド向け発信の窓口も広げた。そして、メディアからの取材も受けるようになった。

「しゃぶ禅」が「発信」に注力することによって、客数は目に見えて回復してきた。2023年に入り、2019年比で客数は毎月1割から2割の増加で推移していった。

 

菅野氏はこう語る。

「このように回復の手応えを感じることができたのは、コロナ禍の厳しい時期に店を休業しなかったからです。ほかの店が休んでいたタイミングで『しゃぶ禅』をご利用されるお客様もいらした。このような地道な努力が、目に見えて改善につながったのだと思います」

 

しかしながら、2023年の12月は予想した売上に達することができなかったという。その理由は、コロナ前の「年末忘年会」といった大人数での利用が予想に反して少なかったから。顧客が「しゃぶ禅」を利用する動機は、コロナ前と比べて、「目的が明確で」より「専門化」していることを察知した。家族での「還暦祝い」「お食い初め」「記念日」とか、また仲間内でのお祝い事での利用が増えてきた。そこでこのような分野への対策に取り組んでいる。

 

「食べ放題」に替わる言葉で表現したい

「しゃぶ禅」は、2023年12月に創業40周年を迎えた。これを機に全国の銘柄牛のフェアを開催期間を分けて展開する計画だ。

 

その一つとして、2024年1月29日から2月29日まで「茨城県フェア」を開催、東京と大阪の「しゃぶ禅」7店舗で「常陸牛(ひたちぎゅう)」や、茨城県が開発したブランド豚肉「常陸の輝き」を、食べ放題で提供している。

 

開催を継続してきて、菅野氏は「茨城県の食材のフェアを行うことがきっかけとなって、魅力的な産品にさまざま巡り合うきっかけができた。これからもほかの自治体の産品にも取り組んで『しゃぶ禅』の発信を魅力的なものしていきたい」と語る。

今回の「茨城県フェア」でバックアップをしていただいている茨城県営業戦略部長の鴨川修氏(左)と、茨城県産の食材をアピール

また、冒頭でも紹介したが、「しゃぶ禅」は創業以来「食べ放題」を行ってきて、この提供方法にこだわりを持っている。

 

「食べ放題」には「負」のイメージが付きまとうことも事実である。それは例えば「90分時間制限」、「同テーブルの全員が注文しなければいけない」「高齢者は食が細いので同一料金は不公平」など。

 

このようなイメージを払拭するために、「しゃぶ禅」ではメニューブックにこのような文言を添えている。

~しゃぶしゃぶ・すきやき食べ放題 しゃぶ禅のおもてなし~

つまり「しゃぶ禅」では、「食べ放題の形で、おもてなしをしている」という姿勢の表現である。菅野氏は「お客様がお会計のときに『おいしかったよ』ではなく『楽しかったよ』と言っていただくような、感覚を抱いていただきたい」と語る。

 

「しゃぶ禅」の「食べ放題」は「お腹いっぱい」ではなく「胸いっぱい」の体験ということになるだろうか。この世界観を表現するために「『食べ放題』に替わる言葉をつくりたい」と菅野氏は語る。

 

「しゃぶ禅」の再構築は緒に就いたばかりである。顧客にとって「しゃぶ禅」の楽しみ方は変化してきているからこそ、「食べ放題」のこだわりを、楽しい体験として育てていくことに、チャレンジのしがいは大いにあるだろう。

茨城県が開発したブランド豚肉「常陸(ひたち)の輝き」(手前)と「常陸牛」。これからはさまざまな自治体と協調してフェアを開催する意向だ

店舗情報

店舗名 しゃぶ禅
エリア 六本木
URL https://www.shabuzen.jp/roppongi/

運営企業情報

URL https://www.shabuzen.jp/

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