取材者である筆者が飲食店にいて「飲食業は教育産業」と感じる瞬間が多々ある。それは店舗でのミーティングやロールプレイングは当然のことだが、営業中の従業員の振る舞いから感じることもある。店のピークタイムが鎮まったつかの間、カウンターに座っていて厨房から聞こえてくる従業員同士の会話に現れる。「〇〇さん、このやり方を教えていただけませんか?」――後輩が先輩にある調理の技法についてアドバイスを仰いでいるのだが、このような会話が自然に出てきた瞬間、「ここの会社には教育的環境が浸透している」と感じる。

 

このようなことを最近、東京・赤羽にオープンした「黒澤商店」で経験した。オープンした8月末に一度伺い、2週間ほどたってから再び訪問すると、厨房の中の従業員はしっかりと筆者のことを覚えてくれていた。そして筆者が小さな刺身の盛り合わせを注文すると、それを前回注文していたことを覚えていて、最近は盛付の方法を変えたことを説明してくれた。つくづく「すごいことだ」と思った。この店での経験は強烈に記憶に残り、次回「赤羽で食事をしよう」と思ったときにこの店と従業員を真っ先に思い浮かべることだろう。

赤羽のすし居酒屋「黒澤商店」の店内。シンプルなデザインだがオープンキッチンがショーアップされている

この連載ではエー・ピーカンパニー(以下、AP)出身者を数多く紹介してきた。同社の創業社長・米山久氏は新しく誕生した地鶏「みやざき地頭鶏(じとっこ)」と出合って以来、食品の生産(一次産業)から流通(二次産業)、販売(三次産業)に至るまでのすべてを一貫して手掛ける独自の六次産業化ビジネスモデルを生み出し、「塚田農場」や「四十八漁場」といったチェーン化業態を展開していった。そして、これらのAP出身者たちはAPで学んだマネジメント力を発揮してユニークな飲食業を展開している。

 

ここで紹介する株式会社Be DREAMERs代表取締役の高瀬久夫氏もその一人である。冒頭で紹介した「黒澤商店」は、同社の店である。

 

エー・ピーカンパニーでマネジメントを学ぶ

高瀬氏は1980年5月生まれ、北海道出身。学生時代を千葉県柏市で過ごし、柏市内の沖縄料理店でアルバイトをした。同店は「お客さまに感謝される幸せの空気が満ちていて」(高瀬氏談)、いずれは飲食業で独立したいということを20歳のときに考えるようになった。

大学卒業後、証券会社に就職して2年間就業した後に、沖縄料理店で働いていた当時の店長が独立して営んでいるダイニングバーに誘われる形で転職した。この店では6年間ほど働いた。

 

結婚し子宝に恵まれことがきっかけで独立を考えるようになった。それ以来、さまざまなセミナーに参加して、自分の方向性について考えた。その過程の2007年にAP代表である米山氏の講演を聴いて衝撃を覚えたという。「これから独立をするよりも、この人の下で仕事をするともっと成長できるはずだ」と確信した。そして2008年3月、APに入社した。

 

筆者が高瀬氏に「APで鍛えられたことの思い出」を尋ねたところ、「一番はマネジメント」と即答してくれた。入社した当時は年間40店舗を出店する勢いにあり、この渦中での人材採用と教育の在り方は、独立してから大いに役立ちBe DREAMERsならではの企業文化をつくっていった。

 

APでは入社面接の段階で「35歳で独立したい」と申し出ていて、米山氏に「どこに店を出したいのか」と尋ねられたときに「柏です」と答えていた。その後、「塚田農場」が柏に出店したときに、高瀬氏は店長を任された。このような配慮をしてくれた米山氏のことを大いにリスペクトしている。

 

新規出店における投資バランスが絶妙

そして、2014年に独立。7月柏駅東口より徒歩5分の立地に魚料理をメインとしたイタリアンの「TRATTORIA COLORE」(コラーレ)をオープン。路面店の居抜き物件だったが、内装費に800万円ほどかけて、店舗取得費を含めて1500万円を投入した。「独立して1年後に3店舗持つ」という計画を立てていて、事業をスタートする上で内装はとても大事だと考えていたからだ。高瀬氏はこう語る。

「内装を充実させることはスキーのジャンプ台を高くすることと同じです。居抜き出店をしたところで、『投資を抑える』ことは『コンセプトを抑える』ことになるのでは。1000万円を売る店をつくるためにはこれくらいの投資が必要だと考えていました。それは初めて店に入ったお客の期待値を高めることにつながります」

柏駅西口にあり、熟成肉と新鮮野菜を提供する肉バル「FARMERS TABLE」。センスのいい外観から店内への期待感が高まる
「FARMERS TABLE」の店内。ここもオープンキッチンが大きなポイント

 

Be DREAMERsは2018年に大きく飛躍した。つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅近く2000坪の敷地に4店舗出店したのである。この物件は以前の事業者がレストランを営んでいたが6年で撤退し、後継として地元の経済界から高瀬氏が推薦されて出店することができた。建坪は420坪あり、施設はかなりつくり込まれていたため、一部を有効活用することができ、総投資額は1800万円程度に収まった。裏側には1000坪のBBQ施設もつくった。

 

