「客単価8000円前後の焼き鳥居酒屋」――最近この業態の出店事例が増えている。そのポイントは、ずばり商品力としてその価値をお客に伝えることができる商品力を持つ店が出てきたこと。そして、その金額を払える顧客が存在することだ。前者は、焼き鳥居酒屋の経営の経験値と、食材や物流についての見識が高い。

このような焼き鳥居酒屋が2022年11月、東京・日本橋にある飲食ビル・GEMS新日本橋の6階にオープンした。店名は「野乃鳥」。店内の大部分を占めるロングカウンターがオブジェのようで、トーンを落とした照明がディナーレストランの雰囲気を醸し出す。

オープンして間もなく予約が必要な店となり、今では平日、週末共にまんべんなく満席になっている。どのような由来の店なのか紹介しよう。

 

焼き鳥居酒屋の「おもてなし」にひかれる

この店を経営するのは野乃鳥(本社/大阪府池田市、代表取締役/野網厚詞)。アイキャッチが代表の野網氏(49)である。大学2年生のときに焼き鳥居酒屋でアルバイトを行う。その店はその後全国チェーンとなる「やきとり大吉」の1号店で、創業者である辻成晃氏のアイデアとバイタリティ、そして対面でサービスをする焼き鳥居酒屋の「おもてなし」にひかれて焼き鳥居酒屋での起業を志すようになった。

代表の野網氏が自ら焼き台に立って、東京のお客の嗜好(しこう)を研究して、これからの展開を画策している

そして計画通り、1985年5月、25歳のときに大阪・池田市に7坪の焼き鳥居酒屋をオープン。現在は、関西に10店舗、昨年1月東京に進出して新宿三丁目に出店、日本橋の店は東京2店目にあたる。

 

野網氏は1号店を出店してから急ピッチで店舗を展開。そんな中で常日頃よい食材を仕入れたいと思っていて、飲食業は生産者と一緒になって取り組むことが重要だと考えるようになった。

 

現在使用している鶏肉は「播州百日どり」「ひょうご味どり」「丹波黒どり」丹波赤どり・播州赤どり」の4種類。野網氏は創業以来農協がつくっていた「播州百日どり」を仕入れて、セントラルキッチンでさばいて各店舗に配送していた。それが10年くらい前にこの鶏がなくなる可能性があることを耳にする。そこで農協に「何か協力できることがあったら私にやらせてください」と申し出たところ、野網氏は養鶏事業所の業務コンサルタントに任命された。焼き鳥居酒屋の経営をする一方で、コンサルタントとして生産と向き合いながら、その広げ方について日々考え活動をしていった。

 

さらに農業高校の教師と交流するようになった。あるとき「授業で鶏を育てているが、それを買ってくれる先がない」と打ち明けられる。そこで野網氏はこのようにひらめいた。

たくさんの生産者と交流を重ねることで信頼を得て、応援者を増やしていった

当時、兵庫県の研究センターには名古屋種と、薩摩鶏をかけ合わせて、26年くらいかけて品種改良を重ねているというマニアックな研究者がいた。この「ひょうご味どり」の食味は評判が高かったがコストがかかることから生産を止めるらしい。であれば、農業高校の授業で育ててもらって、それを野乃鳥が買い上げてお客に広げていけばみんなウィンウィンではないかと。この仕組みを9年前につくり上げた。今ではこの農業高校から年間800羽を買い入れている。

 

そしてコロナ禍を迎えた。野乃鳥では2020年3月にアイユー食品という鶏肉卸の会社を事業継承した。同社は大阪のキタから神戸・三宮の阪神間の小さな焼き鳥居酒屋、給食センターなどと取引をしている。野網氏はこの3年前あたりから同社の雇われ社長を務めていたが、買い取ることにした。

 

野乃鳥としてはそれまで鶏肉の生産に取り組んできて、そこに鶏肉卸の会社が直営で入った。そこで野乃鳥では「鳥、まるごと。」という理念を打ち出し、生産者から消費者まで一貫して行うことができるようになった。

