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  3. 「地魚の刺身」でキラーコンテンツを育て立地を克服
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飲食店は立地が重要と言われている。望ましいのは駅前ターミナル、それが路面であれば完璧と言えるだろう。

しかしながら、ここで紹介する「魚我志むさし」はそのようなセオリーが成り立たない。JR田端駅、JR西日暮里駅のどちらからも徒歩10分、相当な目的を持たない限りはこの二つの駅から同店に伺うことの理由は見当たらないのではないか、と思っていた。

 

とは言え、一度同店の魅力を体験するとこの距離感は障壁にならなくなった。店主の商売に対する創意工夫が熱く感じられて「また行きたい」と思わせる魅力を放っている。

 

高級和食店で修業を重ね、大衆鮮魚店で独立に備える

同店の店主である近藤太一氏は1975年9月生まれ、東京都北区滝野川で育った。現在の店のエリアも「地元」と言えるところで、開店するに際して土地勘は十分にあった。

「魚我志むさし」の近藤太一氏。高級和食店で修業をした後に独立を果たした

 

料理人を志したのは、漠然と子供のころから。手先が器用で、図工が得意科目であった。動物が好きで、動物園の飼育員に憧れた。高校生となり、周りの人から「人の世話をする仕事が向いている」という言葉が手伝って、調理師を目指すようになった。

 

調理師専門学校を卒業後、最初に就職したのは銀座の京懐石の店であった。ここで三年半勤めて、横浜のホテルの和食店に移る。その後、先輩や知人の伝手で都心の和食の高級店で実績を積んだ。ミシュラン掲載一つ星の和食店で副料理長を務めたこともある。近藤氏の話を聞くに及び、料理人の人脈は連綿としていることを実感した。

 

2010年に入りそろそろ独立することを意識するようになったが、それまで修業した店は客単価1万円を超える店ばかりだったことから、自分の地元で営業できる大衆的な業態を学ぼうと考え、2011年4月に「活イカセンター」に入った。同店はイカをはじめさまざまな鮮魚を提供することが特徴で、ここでお客様に喜んでいただく鮮魚の表現を体得した。

 

ここで働きながら独立開業のための物件を探した。条件は自分にとっての「地元」である。そして現在の物件が紹介された。近藤氏は初めてここを訪れた時に「理想の物件」と感じたという。駅から多少離れているが、不忍通りという大きな通りに面していること。周辺は住宅街で大きなマンションが立ち並んでいるこということが大きな魅力だった。

 

また、内装の状態が良く、居抜きで出店ができると考えた。開業資金が乏しい中で、日本政策金融公庫から600万円を借りて、それを元手に厨房設備や器を買い揃えた。エントランスを含めての物件は30坪で、客席をリニューアルすることによって42席を配した。

家賃は坪8000円、管理費込みで23万円。独立起業としては堅実なスタートと言えるだろう。こうして2012年の9月に近藤氏自身の店をオープンした。

テーブル席で構成された店内はファミリーはじめグループ客が来店する

「地魚」のおいしさと貴重さを商品化

近藤氏は、地元の住民をターゲットにして地元密着の経営を心掛けていこうと考えた。そのために、開業以来近隣住宅でのポスティングを積極的に行っている。町内会の青年部活動も参加している。ここに出店した時の初めての夏祭りの時に寄付金を寄進したことがきっかけとなり、町内会のメンバーとの交流が深まっていった。

 

店名は、市場の「魚河岸」に、「私の志でお魚をだしている」という意味を込めて「魚我志」とした。「むさし」は「東京スカイツリー」が開業した年と同じ2012年にオープンしたことから、東京スカイツリーの高さを由来にした名前の「むさし」をあてた。店がオープンして間もないころ、正月とか市場が休みの時には「むさし」にあやかって「634円均一」のセールを行ってブランディングをしていった。

 

同店の最大の特徴は「鮮魚」である。テーブルの上にはお魚図鑑のような魚の写真集が置かれているが、これは同店が扱ったことのある魚ということだが、どれもスーパーや一般の鮮魚店では販売が稀なものばかりである。なぜこのような魚に取り組んでいるのだろうか。

