「浅草横町」は7つの飲食店、着物レンタルショップと8つの店舗で構成されている

7月1日、東京・浅草に「食と祭りの殿堂 浅草横町」(以下、浅草横町)という“横丁”がオープンした。場所は、浅草寺の近く、ドン・キホーテの向かいの東京楽天地浅草ビルという商業施設の中。ただし、ビルの4階という多くのお客を引き付けるのが難しいとされる“空中階”にオープンした。

 

1フロアの面積が約330坪(一般的なファミリーレストランの3倍強の広さ)、ここに7つの飲食店と着物レンタル1店舗が営業している。ここの月商計画は3000万円だが、初月7月の売上は計画の倍以上となった。客数は平日で6000人、土日祝日はその2倍、7月の合計は26万人となった。8月はお盆期間中に雨が続き、7月ほどの数字に至っていないが、「浅草横町」の活気は相変わらずである。

 

7つの飲食店は以下のようになっている。鰻料理「うなぎの蒲の穂焼 牛タン 焼鳥 馬刺し いづも」34席、大衆肉居酒屋「日本栄光酒場 ロッキーカナイ」97席、韓国専門料理「ハンマート」80席、すし居酒屋「浅草すし」27席、焼鳥・小皿料理「ユラユラ」63席、ホルモン料理「ホルモン ペペ」84席、豚串料理「神豚(シントン)」90席。現状、売上上位店舗は、1位いづも、2位ロッキーカナイ、3位ハンマートとなっている。日中はみな昼酒を楽しみ、夕方から各店舗に長い行列ができる。

 

ここに集まる客層は“老若男女”ではない。ずばり20代30代で、MZ世代(ミレニアル世代とZ世代)と呼ばれている層だ。浅草にお客が戻ってきたとされているが、このフロアにはなおさら活気が感じられる。果たして、どのようにしてこのような光景が誕生したのだろうか。

フロアの中心にあるエスカレーターが吹き抜けの役目を果たし、混雑していても窮屈な印象を与えない

ビルの中と外の空気を一体化

「浅草横町」をプロデュースしたのは株式会社スパイスワークスホールディングス(本社/東京都台東区、代表取締役社長/下遠野亘)。約90店舗の飲食店を運営するほか、飲食店の内装設計および商業施設の環境デザイン、宿泊施設の運営、商業施設の企画プロデュースを事業としている。代表の下遠野氏は「飲食」に関わるトータルプロデュースが評判を呼び多方面で活躍している。

 

同社に東京楽天地から相談があったのは3年前のこと。同社では東京楽天地のグループ理念「東京下町の大衆に健全な娯楽を提供する」ということに大いに共感して、何とか具体化したいと考えた。しかしながら、物件が“ビルの4階”ということで大いに悩んだ。

 

そして、その解決策として打ち出したことは、「ビルの中と外の街が一体化すること」であった。下遠野氏はこう語る。

「日本の商業施設は言ってみれば“おりこうちゃん”です。ビルの中の“におい”というものが外に伝わっていない。これが外に伝わることによってビルの中は街と一体化するのです。4階にある“ビル中横丁”でお祭りをテーマにするのであれば、そのお祭りはビルの全体を練り歩き、ビルの外にあふれ出すような感じで打ち出していかないと。そこで7月1日のオープニングの時は、浅草サンバカーニバルが『浅草横町』から下の階にあるユニクロさんを巡って浅草の街の中を踊り巡りました。今はよさこいとか阿波踊りが巡っています。だから、私たちは外でビラ配りをするのではなく、バカ殿様や忍者をやった方がいい」

 

この下遠野氏の談話を確認するべく、筆者は土曜日の8月27日「浅草横町」で展開されるパフォーマンスを見に行った。この日のパフォーマーは「盆女」(ぼんじょ)という日本舞踊のユニット。17時30分に狐の仮面をかぶった着物姿の4人が「浅草横町」が入っている東京楽天地浅草ビルの下を民謡に合わせ踊りながら淡々と進み、道行く人はそれを写メする光景が見られた。浅草の風物として定着している印象を受けた。

 