 

利用シーン、客単価別で3業態に事業を分類

野乃鳥では現在、展開している業態がざっと3つに分かれている。

まず創業の店舗は「本店」となりカウンター6席の完全予約制で、客単価は1万2000円くらい。東京・日本橋の「野乃鳥」は36坪30席で8000円前後。これらは「THE野乃鳥」に位置付けている。

「THE 野乃鳥」はアラカルトでも注文できるが、コース仕立てで野乃鳥の世界観を提供している

次は「野乃鳥スタンダード」というカテゴリー。大阪のなんば、梅田といった繁華街や茨木、千里丘といった住宅街で展開していて3500円から4500円前後。

 

さらに、コロナ禍にあってオープンした「KOBE YAKITORI STAND」という若者向けの業態がある。この店をつくったきっかけは同社が兵庫の鶏肉にこだわって営業していることから、兵庫・神戸三宮駅高架下の商業施設に出店するオファーがあった。そこで、若い人たちに気軽に焼き鳥とワインを楽しんでいただこうとビストロ風にした。2021年1月オープン。客単価2500円。同じバージョンで2022年4月東京・新宿三丁目にオープン。同店の客単価は3500円。

 

これまで同社の店の客層は男性7割、女性3割であったが、このバージョンは女性7割、男性3割。これまで中高年向けの店をつくっていたが、これからの経営環境を考えるとMZ世代(20代から30代半ば)に向けた取り込みは的を射たものと言えるだろう。

 

同社では三宮の店の繁盛がきっかけとなり東京で出店するオファーを得た。時代はコロナ禍であるが、野網氏は「これからは東京から発信することがチャンスになる」と考えた。今年は人形町と虎ノ門ヒルズ ステーションタワーに出店する計画があり、これから東京をベースに考え、代表である野網氏が活発に動けるように本社や関西の仕組みをつくり込んでいるという。

 

野乃鳥の強さとはどのようなものか。野網氏はこのように語る。

「私は飲食店の現場に入っていて、目の前のお客様と触れ合って『このような商品をお出ししたい』ということを常に考えている。このような目線で生産者に提案できることが当社の強み」

 

先にコロナ禍にあって、卸の会社を買い入れたことを述べたが、野乃鳥ではこの間「鳥、まるごと。」の理念に基づいた六次化の企業集団を形成している。

 

鶏や鶏卵の生産者として「ヤマモト」と「加味鳥」、さらに本拠地・池田市で食を通じた街づくりを推進する「IRC」があり、卸業の「アイユー食品」、飲食業の「野乃鳥」が存在する。

 

これらの中で加味鳥の最近の動きにこのようなものがある。同社はかつて農協がつくっていた有精卵の「播州地卵」事業を地元の農林公社から引き継いだが、それを辞めるというタイミングで法人化して、その生産を引き受けることになった。そして事業再構築補助金を元に2022年6月「トリマルシェ多可町(たかちょう)」(兵庫)を野乃鳥プロデュースでオープンした。物販に飲食を併設した直売所である。

 

また、この卵を使用した「ファーブルトン」というスイーツを開発した。これはフランスの焼き菓子でカスタードプディングのような食感が特徴。同社の企業集団のマルシェや、百貨店での催事で販売し、野乃鳥の飲食店でもスイーツとしてメニューに入れている。

鶏卵でつくった「ファーブルトン」は百貨店の催事等で人気商品となっている

 

野乃鳥ではコロナ禍にあって、社員を約20人採用した。特に三宮店を出店したことで若い従業員が増えた。

 

野網氏は「これから店数を増やすことを一番に考えていない。これまで整えてきた企業集団によって、鶏肉の総合商社としてのポジションをつくっていく」と語り、これからの事業の広がりを追求している。

店舗情報

店舗名 野乃鳥 日本橋
エリア 日本橋
URL https://nonotory.jp/stores/nonotory_nihonbashi/

運営企業情報

企業名 株式会社野乃鳥
URL https://nonotory.jp/

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