最近になって浅草に出向いてみると、人のにぎわいが戻ってきたことを強烈に感じる。それは、日本人だけではなくインバウンドも同様だ。このような中で仲見世の裏手で商店が集まっている路地に行列が絶えない店がある。店名は「ひなと丸」、10坪ほどの立ち食い店だ。

 

この店名は最近東京の中心で目にすることが増えてきた。銀座コリドー街、新橋駅近くなど、飲食店が集まるところでよく目立っている。どの店も店内がお客でいっぱいになっていて、みな楽しそうにしている。

 

「ひなと丸」は2022年12月25日、東京駅の八重洲北口にあるグランスタ八重北の中にもオープンした。この商業施設の飲食店はどの店も大繁盛で、ここで営業していることは商売の勢いを感じさせる存在感がある。アイキャッチの人物が同店を経営するKIカンパニー代表の飯田航太氏だ。

東京・浅草、新仲見世の裏路地にある「ひなと丸」は行列が絶えない繁盛店。コロナ禍にあっても地元のお客が並んだ

サーファーボーイからすし店経営者へ

KIカンパニーは浅草の「ひなと丸」の2階に本拠を構えている。会社は2017年1月に設立した。昨年12月の東京駅の店ですし店は7店舗となる。同社ではほかに浅草の「ひなと丸」の隣に鉄板焼き「日向亭」、東京・多摩市にある国士舘大学で学食を営んでいる。

 

「ひなと丸」の特徴は、一般的な立ち食いすし店ではなかなか見られないワンランク上の鮮魚を扱っていること。カンパチ、マダイ、ヒラメは定番となっていて、シマアジ、ノドグロ、キンメダイもラインアップしている。中でも「鮪三貫」(大トロ、中トロ、赤身)950円(税込)が全店で名物となっていて、「ひなと丸」ファンが楽しみにしている。さらに名物の活貝三貫、白身三貫ともに750円。これらで客単価は3500円前後となりお値打ち感が圧倒的だ。

 

東京駅エキナカの「ひなと丸」。立ち上がりの売上は想定していた1.2~1.3倍で推移している

同社代表の飯田航太氏は1988年生まれ。祖父は静岡・伊豆の漁師、父は神奈川・川崎北部市場の仲買人で、海産物に親しんで育ってきた。先の客単価とクオリティについて、飯田氏は「立ちのすしは、ファストフードだから」と語る。最近、すし店の新規開店に2万円、3万円の事例が相次いでいるが、飯田氏はそのトレンドには追随しないという。

 

飯田氏は終始腰が低くすし職人から経営者に転じた雰囲気があるが、学生時代からサーフィンに夢中となり、大学卒業後はサーフィンをするためにオーストラリアを代表するサーファーの聖地・ボンダイビーチ近くに住んだ。ここで午前中はサーフィンに親しみ、午後は日本料理店で働くという日々を過ごしていた。この日本料理店は100坪弱程度の店だったが、日本円で毎日200万円程度を売り上げるという繁盛店。飯田氏はここの厨房で働く中で、魚のさばき方やすしの握り方を覚えた。

 

飯田氏が日本に帰国したのは日本でのアマチュアサーファーの大会に出るため。しかしながら、ここではタイトルを獲得することができなかった。

魚の仲買人である父は、浅草のすし店を譲り受けていて、飯田氏の兄と一緒にアンテナショップとして営んでいた。しかし、兄は別の商売をすることになり、飯田氏はそのすし店を継承することを申し出た。こうしてKIカンパニーの商売は始まった。浅草の「ひなと丸」のクオリティの高さはたちまち評判となり、冒頭のような行列の店に。コロナ禍にあっても地元のお客が来店して売り上げを大きく落とすことはなかった。

自身でシフトに入りチャンスをつかむ

飯田氏は現在もシフトで各店舗に入っている。それは同店のクオリティがきちんとお客に届いているかどうかを察知するため、そして明るくお客に接している。銀座コリドー街の店は2021年7月、新橋駅近くの店は同年10月にオープンと、コロナ禍でありながら「ひなと丸」は勢いづいていた。このような状況を察して、業界関係者が「ひなと丸」を視察で訪れるようになった。

 

飯田氏は「自分の取柄は“運がいい”こと」と自認する。東京駅に出店するきっかけとなったのは、銀座コリドー街の店にシフト・インしていたときに、飯田氏がお客に向かって「私がこの店を日本一にしますから……」と大きな声で語りかけていて、それを覆面でリサーチしていたデベロッパー関係者が見ていたのだという。飯田氏は「そのときの私の明るさが、東京駅に出店してもらおうという思いの背中を押したみたいです」と語る。

 

「ひなと丸」の勢いは東京駅でも十二分に発揮している。客層の特徴として挙げられるのは30代40代の女性が多いこと。外食の経験値の高い働く女性が、同店のクオリティの高さを評価しているからであろう。そして、価格的に安心できることもポイントだ。

東京駅店の名物「八重洲」2500円(税込)は、既存店で人気の貝、白身、まぐろそれぞれの3貫セットをアレンジ

同店は新規開店からの立ち上がりは飯田氏の経験則より早く、当初予想していた売上の1.2倍から1.3倍で推移しているという。飯田氏は「これがエキナカの強さだと思うが、じわりじわりと繁盛していくことが繁盛店としての本当の強さ」と語り、より魅力的な店に育てていくために従業員とのミーティングを密接に行っている。握りのスピードと提供するタイミング、そして色気を感じさせるすしの置き方など、魅力を引き立てる研究に余念がない。

 

「日本の本物のすし」を伝える

「ひなと丸」のお値打ち感の高さは、父の会社であるマル日水産から仕入れを行っていることもその要因の一つ。ワンランク上の鮮魚の仕入れ価格が安定していることが大きなポイントだ。そして、国産にこだわることで高いクオリティを維持している。飯田氏はこう語る。

 

「海外産の方が安いといっても、価格的に大差がなければ国産のものに切り替えるようにしている。魚に関わる商売の人が“国産”にこだわることで、国内の魚の需要はもっと高まる。そして、海外の人に『これが日本の本物のすしだ』と胸を張っていうことができるし、海外の人も『日本の本物のすしを食べている』という満足感を抱く。こういうことがつながっていくことで日本全体がもっと魅力的になっていくと思います」

 

コロナ禍が落ち着いてきて、インバウンドが戻ってきていることに期待している飲食店は多いだろう。「ひなと丸」も浅草、銀座コリドー街、新橋駅近く、東京駅とインバウンドにアピールする上では絶好の場所にある。インバウンドにとって「日本の本物のすし」をお値打ち価格で体験した記憶は、本国に帰ってから「日本旅行の楽しい、おいしい記憶」として伝わっていくことだろう。

 

飯田氏は「ひなと丸」がこれまで築いてきた、小箱で、立ち食い、お値打ち価格の路線を堅持して、人材は新卒生を受け入れて「すしの企業」としての基盤を築いていこうと考えている。

浅草「ひなと丸」の裏手にある新仲見世の回転ずし「日向丸」では、インバウンドが日増しに増えてきた

店舗情報

店舗名 ひなと丸
エリア 浅草
URL https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131102/13183118/

運営企業情報

企業名 株式会社KIカンパニー
URL https://wt8kztpo.jbplt.jp/

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