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  3. コロナ禍で「飲食店がWEB販売するためのガイドライン」を公開

この度のコロナ禍は飲食店に「店内営業」以外の「もう一つの販路」を持つべきことを示唆している。それは店内営業ができないことがきっかけで、「売上をつくるために」各店各社が自発的に動いて手掛けた、テイクアウト、デリバリー、そしてEC(通信販売)である。

筆者はこれらの事例をたくさん取材する機会を得た。そこで自分なりに考えたことは、「もう一つの販路」は売れることが重要だが、それをつくり出すプロセスはより重要ではないか、ということである。これらの経験が「店の売る力」として備わっていくことであろう。

そのような考えがひらめいたのは、東京・東銀座にある居酒屋「ごち惣家」店主の布施知浩氏が、店内営業を休止したことでECを行うことを考え出し、EC商品を精魂傾けてつくり上げているプロセスをfacebookに投稿している一連を見ていたことからだ。

その結果生まれたEC商品はすべて無化調で、注文を受けてから店内で製造する。「牡蠣の燻製マリネ」「黒毛和牛のハヤシライス」「にんじんドレッシング」など、5品目でスタートして逐次増やしていった。これを主としてクール便で全国配送している。

筆者が感銘を受けているのは、布施氏が計画を立ててから行動に移し、形ができあがっていくプロセスの着実さ、そして志の高さである。

EC商品は予約によって店頭手渡し、土産品としての持ち帰りが可能

 

店内営業以外の販路としてECを選択

同店がコロナ禍で休業したのは4月4日からだ(6月1日より営業再開)。緊急事態宣言の前である。布施氏によるとこの判断をしたきっかけはこうだ。

「お客さまの中に明らかにコロナの感染を恐れている人がいて、同伴した人から身を引いて会話をしていました。それを見て、このような状態では当店の従業員は100%の接客ができないと考えました」

そこで、翌日から予約が入っていたもののそれをキャンセルして、これから売上をつくための方策を考えた。まず「テイクアウト」、外出自粛で銀座にはそもそも人がいない。では「デリバリー」ということではウーバーイーツの申請に時間がかかる。ということでECに取り組むことにした。そこで相談した相手が、大手IT企業でEC事業に取り組んだ経験のある人物であった。翌日に打ち合わせを行い、6日にはこのアイデアに賛同するヤフーやPayPayをはじめとした企業から賛同を得ることとなり、この構想は著しく早く進展していった。

布施氏もfacebookに「コロナに負けるな!飲食店救済ネット販売『MIRAI便』概要ページ」を開設して、賛同者を募った。

まず、布施氏が直面したことは、「飲食業がECをはじめようと思っても、そのフローが存在しないこと」であった。そこで布施氏はこのように考えた。

「予備知識を持たないでECに着手して、事故を起こした場合にその店は矢面に立たされ、営業を再開してもマイナスでスタートすることになる。世論としても『飲食店が慣れないECをやるもんだから……』という言い方をする。これは業界全体にとってよくないことだ。では、僕が業界のガイドラインをつくろう」

こうして、飲食店が料理をWEBで販売するために必要な準備を自分で実践して、ガイドラインの作成を4月9日より開始、その過程を布施氏自身のfacebookで公開していった。

カウンターにはお客の必要に応じて天井からアクリル板を下げて対応する

 

facebookで自ら行動して体得したフローを公開

布施氏が作成したフローは6段階に分かれていて、これを一度に公開するのではく、小出しにして日を追って行った。

WEB販売のガイドラインをつくるにあたって、まず直面した問題は、売ろうと思う商品ごとに必要な食品製造業営業許可が必要であること、しかもそれが管轄の保健所ごとに異なっている場合があるということだ。これらの一つひとつは何度も保健所に赴いて確認した。

売ろうと思う商品の安全を徹底するために専門の検査機関を紹介してもらった。この機関に試作した商品をクール便で送り、検査の結果問題がなければお墨付きとなるが、菌の発生が指摘されると、温度管理や瓶の煮沸・管理などもう一度衛生管理を徹底して再度送った。

