
タピオカブームは近年大きなブームとなりながら、昨年以降鎮静化している。このブームはどのようにして大きく隆盛していき、鎮静化してから、このブームで揺らいだ事業家たちはどのようにして巻き返しを図ろうとしているのだろうか。
この一つの事例として株式会社Bull Pulu(本社/東京都豊島区、代表取締役会長/加藤二朗=冒頭写真)の動向を紹介しよう。ちなみに同社が展開するタピオカ専門店「Bull Pulu」は、現在全国に74店舗を展開している(うち26店舗が直営/2021年8月末現在)。

目次
ブーム到来の前に「タピオカ」を事業化
タピオカブームは2018年に始まったと言われるが、「Bull Pulu」の1号店がオープンしたのは2010年のことである。それは代表取締役会長の加藤氏の前職での活動がきっかけとなった。
加藤氏は大手流通・小売業に勤務していて、台湾に関わる機会があった。現地でタピオカが大きなビジネスになっていることを目の当たりにして「これは日本で大きなビジネスになる」と感じ取り、加藤氏が開発を手掛けていたショッピングモールで誰かにブランドを立ち上げてもらえないかと考えた。しかしながら、手を挙げる人はいなかったという。
加藤氏は大手流通・小売業に勤務しながら父が事業とする飲食業もみていた。そこで加藤氏は「自分たちでできるのでは」と考えてタピオカ事業を立ち上げた。こうして台湾から良質の食材を仕入れるルートを育てていった。店名の「Bull Pulu」はフレンチブルドッグを愛犬とする加藤氏の奥様が考えた。
その後、知人から「FCをやらせてほしい」という声が相次ぐようになった。しばらくして、日本では「台湾観光」や「台湾フード」のブームが到来し、これがタピオカ人気に拍車をかけた。加藤氏は、父の会社に本格的に関わる必要性を感じ会社に退社を申し出たが、新しく立ち上がった部署で退社ができなかった。ようやく2019年12月退社がかない、現在の会社に就いた。
当時のタピオカブームはすさまじいものがあった。FC募集を公開していなかったが、知人からの要望が相次いだ。2019年の1年間で40店舗を出店した。コロナ禍になっても、既に出店が決まっていたところがあり、厳しい経営状況でありながらも店は増え続けていった。前職のショッピングモール開発の関係者から、コロナ禍で空いた区画に出店して欲しいという依頼もあり、居抜きで出店するというパターンもいくつかあった。

出店コストは、スケルトンからだと1200万~1300万円、居抜きであれば500万~600万円。標準店は8坪、これで月商300万~400万円を狙う。損益分岐点は200万円。これがタピオカブームの当時には1000万~1500万円を売っていた。実に3カ月で回収ができた。
しかしながら、タピオカブームは2020年に入り鎮静化した。その要因について加藤氏は、まず「2019年の終わりごろにブームが過熱して物件の取り合いがはじまり、これによって家賃相場が上がるようになった」、さらに「コロナ禍となり、マスクをつけるようになったことでタピオカドリンクの“飲み歩き”ができにくくなったことが、これまでのタピオカファンを遠ざけるようになったのではないか」と語る。
「直営部門」と「フランチャイジー部門」
加藤氏はコロナ禍にあって、「当社はこれからどのように進むべきか」ということを一生懸命考えたという。その結果「直営部門」と「フランチャイジー部門」の両輪で展開していこうと方針が整ってきた。
まず「直営部門」は、これまで同社のタピオカ事業が大きく躍進することになった「台湾食文化」を基軸として推進していく方針だ。
そこで、創業の事業である「Bull Pulu」は“台湾ポップカルチャー”をコンセプトとして、現状の商業施設を中心とした立地で展開する。本場イタリアのエスプレッソクオリティを核としたコーヒーショップチェーンの「セガフレード・ザネッティ・エスプレッソ」と業務提携を行い、ここのメニューを提供していくなど、タピオカに加えて多様なメニュー構成を取る。

次に、「Bull Pulu カフェ」。これは台湾茶のカルチャーをコンセプトとして、駅ビル、百貨店に展開して、台湾茶が楽しめるほか、持ち帰りのスイーツを充実させる。
そして、フード業態の「Bull Pulu Tenshin」「灯」。台湾屋台フードや豆花(トウファ)をはじめとした台湾スイーツを提供する。さらに、「生ぎょうざ・小籠包」。これは、生餃子の他に小籠包、餃子の販売店である。さらに「Bull Pulu」や「Bull Pulu Tenshin」はFC本部としての事業を推進する。
もう一つの「フランチャイジー部門」は、既にフランチャイジーとしてさまざまな飲食店を展開していることを基盤として、これらを推進していく構えだ。
まず、加藤氏の父の代に基盤をつくった長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」が現状2店舗存在する。
次に、日常外食にエンターテインメントとこだわりの要素を提案するB級グルメ研究所が本部のナポリタン専門店「スパゲッティーのパンチョ」が1店舗存在する。
さらに、台湾ではスイーツや台湾フードの人気ブランド「騒豆花」(サオトウファ)が1店舗存在する。
そして、これから高級パン「牛乳食パン専門店 みるく」を展開する。これは足立区の牛乳販売店が開発したブランドで商品にはプリンやソフトクリームもある。これが業態として加わることによって、同社のターゲットが大きく広がることが想定される。
これらのフランチャイジーの業態を成長させていき、直営部門とのシナジーを図っていこうと考えている。また、後述する卸売り事業のドリンクリンクも推進していく。
「台湾食文化」をミッションに据える
コロナ禍の中で、同社は新しい戦略商品として「台湾カステラ」を生み出し、既存のショップで有効な持ち帰り品として育てているところだ。
台湾カステラとは、日本のカステラと比べるときめが細かく濃密でクリーミーな食味であることが特徴である。カステラをはじめとした和菓子や、ケーキなどの洋菓子とも異なり、スイーツの選択肢を広げる存在である。

「Bull Pulu」の既存店では「台湾カステラ」を焼成する機能を持つところもあるが、この商品の多くは東京・駒込の店舗や埼玉・和光の工場で焼成し、それを冷凍して各店舗に配送している。和光の工場では、この他、餃子の製造を行い、この年末からタピオカも製造してクオリティアップに磨きをかける。
また、同社では株式会社ドリンクリンクという関連会社を擁している。ここでは同社が輸入しているタピオカ、シロップ、茶葉などの商品をB to Bで飲食業者に提供している。例えば同社のシロップを仕入れた居酒屋では、それを使用して自社オリジナルのサワーを提供したり、かき氷に使用しているパターンもある。これらの商品は日本のメーカーにはない、本場“台湾”を感じさせ、また使い勝手のよいことが既存のユーザーから喜ばれている。
加藤氏は「台湾とのネットワークを強くしてきたことが当社の特長であり、これからは当社が台湾によって育まれてきた強みを積極的に売り込んでいきます」と語る。
同社がこれから成長していく場所として想定している場所の多くは商業施設である。これは加藤氏が過去大手流通・小売業を経験していたノウハウを背景としていて、過去から一貫して得意とする場所での成長を描いている。
コロナ禍以前の同社の年商は27億円であったが、コロナ禍で15億円となった。それを今期19億円に巻き返し、5年後40億円を計画している。同社のタピオカ専門店「Bull Pulu」はコロナ禍で揺らいだが、この根源にある「台湾食文化」を改めてミッションとすることによって、ぶれることなく新しいスタートを切っている。
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