コロナ禍は飲食業界に大きなダメージをもたらしたが、反対にそれを追い風とし、事業の軸足をしっかりさせたという事例もある。アイキャッチの女性、杉本香織氏のCiel Ferme(空の農園)がその一例。本人はBBQインストラクターとテキーラマエストロの資格を有する。同社は現在、カフェテラスやルーフトップのBBQレストランを展開している。BBQレストランはアウトドア人気が高まり、グランピング(魅力的なキャンプ)のトレンドが顕在化するとともに飲食業の一つとして定着してきた感がある。

そもそも杉本氏がBBQレストランを手掛けることになった背景を紹介しよう。

 

「合コン数千回」で商売の基礎をつくる

店内にはBBQ用のグリルが用意されていて、各々がBBQを楽しむ仕組み

杉本氏にとってBBQレストランの原体験は高校1年生の当時にさかのぼる。杉本氏は進学校の生徒が集まる塾に通っていて、これらのメンバーのコミュニティに参加していた。このコミュニティでは友人関係のつてなどで合コンを楽しんでいた。

 

「ずばり合コンを楽しもう」――これが今日の杉本氏の原点である。この感覚は学生となり、社会人となっても持ち続け「合コン数千回」を豪語するようになった。率先して幹事を務めるようになり「これを商売にしよう」と考えるようになった。

 

大学では食品を学び、「いろいろなメーカーの人と交流することができる」ということからABCクッキングスタジオに入社。法人営業を担当した後、料理教室の先生となった。ここで食材のマネジメントなどを体得する。

 

料理教室の先生からBBQレストランの運営に転じたのが2012年のこと。

杉本氏はABCから独立して、ある事業者から提供されたスタジオで料理教室を営んでいた。場所は東京・白金台の近く。しかし料理教室だけでは集客が難しいことから、そこを改装して飲食店の体を整えた。さらにプロジェクターを用意して、貸し切りで利用できるようにした。そこはビルの最上階の10階で屋上とつながっていたことから、屋上でBBQをできるようにした。

 

この当時「BBQレストラン」の概念はなかったが、「団体が貸し切りで飲食の施設を利用できて、さらにBBQができる」という使い勝手が特徴となった。テレビ局や広告代理店の関係者をターゲットとして顧客を広げていった。10階のスペースと屋上で最大70人を集客したこともあった。その後、BBQレストランの営業場所は変わっていくが、現在は西麻布と渋谷で営んでいる。

 

このような経験を積み、杉本氏は独自にBBQレストランのノウハウを築いていった。それはざっと次のような内容。メニューは洋食のパーティ料理、夏のシーズンはBBQで、冬はBBQから派生した肉料理や鍋がメインとなる。ソースを使用する料理を提供すると洗い物が増えることになるので、食材は基本的に漬け込んだ状態にしておく。料金は、飲み放題付きで5000円~6000円、完全予約制で予約のない日を休日とする。

BBQの肉は事前に漬け込んでいる。オペレーションが簡略化できるのがこの業態の強み

 

「風通しのいい店舗環境」が評判に

コロナ禍となる前は、西麻布の「10th story西麻布」1カ所のみで営業をしていた。店名に「10th」と付けているのは、BBQレストランを創業した場所が「10階」にあったことから。西麻布の店舗は9階にあり、居室の隣にサンルームを設けている。本来は一般の住宅で、玄関からサンルームまでのアプローチがホームパーティの雰囲気を醸し出している。

西麻布の9階にある施設は居室の隣にサンルームを設けてここでBBQを楽しむ趣向

 

飲食事業者として同業の経営者と交流する機会が少なかったが、ある飲食業界の勉強会に参加したことからこれらの機会が増えるようになり、杉本氏の事業展開は新しい局面を迎えるようになった。

 

さて、2020年に入りコロナ禍となった。一般的な飲食店は営業にダメージを受けたが杉本氏のBBQレストランは「屋外にあって風通しがいい」という特徴が評判となった。これまでの顧客に加えて子ども連れのファミリーも利用するようになった。外で食事をしない傾向にあった2020年夏、「10th story西麻布」では10坪足らずで月商300万円を売った。

 

コロナ禍でレストランを手放す人がいた。この機会に渋谷区宇田川町のカフェテラスと広尾のカフェを譲受した。この宇田川町の店「渋谷 カフェ&テラス BBQ Noan ~maruta~」は2020年11月より杉本氏流の営業をスタート。店名は「No暗」が由来で「コロナだからといっていつまでも暗くしていないで……」という意味が込められている。高級住宅街の中でワンちゃん連れOK、テラスでBBQが楽しめる。ランチやカフェタイムに代々木公園でワンちゃんの散歩を終えた愛犬家仲間がやってくるようになった。店内は20坪弱で月商800万円を売っている。

渋谷の「Noan」はペット連れが可能で、ペット連れ常連のコミュニティができている

 

焼き菓子の通信販売にも着手

「Noan」と同じような経緯で広尾の店舗を譲受した。ここは「HauS カフェ&レストラン 広尾」という店にして焼き菓子のラインアップを心掛けて通信販売も手掛けている。「Noan」と同様にペット同伴が可能で、ペット用のフードも用意している。

 

筆者がこれらの店を訪問して感じたことは、「ペット同伴可」という条件は強烈な差別化要因になるということ。ペットはきちんとしつけられていておとなしい。ペット連れのお客は生き生きとして、他のペット連れのお客同志でコミュニティが形成されている。

 

杉本氏の会社では新たにコンサルタントに参画してもらい、経営の軸足がさらに定まるようになっていった。従業員のモチベーションも著しく高くなった。接客担当者のコンテストである「S1サーバーグランプリ」にエントリーして上位の審査段階に進んだスタッフもいる。

 

企業理念は「最新のユーモアを食に取り入れて非日常体験を通して心を豊かにする」、コンセプトは「心躍る料理、心躍るサービスで、ちょっぴり贅沢」。コロナ禍にあって会社の歩むべき道が定まってきている。これから目指すのは「ラグジュアリーなBBQ」。杉本氏は飲食業の中に“テラス席文化”をもたらして、飲食業の新しい形を開拓している。

 

店舗情報

店舗名 渋谷 カフェ&テラス BBQ Noan ~maruta~
エリア 渋谷
URL https://shibuya-noan.owst.jp/

運営企業情報

企業名 株式会社Ciel Ferme
URL https://m.facebook.com/people/株式会社Ciel-Felme/100079725662740/

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