アイキャッチの人物は株式会社okéy(本社/東京都港区)代表取締役社長の片寄雄啓(かたよせ たけひろ)氏である。社名は片寄氏が中学生のころに自分の名前を音読みで呼ばれていたことに由来している。

飲食店にとってのコロナ禍は新しい試みをさまざまに実行する局面をもたらしたが、okéyもその例にもれず実に思い切った形で変貌しつつある。

 

引く手あまたのCM制作マンから飲食業に転身

okéyの創業は2005年、新橋にワインとナポリピッツァの店を開業したことに始まる。

片寄氏は大学を卒業後、広告代理店に勤務してCM制作で活躍していた。入社7年目で数社からスカウトがあり、担当新商品の新CM制作終了後、転職を決めていた。その時ふと、同じ仕事をし続けていることに疑問を感じるようになり、新しいことにチャレンジしたいと思い込むようになった。それが飲食業に転身するきっかけとなった。

目標は30歳になる前に独立すること。そこでナポリピッツァの店に研修代を支払い、無償で働いた。日中は皿洗いなどできる仕事をやり、合間にピッツァを焼き、深夜に仕込みを行った。

 

そこで新橋での起業に至る。新橋を選んだのはサラリーマン時代の会社がそこにあって土地勘があったこと。そして新橋駅前ビルの中にも店舗を構えドミナントを築いた。「あれよあれよという感じで独立志向の人たちがうちの店に集まってきて、そのたびに店を出店した」(片寄氏)ということだが、創業して以来16年間の中で独立開業者を14人輩出した。

 

片寄氏と話していると従業員に対する経営者としての“情の熱さ”というものを感じる。

 

「人は休みと給料とやりがいがあれば働き続けることができる。従業員にとっての休みと給料は私が提供すること。やりがいについては、そのステージをつくることが私の仕事」

 

「私と関わったすべての人に幸せになってほしい。独立していった人に毎日のように相談に応じている。新しく店を出した人には、当社の従業員を派遣したり、私が皿洗いの手伝いをする」

 

「私の年収は1000万円に達しないようにしている。社員にボーナスは年2回支払い、さらに純利益の20%はみんなに還元している。私の役目は分配役」

 

ワイン販売を手掛けて働き方改革につなげる

コロナ禍にあって、新橋界隈でのお客は激減。そこで酒販免許を取得して顧客にワインを通信販売することを手掛けた。販売するのは1ケース12本単位で、顧客から注文を受けてそれぞれの要望に沿ってセレクトする。発送する時にはコメントを添えている。すると顧客からの反響があり、新しいお客を紹介してくれる。

 

このワイン販売は同社の働き方改革にもつながった。ソムリエの女子社員が産休を終えて復職したタイミングもあり、その能力がいかんなく発揮された。顧客がレストランを利用する機会が減ってもワイン販売によってコミュニケーションをとることができて、社員のモチベ―ションを高める職場を培うことができた。

 

しかしながら、飲食店が実際に稼働できないことは大きな課題であった。テイクアウト、デリバリーのほかにボランティアも手掛けたが、別のことを考える必要性を感じるようになった。

 

okéyでは2021年に東京・月島、小田急線の豪徳寺駅前(東京都世田谷区)、そしてJR日暮里駅から徒歩6分程度の場所(東京都荒川区)に店を構えた。月島の店は「酒場961」で社員独立を想定したワインバル。豪徳寺の店は「Atelier de Terrine maison okei」(以下、メゾン・オケイ)でテリーヌをメインとしたビストロ。日暮里の店は「Okey Brewery Nippori」(オケイ・ブルワリー)というブルワリーレストランである。片寄氏はこう語る。

 

「これから新橋だけでは厳しいことから、住宅街に向かうことを考えた。千葉、埼玉、神奈川を結構見て回った。その中でまず、月島は自分が住んでいる街で土地勘があった。次に、神奈川県の本厚木がとても住みやすいと報道されていたことから、小田急線沿線を見て回った」

小田急線・豪徳寺駅前にあるメゾン・オケイは商店街角地の3階建て古民家を改造してオープン

住宅地に出店して新しい客層と出会う

豪徳寺の物件は築70年の古民家である。当初1階しか使えない条件だったが、全体をokéyが修復することを申し出て3階建ての1棟全体を借りることができた。修復工事に要した額は2500万円、これによって家賃を減額してもらった。1階は11.5坪、2階は6坪、客席数29席の店舗ができあがった。

