『e店舗media』で執筆している千葉哲幸が、コロナ禍の中で新しい試みを行っている飲食業の事例を見てきている。テイクアウト・デリバリーだけではなく異業種を手掛けたことで、中小も大手も事業領域を豊かにしている。そこで連載の形で、「コロナ禍での新しい取り組みによって、飲食業はどう変わるか」ということを述べていく。

 

地元の生産者の「誇り」で組み立てる

さいたま市内を中心に埼玉県下にイタリアンレストランやカフェを8店舗展開する(株)ノースコーポレーション(本社/さいたま市浦和区、代表/北康信)では、日ごろ埼玉の生産者の食材を活用したメニューを組み立て、生産者や物流業者と協調する姿勢が注目されている。そして、このような志を共にする人々のリーダー的な位置づけとなっている。

特に、2013年より生産者、物流業者、飲食事業者を巻き込んで営んでいる「さいたまヨーロッパ野菜研究会」(通称、ヨロ研)は、イタリアン、フレンチに不可欠な食材の生産と、物流そしてレストランの関係者に誇りをもたらしている。

そのノースコーポレーションでは、これらの生産者の食材で組み立てた「生産者応援弁当」を4月14日から販売している。弁当の中の料理はこのようになっている。

・埼玉武州和牛のステーキ&埼玉産ポークの秩父わらじカツ弁当

・秩父兎田ワイナリーワインを使用した特性タレ

・さいたまヨーロッパ野菜研究会の野菜たっぷり料理

・秩父おなめのバーニャカウダソース付き

・赤ビーツのポテトサラダ

・お米は埼玉ブランドの「彩のきずな」

これに、さいたまヨーロッパ野菜研究会の野菜を2種類付けて価格は2200円(税込)。5個以上からデリバリーに応じる。

第一弾の「生産者応援弁当」。2200(税込)であるが、ヨロ研野菜が2個ついていてお値打ち感がある

消費者は高価格の中食に慣れていく

「生産者応援弁当」が誕生したきっかけについて、同社代表の北康信氏はこう語る。

「4月10日の会議で、『出荷ができない野菜をあきらめて収穫をしない』というヨロ研生産者の話題が出てきて、何としなければと思った。併せて、レストランの来店客数がどんどん先細りしてきていて、営業内容を大胆に変更することが課題となり、この二つを解決する手段として『生産者応援弁当』を考えた。このような状況下でも当社らしい取り組みでなければならないと心掛けた」

さいたまヨーロッパ野菜研究会の生産者はただいま13人

まず、「数を売る必要がある」と想定し、地元で付き合いのある経営者、企業オーナーの顧客などにアプローチした。チラシをデザインし、データでSNS配信を行った。4月23日に読売新聞に掲載されたことから、一般のお客さまの購入も増えていった。

こうして「生産者応援弁当」は4月29日の段階(発売16日目)で1227個を販売、生産者からは2454パックの野菜が出荷された。「出荷をあきらめていたヨロ研野菜の生産者にとっては、起死回生のお弁当になったのでは」と北氏は語る。

北氏によると、「当社のレストランは生産者と共に存在している、ということを自認していて、コロナ禍によってこれまで築いてきた信頼関係が一層高まった」と認識している。そしてこの弁当の販売数量は増える傾向にあり、旬のヨロ研野菜を取り入れた第二弾の弁当を販売している。

北氏はこの度テイクアウトに取り組んだことから、これからの動向について「中食においてレストランの料理があってもいいという消費者の認識が広まり、今回をきっかけに中食の価格帯の幅が広くなり、高価格の中食に慣れていくのではないか」と予測している。

同社ではコロナ禍が終息してからこの弁当の販売は行わないとのことだが、地元の生産者や経営者、消費者との密接な結びつきが生んだヒット商品と言えるだろう。

 

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