現状の主なブランドは「FARMERS」「COLORE」「魚久商店」だが、それぞれのカテゴリーの中でも店づくりは絶妙に異なっている。この8月に東京・赤羽に2店舗を同時オープンして現在15店舗。千葉の松戸・流山エリア12店舗と、東京・赤羽とそれに隣接する埼玉・川口という赤羽・川口エリア3店舗と大きく2つのドミナントを形成している。これから赤羽・川口で店を増やしていくとともに、新しいドミナントエリアも検討している。

「FARMERS TABLE」では老舗の食肉製造・販売の「さの萬」より肉を仕入れている。これは「国産!イチボ」150ℊ1980円
「名物‼ 畑のグリルバーニャカウダ」ハーフサイズ980円。色彩から野菜の力強さが伝わってくる

社員もアルバイトも採用コストがほとんど不要な理由

高瀬氏が会社経営で最も力を入れているのが「人材育成」である。ちなみに同社では社員独立で同社を巣立った人はいるが離職者がほとんどいない。

 

その秘訣とは、まず、1店舗に必ず正社員を3人配置させること。だから、出店に際して売上的にそれほどの規模感が想定できる物件を探し出す。なぜ正社員3人なのだろうか。高瀬氏はこう語る。

「社員一人の店では、本当に独立したいという強い信念がない限りはモチベーションの維持が難しい。これが離職につながる場合が多い。二人の場合は、相性が問題になる。長い間一緒に働いていると、相手のよくないところが目に付いてくる。3人だと第三者がいるので、客観的に人間関係を見てくれるようになる。これが社員の離職を防ぐことにつながる」

 

アルバイトも、新規オープンの店舗が1度採用するとそれ以降採用したことがない。アルバイトは長く働くことによって、スキルが身に付き、お客もつく。そこで、アルバイトが長く働くということは店にとってプラスに作用する。今年の3月に学校を卒業したアルバイトが30人ほど抜けたが、みな次のアルバイトを連れてきてくれたという。

このような人材対策の仕組みが、同社の成長と組織の充実につながっている。ちなみに同社の従業員は現在200人、社員は50人でその半分は元アルバイトである。

 

「現実的な満足」と「抽象的な満足」の両輪を充実させる

高瀬氏は「このような環境は、『一生働くことができる会社』ということを会社の根幹にしていることの現れです」と前置きして、このように述べる。

「飲食業で生きていくということは、『独立するか』、『一生働くことができる会社』に入るとう選択肢となります。しかし、『一生働くことができる会社』という選択肢はなかなか持つことができない。そこで私は『一生働くことができる会社』という条件と、『一生働きたいと思う会社』ということはセットになっているものと考えています」

 

「『一生働くことができる会社』とは給与や労務環境などの現実的なこと。一方の『一生働きたいと思う会社』とは抽象的なこと。楽しい、成長できる、わくわくする、仲間が素晴らしい、というようなことです。同じ『一生働く』ですが、内容の異なる二つのどちらかが欠けてしまうと離職につながってしまう」

 

まず前者においては、既に働き方改革を行っている。全社員の労働時間は8.5時間だが、これには2時間のみなし残業代を付与している。休暇は月6休、8休の二つを儲けていて、それぞれの働き方を選べるようにしている。年間賞与の回数や、社会保険、退職金の制度を充実させる途上にある。

冒頭の「黒澤商店」の地下にある「サカナヤペスカトーレ」は鮮魚をベースとしたイタリアン

 

従業員が飲食を愛するために「スマイル&エンジョイ」

後者においては、「3つのステージ」を設けている。これは社員が年齢を重ねていくことを想定してのものだ。

一つ目は「キャリアのステージ」。本部機能である事務職、人事、人材育成の部署を充実させる。

二つ目は「スキルのステージ」。同社の社員は7対3で、7が調理分野の人材である。彼らは「もっと料理が上手になりたい」という願望がある。そこで「星」を狙えるレストランをつくっていく。

3つ目は「チャレンジのステージ」。例えば、店舗デザインやロゴ作成の分野の勉強をしていて、それをやりたいという人には担当させたい。店舗開発をやりたい、海外でチャレンジしたい、ということも同様だ。同社の業種・業態は多岐に及んでいるが、これは「社員がやりたい」ということを形にしていることだという。

新店をつくるときの担当者は挙手制にしている。人気が高い場合は、「君が入ったら店はどう変わるのか」ということをアピールしてもらい選出している。

 

「当社の企業理念は『スマイル&エンジョイ』です。私が会社をつくったのは飲食を愛する従業員をつくるということで、これは従業員に向けているメッセージでもあります」

このように語る高瀬氏のビジョンは「将来1000店舗にしたい」とのこと。それは会社が1000店舗を抱えるということではなく、独立支援制度などチャレンジできる環境を充実させて達成するということだ。

 

冒頭で述べた同社の東京・赤羽の店で体験した「すごいこと」の背景には、「スマイル&エンジョイ」が醸し出す企業文化が存在するからにほかならない。

株式会社Be DREMERs 代表取締役の高瀬久夫氏。会社設立して5年間で制度の整った組織をつくり上げた

店舗情報

店舗名 黒澤商店
エリア 赤羽
URL https://www.bedreamers-akabane.com/9630

運営企業情報

企業名 株式会社Be DREAMERs
URL https://www.bedreamers.jp/