 

豪徳寺に初めて降り立った時に「ここでレストランをやるならビストロがいいな」とひらめいた。メニューは新橋のビストロで出しているテリーヌを連想した。「テリーヌは限られたスペースの中で彩りとおいしさを表現する小宇宙。これをカジュアルな店で表現してみたい」(片寄氏)とアイデアは広がっていった。そして、この商品はテイクアウトにも対応できる。テリーヌのグランドメニューは15品目程度。デザートも併せて全体で50品目強。8月にオープンして、最も驚いたことはワインが出ること。「新橋ではハイボールとサワーが必須のドリンクだが、ここでは月に10杯も出ない」(片寄氏)という。テリーヌはテイクアウトも含め1日200食が販売されている。

「メゾン・オケイ」の定番メニュー「自然野菜10種のテリーヌ」。片寄氏が語る「小宇宙」がいかんなく表現されている

 

筆者は11月の第一土曜日のランチタイムに同店を訪ねたが、駅前では商店街のお祭りが開催されていた。そのにぎわいの中にメゾン・オケイの店内が溶け込んでいた。カウンターで食事をしていると周りはみな40代、50代の女性一人客でワインとテリーヌを合わせながら食事をしている。フランス料理を楽しむリテラシーが高いと感じた。客単価は5000円前後。

 

店内はしっかりと補強されていて、要所で天井を外すなどの工夫が施されていて思いのほか開放感がある。箱根や鎌倉にいるような気分に浸れる。

「3階建て古民家」の天井の要所を外して開放的な店舗空間を演出している

日暮里の物件も豪徳寺と同時期、4月に確保した。クラフトビールの生産を自社で行おうと考え、工場用の物件を探していていた。片寄氏はこう語る。

 

「これから飲食店だけでは商売は厳しいと思った。そこでワインショップを考えた。しかし、ワインはブドウの木から育てていくと10年かかる。ビールは1カ月でできる。またビールの市場はワインの10倍ある。この間、新橋からのエリア分散を考えてきたが、自分たちが得意としてきたワインからビールへと業態分散してみたいと考えるようになった。そんなことを社員と話しているうちに『じゃあ、自分たちでやってみよう』ということになった」

 

物件は元自動車工場で30坪、うち5坪でパブを営業。25坪のスペースはクラフトビール醸造所でこの1月に500ℓのタンクが6基備えられて月産4500ℓの生産が可能の設備となる。クラフトビールの醸造士は自社で育成し、今後この事業を大きく育てていこうとしている。

この施設には5000万円を投じた。

 

「クラフトビールを手掛けてみて驚いたことは、この分野には根強いファンが多いこと。オープンして1カ月もたたないうちに1日150~200人が来店するようになった。地元のお客だけでなく遠方からも来ている。インスタグラムのフォロワーは4000人に近い」(片寄氏)

 

これから急速冷凍庫を導入して、テリーヌの外販に積極的に取り組もうとしている。クラフトビールの外販も加わって「okéy」のブランディングは速く浸透していくことだろう。

 

筆者は同社の飲食店をすべて訪ねたが、これらには共通した空気が漂っていた。それは「ファミリー」という雰囲気。筆者が従業員の一人と会話をしていると、別の従業員が加わってきて話題が広がっていく。冒頭で述べたとおり、代表の片寄氏の人柄が浸透しているからであろう。

 

同社では今年さらに出店を控えているが、「当社には10年選手が多いので、これらからつくる店は彼らがやってみたいという店をやってもらおうと考えている」と片寄氏は語る。

「従業員がやりがいを感じるステージをつくるのが私の仕事」と自任する片寄氏の人柄は、従業員との信頼の結びつきを確かなものとさせている。

JR日暮里駅から徒歩約6分にある「オケイ・ブルワリー」には、オープンと同時に多くのクラフトビールファンが訪れている

店舗情報

店舗名 Atelier de Terrine maison okei
エリア 豪徳寺
URL https://www.instagram.com/atelier_de_terrine_maison_okei/

運営企業情報

企業名 株式会社okéy
URL https://www.okeionlinestore.site/

新着記事

新着動画

物件を探す

カテゴリーメニュー

メインメニュー