近藤氏はこう語る。

「活イカセンターで働いていた当時、同店では活イカの他に千葉・館山より樽で産地から直送されていて、これによって『地魚』と呼ばれる珍しい魚が多数扱われていました。16年間の料理人生を経験して初めての経験でとても感心しました。そして、刺身にするととてもおいしい。そこで、当店にくるといつもおいしい魚を食べることができるという形で発信していこうと考えました」

 

同店ではその日仕入れた魚で「8種類の盛り合わせ」を提供している。1人前800円。写真は2人前1600円である。同店では4人掛けのテーブルが多いので4人前盛り合わせを2500円としている。それは芸術的な盛り付けと、価格設定が感動的である。

盛り付けは芸術的だ。1人前800円とリーズナブル

「食べた時の感動」が口コミで広がる

魚種はさまざまである。近藤氏より稀なものから紹介してもらうと「ハチビキ」「ハガツオ」「ダツ」、さらに「コバンザメ」「マンボウ」もある。食べるとおいしいのだが、なぜ市場に流通しないのだろうか。

「このような魚は水揚げの量が少なく、漁師さんたちは売りにくいので自分たちで持って帰ってしまう。これらは『地魚』と呼ばれていますが、人知れずとてもおいしい。仕入れ値も規格品でそろえた場合と比べると安く仕入れことができるのです」

 

芸術的な盛り付けでは、どのようなことを心がけているのだろうか。

「懐石料理の店で働いていた当時、盛り付けの彩について研究しました。例えば赤身の魚は見栄えがしますが、全部赤いと見栄えがしないし、味も単調になる。そこで色彩の他に、一部を焼霜(やきじも/皮を焼いた刺身)や湯霜(ゆじも/皮に湯をかけた後すぐに氷水に落とした刺し身)、また昆布〆等によってバラエティをつくっている。

 

このような発想で「魚我志むさし」のキラーコンテンツが出来上がった。一般的に広く知られている魚よりも名前は知られていない「地魚」を活用するすると、盛り付けが見栄えして、食べておいしくてしかもリーズナブル。そして「魚我志むさし」でなければ食べることができない、ということであれば、それを食べて感動したお客様がたくさんの方々に話してくれ、口コミで広がる。近藤氏はこう語る。

「料理人として勤めていた当時は、魚の調理方法はすべて上からの指示の下で行っていました。しかし、今は全て自分の意志で行うことができます。どのようにすれば魚をもっとおいしく提供できるのか日々考えることがとても楽しい」

「地魚」という稀な魚によって「魚我志むさしのおいしい刺身」というキラーコンテンツをつくり上げた

「おさかながおいしい店」として「地元」に定着

近藤氏が仕入れに行くのは足立市場(足立区千住橋戸町)である。東京で魚を扱っているのは、豊洲、太田、そしてこの足立のみ。ここにした理由は、千駄木から通う場合に交通渋滞に巻き込まれることが少ないからだ。

 

近藤氏は規格外や少量しか捕れない珍しい魚を買うということで市場では重宝されているが、当初は少量ずつしか買わないとういうことから敬遠されることもあったという。しかしながら、現在は近藤氏のこだわりが理解されて、市場サイドで近藤氏の意向に沿った品そろえを用意してくれることもある。

 

「魚我志むさし」のお客様は、周辺の住宅街を背景にして特に土日にファミリーが多く70%がこれらのお客様となる。12人に対応できる座敷があることから、お食い初めや、七五三、結納、法事といったファミリーのイベントや、接待等も定着するようになった。今やこのエリアでは「おいしい魚を食べるならむさし」ということになっているという。

 

常連客の中には釣りを趣味にしている人もいて、本人が釣り上げた魚を持ち込んでくることもある。このようなことも歓迎しており、おいしい刺身に調理して提供することによって、地元の人からも愛着が深まっている。

 

近藤氏が心掛けていることを伺いながら、繁盛する店づくりの秘訣を考えた。それは経営者自身がプライドを持つことである。近藤氏の場合は、数々の高級和食店での修業で磨いた調理技術と「地魚」への愛着である。このことを一意専心で取り組んできたことが今日の「魚我志むさし」に育てている。

店舗情報

店舗名 魚我志むさし
エリア 千駄木
URL http:uogashi-musashi.com/

運営企業情報

URL http:uogashi-musashi.com/

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