澤真人(まこと)氏は「和牛博士」と称される人物である。それが自称・他称を問わずとも、自身の経歴から自然とこのようになった。いかにもおいしい和牛を知り尽くしたグルメの雰囲気が一度会っただけで強く記憶に刻まれる。

 

おいしい和牛を純粋に育成することに注力する

澤氏は1958年10月生まれ、兵庫県出身。ホテルから始まりさまざまなレストランで料理人を務めてから、1988年10 月、30歳の時に株式会社ムラチク(現・エスフーズ株式会社)に入社した。当初は、同社が計画を進めていたレストランの料理長としてであったが、その計画がなくなり、国内の牛の生産から販売まで食肉の現場全体に関わることになった。エスフーズの取締役営業部長を担っていた当時は年間50万頭の牛を見ていたという。ここでの経験で澤氏は大きく才を発揮するようになり、「和牛博士」と称されるようになった。同社と取引のある和牛の焼肉店やレストランのオープニングでは、澤氏が肉の部位ごとのおいしい切り方、食べ方などをパフォーマンスしながら、和牛の魅力を語っていた。

 

2000年を過ぎて、ニューヨーク・マンハッタンのステーキハウスの名門を食べ歩きし、「熟成肉」のトレンドが日本に到来することを確信した。その活動に取り組んだ後に熟成肉の世界から離れて、純粋に育成して健康でおいしい牛肉をつくることに力を注いだ。「和牛博士」らしく、澤氏は牛の話題に触れると自然と牛肉の世界の話題に言及する。

 

「これまで和牛の生育はおおよそ36カ月でしたが、今では26カ月あたりで良質の霜降りができるようになりました。和牛の生育状況を決定するのは、6割が血統、2割が餌、2割が農家の環境です。血統はゲノム(DNAのすべての遺伝情報)が進み、10年前A5等級は全体の1割程度、A4等級は3割程度でしたが、今ではA4等級が85%程度を占めています。さらに鳥取などでオレイン酸が多く融点の低い、脂の口溶けや風味の良い牛肉が生産されるようになっています。雄雌の産み分けもできる。餌はトウモロコシや大豆、コメを食べさせた方が必ずおいしくなります。あと5年もしたらA5等級が90%を超えるようになるでしょう。このようなことを研究しています」

 

「Dr.Meat」ブランド展開のペースが上がる

その澤氏は、30年以上務めたエスフーズを退社して、飲食業経営者となった。

まず、2020年11月、東京・入谷に「Dr.Meat和牛博士のビストロ」(17坪)をオープン。2021年に入り5月東京・半蔵門に「Dr.Meat 和牛博士のビストロ」(26坪)、6月東京・学芸大学に「Dr.Meat 和牛博士の焼肉」(40坪)、そして7月15日、東京・浅草の複合商業施設・東京楽天地浅草ビルの3階に「Dr.Meat 和牛博士のビストロ神戸ビーフ亭」をオープンした。独立後8カ月間で4店舗と出店ペースが速い。

世界展開を目指す「Dr.Meat」のブランドは既に中国で商標登録をしている

「エスフーズにいた当時から、いつかは飲食業界に戻りたいと考えていました。そこで5年タームで頑張ってきた。55歳となった時に、飲食業に移ることを決断したのですが、それ以降もエスフーズに関わって62歳で独立することができた。エスフーズ時代は好きなだけ暴れさせていただいて、とても感謝しています」

 

創業の店であり基本のブランドである「Dr.Meat 和牛博士のビストロ」の看板商品は「絹のローストビーフちらし」1000円(税込)である。酢飯の上にたっぷりのローストビーフとレンコン、さやえんどうなどの野菜がちりばめられている。彩りもよくヘルシーなイメージが伝わってくる。

 

この商品のアイデアは独立する以前から温めていたもの。そして1号店を入谷にしたこともこの商品と関連がある。それは、東京の中心でなく、中高年・高齢者の多い街でも、小さな店で、ランチタイムだけで売上を立てることができる店をつくるということ。これが軌道に乗ればFC展開を想定することができる。現状、原価率を25%としているが、これもFC展開を意識したものだ。

