「やきとん」とは豚の内臓や豚肉を串に刺して炭火の焼き台で焼き上げたもの。この居酒屋に魅入られる人は多い。その理由は、フレッシュで臭みがまったくないホルモンは酒類と見事にマッチしているから。家では絶対に体験することができないメニューである。この商売をやってみたいと思う人は、やきとんに魅入られてお客が喜ぶ姿を見ることに喜びを感じるからであろう。店のスタッフがはきはきとした対応をしていると店の空間に清潔さを感じる。サクッと飲食して、また来てみたいと思う。

 

このような店の事例として「やきとんやんぐ」が挙げられる。東京・JR板橋駅西口から徒歩2分程度、住宅地の入口にあるやきとん屋さんで、休日でも近隣に住むリピーターによって盛況となっている。

ドミナント出店する板橋エリアから離れて中野の飲食店街に出店した

 

「自分がやりたい世界はこれだ」

「やきとんやんぐ」を経営するのは株式会社やんぐ(本社/東京都板橋区、代表/坂口稔朗=冒頭写真)。坂口氏は1978年3月生まれ、地元板橋区内で生まれ育つ。「やんぐ」は2018年6月に設立しているが、以前坂口氏はパティシエであった。スイーツづくりからやきとん屋さんに転身した。

 

パティシエとなったのは実家が洋菓子店を営んでいたことから。店舗展開をしていて、小さなころから自分は洋菓子店を継ぐものと思っていた。学校を卒業後、家業に入って洋菓子づくりを学んだ。30代に入り、パティシエの仕事に生きがいを感じていていたものの、ふと「このままでは自分は親を超えられない」という思いを抱くようになった。

 

仕事帰りにあるやきとんの繁盛店に立ち寄る機会があった。フレッシュなやきとんと酒類のマッチングは最高。お客は静かに、またにぎやかに飲食を楽しんでいる。この店に通うようになり「自分がやりたい世界はこれだ」と思いを固めていった。

 

そこで同店に働きたいことを申し出る。その店は3店舗を展開する会社が経営していて、同社に入社することができた。近い将来にこのような店で起業しようと意欲を新たにした。この会社には3年間在籍して、店長、マネージャー職を経験した。かねがね「独立するなら30代のうちに」と考えていて、そこで開業したのが冒頭の店である。2016年4月であった。

 

ドミナント展開によって得意分野を確立

ご縁が商売の軌道をつくってくれた。駅から至近距離で人通りのある物件を知人の不動産業者が紹介してくれた。メイン食材のホルモンは取引業者が群馬県高崎市内にある屠畜場から直送してくれている。朝方屠畜されて、あらかた掃除されたホルモンを業者が取りに行き、夕方店に届き、それを翌日店内で掃除して、串に刺して焼く。つまり、屠畜された翌日お客に食べていただく、まさに新鮮である。

 

1号店が好調なことから2年もたたず、30mほどの至近距離の物件に肉バルを出店した。しかし、それが不振なことから町中華に変えた。肉バルはトレンドの業態だが町中華は不動の業態である。そのような理由から選択した業態だが、リピーターの多くは単品をつまみに酒類を飲んで、〆に食事をするというパターンが定着するようになった。

 

3号店は都営三田線板橋区役所前駅近くにオープン。「ニューやんぐ」という店名で1号店のメニューを踏襲しながら、オリジナルな肉料理をはさんでいる。2021年の2月から、G-FACTORYのゴーストレストラン「名代 宇奈とと」に加盟してテイクアウト、デリバリーを行うようになった。こうして「やんぐ」は板橋エリアの3店舗によってドミナントを築き上げた。

 

ドミナントから外れて中野に出店

さて、これから店舗展開を行っていく上で、板橋以外で出店しようと考えるようなった。新天地を経験することで「やんぐ」の強みを生かしながら新しいことにチャレンジしたいということだ。

昔ながらの飲食店街の路地裏にあって、「ここで挑戦しよう」と意欲的に臨んだ

そこで紹介されたのは中野の物件。中野駅北口から徒歩10分程度、昭和の名残がある飲食店が密集したエリアで昭和新道という通りの路地裏にある。飲食店をホッピングする上では怪しさがあって楽しいが、新規客に入店してもらうにはなかなか難しいのではないか。そんなことを坂口氏は直感した。

「昭和」を感じさせるキャッチ

店舗規模は11坪強32席、「やんぐ」にとって得意とする規模である。難しい立地という思いがよぎるが、だんだんとそれに挑戦したいと思うようになった。そこで「やきとんやんぐ 2nd nakano」をオープン、2021年12月16日のことだ。