「盆女」が「浅草横町」を出て浅草の町並みで踊り歩いている様子。おとぎばなしのような光景

18時から「浅草横町」で時に店内に踏み入りながらマイペースに淡々と踊る。そしてフロア中央に設けられたステージでも踊りを披露し、来場のお客を招いて盆踊りを楽しんでいた。

SNSでバズらせて来場してもらう

「浅草横町」を運営するのは株式会社Hi-STAND(本社/東京都品川区、代表取締役/戸田博章)。アイキャッチの人物だ。戸田氏はバーテンダーから転じてスパイスワークスホールディングス(SWHD)の前身に入社して、店舗運営からブランドマネージャーを歴任。2012年に個人事業主として独立、2014年に現在の会社を立ち上げ、SWHDのグループ会社集団で22社で構成される「ファミリーのれん会」の一員として活躍している。同社では現在、飲食店19店舗を運営し、180人の従業員がいる。

 

戸田氏が“ビルの4階にある横丁”の集客対策として考えたことは「TikTok、YouTubeでバズらせること」であった。戸田氏はこう語る。

「新しくできた施設がテレビで紹介されると40代50代の人がやってきます。しかし、MZ世代と言われる20代から30代半ばの世代は、テレビではなくTikTokとYouTubeから情報を得ている。それらでバズると『この風景と同化したい』ということで、そこに行く動機が強烈に高まることになります」

 

戸田氏は1981年1月生まれで今41歳だが、ライフスタイルや考え方はMZ世代そのもの。このような意識を持って若い従業員を束ねている。この度「浅草横町」を運営することになって、「ぜひやってみたい企画」に取り組んだ。

「それは『浅草横町のアンバサダー募集』。オープンが7月1日で、その1カ月前の6月1日から8月31日まで「#浅草横町」「#浅草」の投稿をしてもらい、「どれくらい浅草ラブなのか」をアピールしてもらう。投稿をしてくれた400人くらいのインフルエンサーの中から100人に絞りバズらせる。その100人から最終的に5人のアンバサダーを選出。このように、浅草横町と浅草をバズらせることによって“横丁”が4階にあっても集客できるのではないかと思っていました」

 

この試みは思いのほか強烈な集客力をもたらしているようだ。それが月商計画に対して2倍のレベルで推移している状況に表れている。現在、食材のストックから人員配置に至るまで予想外のことが起きていることから、運営者としてはオペレーションを鍛える絶好の機会をもたらされた。

お客は昼飲みを楽しみ、各飲食店の前には行列ができる盛況ぶり

 

集客する企画に役立つ仕組み

「ここは観光地です。地元の人は週に1回は来てくださるかもしれないが、ほとんどが『流動的新規客』です。店の利用の仕方は、1杯飲んで定番のメニューを食べて、ほかの店を巡るというパターン。肌感覚で1.8店舗を回っているようです。ここでのホスピタリティを町場で営業しているものと同じレベルで維持していかなければならない。ここで培ったノウハウは、地方都市などで集客する企画を持っている人たちに役立つことができるのではないかと考えています」

 

戸田氏はこのように語り、不利な立地と想定される場面での新しい集客方法について手応えを得ている。

 

浅草はコロナ禍が落ち着いてきている中で人通りが戻ってきた。そして“非日常性”がより色濃くなってきているようだ。それは、浅草を楽しむ若い女性の多くが着物姿になっていること。そして、着物姿の男子も散見される。浅草を和装のコスプレによって全身で楽しんでいる。これらはみなMZ世代。この様子を海外の人が見たら「日本人は着物を着て生活している」と思うのではないか。

 

戸田氏はこのような浅草での経験を踏まえて、新しい時代に向けた飲食業や集客の在り方について練り込んでいる。

壁も天井もお祭り気分で「浅草横町」に訪れる人を飽きさせない

店舗情報

店舗名 食と祭りの殿堂 浅草横町
エリア 浅草
URL https://www.instagram.com/asakusa_yokocho/?igshid=NWRhNmQxMjQ%3D

運営企業情報

企業名 株式会社Hi-STAND
URL https://www.spice-works.co.jp/

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