 

入谷では想定通りに中高年・高齢者がリピーターとなり、半蔵門ではこの商品がテイクアウトで1日70~80食が出るようになった。夏真っ盛りとなり、この商品の他に「焼肉弁当」1000円をメニューに加えた。現状の客単価は、入谷は昼1200円、夜4000円。半蔵門は昼1200円程度、夜5000円。学芸大学は昼1400円、夜6000円。「Dr.Meat 和牛博士のビストロ」のブランドに関しては、業態的に整っていると言えるだろう。

「絹のローストビーフちらし」1000円(税込)はFC展開の看板商品に想定している

澤氏が飲食業で独立した背景には、大きなビジョンがある。それを澤氏は経済界で使われる言葉「パーパス」になぞらえる。パーパスとは「存在意義」のこと。そして資本主義経営の後にやってくる概念として「志本経営」とされている。

では、澤氏のパーパスとは何か。それは「世界の人々においしく和牛を食べてもらうこと」という。これから中国をはじめ世界で展開することを想定している。「Dr.Meat」の商標は中国で取得済みとのこと。

 

東京・浅草への出店で「世界」に近づく

さて、7月15日にオープンした「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」は神戸肉流通推進協議会からのオファーを受けて出店したもの。前述の複合商業施設の3階にあり130坪の規模。このうち神戸牛のミニ博物館である「神戸ビーフギャラリー」が50坪で、澤氏が率いるCHEF’Sでは「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」、精肉売場、テラス席、また料理教室として活用できるスペースを確保している。

浅草の複合商業施設・東京楽天地浅草ビルの3階に構えた神戸ビーフの精肉売場

「Dr. Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」は昭和の洋食店をイメージしたメニュー構成で「神戸牛サーロインのビフテキ」4800円、「神戸牛の土鍋ハンバーグ」1980円、「神戸牛 土鍋のとろとろビーフシチュー」2800円、「神戸牛のローストビーフ大名ちらし寿司」1980円、「神戸牛のラグーと開花楼のペペロンチーノ」1580円、「神戸牛のミルフィーユカツ」2500円と、神戸牛をキラーコンテンツとしたバラエティ豊富なメニューをラインアップした。また、トッピングとして「フォアグラ」500円、「温泉卵」100円で選ぶ楽しさを加えている。

 

テラス席では「霜降りレッドクリフ」2980円を看板商品に据えている。これは和牛の肩ロースのちりとり鍋で中に白モツを敷いていて甘さがあるのが特徴だ。これにご飯がついて食べ放題としている。アルコールが解禁となると、このテラス席は浅草の人気スポットとなることだろう。

「霜降りのレッドクリフ」2980円はご飯がついて食べ放題

キッチンの奥にシェフズテーブルを設けていて、1日一組のみ一人3万円のコースメニューを提供する。このスペースは澤氏の知人関連だけでフルに稼働するものと想定されるが、本来の目的はchef’sの料理人たちが、お客様に和牛料理を十分に楽しんでいただくために原価2万円をかけて料理を表現するというステージをつくろうと考えたからだ。

これらのスペースは「神戸ビーフ」を発信する拠点であり、「Dr.Meat」ブランドは「神戸ビーフ」ブランドと並び称されるチャンスを得たと言える。

 

この複合商業施設の1~2階には「ユニクロ」が出店。3階には、神戸ビーフ関連の他に「スシロー」が出店している。コロナ禍が終息し浅草観光が復活してインバウンドが戻ってくると、集客力をいかんなく発揮することであろう。

 

澤氏が描く「パーパス」は著しく速さを増して世界に向かっている。

澤氏は店にいる限り気さくに顧客に応じている

 

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店舗情報

店舗名 Dr.Meat 和牛博士のビストロ
エリア 半蔵門
URL https://chefs-wagyu.com/

運営企業情報

企業名 株式会社CHEF‘S
URL https://chefs-wagyu.com/

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