 

当初心配していた新規客はオープンしてにわかに増えてリピーターとなっていった。中野のこの一帯の飲食店街を楽しむ人々にとって、意欲的に取り組んでいる店に対して嗅覚が働くのかもしれない。

 

「やきとんやんぐ 2nd nakano」に対する気付きとは、まず、ノスタルジックな遊び心があること。店は路地裏にあるが、人通りのある目立つ場所に設置された妖艶ながら滑稽なイラストがキャッチーだ。「なんだろう?」と思い立ち止まる。

 

多様なジャンルで印象的なメニューを構成

商品は一般的な「やきとん」の串がすべて110円(税込、以下同)、10本盛りとなると1060円。「炭焼き」には「やんぐ」の定番である「つくねチーズ」290円、「豚ハラミステーキ おろしポン酢」430円をラインアップ。これらで「やんぐ」が得意とする肉料理が伝わってくる。

 

他に「前菜」、低温調理の「肉刺し」、「お刺身」がある。目を引くは「本日の逸品」。「濃厚牡蠣のクリームグラタン」590円、「菜の花天ぷら」430円、「チャーシューエッグタワー」850円といった、バルの定番、和食の季節感、町中華のアレンジといった多様なジャンルからメニューを構成している。

「チャーシューエッグタワー」850円は、「やきとんやんぐ 2nd nakano」のオリジナルメニューとして投入された

 

「チャーシューエッグタワー」は豚肉の肩ロースのチャーシューを400g使っている。キャベツの千切りで土台をつくり、そこにチャーシューを重ねていき目玉焼きをトッピングしている。同店ではすでに名物料理として定着して、1回に肩ロース2㎏を仕込んでいるが1日でなくなるという。

 

同店の近くには1966年開業という56年間の歴史を持つ複合施設「中野ブロードウェイ」があり、この地下に地元の専門店が集まる市場がある。調理担当者は毎日ここの野菜売り場を訪れて旬のメニューを組み立てている。スーパーマーケットの野菜売り場では旬のパンチが乏しいからという。

 

ドリンクはあらゆるものをそろえているが「変わり種サワー」が目を引く。一つは「ツンデレサワー」490円で、「ソルティライチ」というソフトドリンクと甲類焼酎を合わせたものでソルティドッグ風に口元に塩をつけて提供する。もう一つは「ブラジャー」480円で、ブランデーをジンジャーエールで割ったものだ。レモンサワーの一つ「瀬戸内産生レモンサワー」500円のレモンはノーワックス(※)。このように、それぞれのこだわりが同店の存在感を親しみやすいものにしている。

(※)編集部注:レモンには防腐剤や防カビ剤などが入ったワックスでコーティングされているものが多い。

 

毎日来店してもらう努力と気配り

筆者は1月末に同店で食事をした。その時のメニューは「濃厚牡蠣のクリームグラタン」「ブラジャー」「菜の花天ぷら」「ツンデレサワー」「チャーシューエッグタワー」「チャージ」で計2940円。そもそも「チャーシューエッグタワー」は写真を撮ろうと思い注文したもので(テイクアウトにしてもらった)、普通に飲食すると2000円前後で収まる。

てきぱきとした誠実な働きぶりが印象に残り「また来たい」と思わせる

この安価の背景には、仕込みのすべてを店内で行っていることが挙げられる。営業中でも手空き時間に仕込みをすることに余念がない。そこで「リピーターとなったお客様に毎日でも来ていただける価格設定にしている」(坂口氏)という

 

BGMでダイアナ・ロスの楽曲がかかってきたときに身震いした。筆者が青春時代に傾倒した女性シンガーだ。そして1970年代の洋楽が続いた。この選曲について坂口氏に訪ねると「営業中の客層を見ながらBGMの傾向を選んでいる」という。

 

「やきとん屋さん」とは無骨な印象を受けるが、「やきとん やんぐ2nd nakano」では、実は挑戦的なことを細やかに行っている。坂口氏は「今後は社員の開業支援を行うスタンスで店舗展開をしていく」ということだが、新しい店舗でも展開される挑戦的な試みによって、懐の深い店が増えていくことであろう。

店舗情報

店舗名 やきとんやんぐ
エリア 中野
URL https://yakiton-young.com/other/

運営企業情報

企業名 株式会社やんぐ
URL https://yakiton-young.com/

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