ここでの検査では消費期限や賞味期限も決められる。12日間保存に問題がない場合は安全係数によって9日間あたりと決められる。検査結果を待っている期間、食品表示の一覧とラベル作成を行った。これについては専門家を紹介してもらい依頼した。ここでのポイントは、食品表示法が4月1日より新しくなったことと、「食品添加物」「栄養成分」の表示が必須条件となったことだ。

ガイドラインはA4サイズ・17ページで詳細に解説されている

実際の販売方法は、受注してから商品をつくり冷蔵で保管し、クール便の引き取り時間に合わせて梱包し、クール便で配送している。無添加の食品の配送方法を検討している中で、この方法が最も安全であることが分かった。このように安全に安全を重ねてWEB販売のフローをつくり上げた。

こうしてつくり上げたEC商品は二つのWEB販売のパターンで行っている。

一つは前述のWEBストア『MIRAI便』。現在、Yahoo!ショッピング内にサイトがあり十数店が参加している。出品は1店当たり3品としていて、同店では3000円、4500円、5000円の詰め合わせを出品している。

もう一つは、自店で立ち上げたECサイト「おウチでごち惣家」で、詰め合わせだけではなくばら売りも行っている。ここではクール便での配送だけではなく、店頭受け取りや、店内で食事をした後、予約していた商品を持ち帰ることもできる。

ECはそれぞれ5月上旬からスタートし、5月に130万円を売り上げた。これは常連客によるまとめ買いが要因のようだ。クール便を注文するお客の8割は既存顧客ないし知人関係という。店が再開してからの6月は30万円、7月は20万円あたりとなっている。

店を休業する前の客単価は6000円であったが、再開してからは6500円になっているという。「お客さまは、せっかく外食するんだからおいしいものを食べたい」(布施氏)という深層心理の現れと捉えているが、これからお客に選ばれる店舗とは、この欲求を十分に満たしてくれる店に他ならない。

飲食業界でキャリアを積んだことの責任感

筆者が布施氏のことを知ったのは、2006年9月のことだ。FCを中心にチェーン展開している外食企業が社内アワードを行うということで、筆者は審査員を依頼されていた。

ここで布施氏がメンバーであったチームが優勝したのであるが、その中で布施氏はとても輝いていた。発表のテーマで印象深いのは「ランチ営業を止めたところ、ディナー帯の売上が増えた」ということであった。漫然と営業しているのではなく、得意なところに営業を集中させようということである。布施氏は1983年7月生まれであるから当時23歳。青山学院大学の学生時代に店長を務めていた高校時代の先輩に誘われてアルバイトをするようになり、就職活動では内定を受けていた企業もあったが、飲食業に魅力を感じ、アルバイトからそのまま入社した。

布施氏がアルバイトをしていた店舗は浜松町にあり、筆者の会社は徒歩圏内の神谷町にあったことから、布施氏の仕事ぶりを見るためにたびたび同店を訪ねたものである。

そして布施氏は、飲食店の接客サービスの担当者としての能力を高めていく。2009年3月には「第4回S1サーバーグランプリ」で優勝を果たした。

2011年に入り、勤務していた会社を辞めて開業準備に入ると同時に、コンサルティング活動を行うようになった。筆者は当時出版社で出版プロデューサーをしていて、布施氏の書籍出版のお手伝いをした。その書籍『また会いたくなる サービスと接客の極意』は当時20代の布施氏が、サービスマインドの在り方、サービスの表現方法をみずみずしく論述している。さまざまな外食企業の新人教育のテキストとして使用されるようになり、布施氏もそのための講師として赴くこともある。そして現在、サーバーの地位向上を目指した制度であるS1サーバー資格認定のスクール校長を務めている。

この度の「飲食店が料理をWEBで販売するために必要なガイドライン」をつくったのは、布施氏が飲食業界でのキャリアによって磨かれた責任感の発露というものであろう。そして、「店内営業以外のもう一つの販路」の在り方も布施氏が実践を重ねていくことによって、「自店の強さを磨く」もう一つの方法として定着していくのではないだろうか。

布施氏の接客サービスに対する真摯な姿勢は「ごち惣家」の空気感となっている

店舗情報

店舗名 銀座 ごち惣家
エリア 東銀座
URL https://www.facebook.com/ginzagochisoya

運営企業情報

企業名 株式会社登龍
URL https://www.facebook.com/ginzagochisoya

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