東京・吉祥寺の『肉山』と言えば、「予約が困難な」が枕言葉となる大繁盛店だ。そこでめでたく入店できることを「肉山登山」という。同店がオープンしたのは2012年11月のこと。店が吉祥寺にあると言っても、JR吉祥寺駅から徒歩で15分以上かかる場所だ。このような「立地条件」と「予約が困難」であることの相関関係を見ていくと、ここには飲食店の商品力を超えた、経営者の人を引き付ける力が存在している。

 

個性的な肉料理コースで人気を博す

『肉山』を経営するのは株式会社個人商店(本社/東京都武蔵野市、代表取締役社長/光山英明=冒頭写真)。光山氏は1970年4月生まれ、大阪市生野区の出身。野球の名門、上宮高校で野球部の主将を務め、第60回選抜大会に出場。その後、中央大学の野球部で活躍する。卒業後は大阪で会社務めをするが、退社して東京・吉祥寺で飲食業を起こす。

 

この店が、ホルモン酒場 焼酎家 『わ』で2002年11月に旧五日市街道沿いの路面にオープン。まったくの素人の独立開業、現場で光山氏は「どのようにすればお客様に喜んでいただけるか」ということを考えながら、常に店の改善に努めた。ここで9年間現場に入り、その後1年間は意図的に現場に入らずに世の中の様子を見聞することに努めた。

 

そして再び現場に立つことを思い立つ。それが現在の『肉山』で「わ」から200mほどの距離にある2階の物件、そこで現在の料理の提供方法を行った。SNSの時代となり、光山氏はFacebookを同店のアピールに役立てた。

 

『肉山』の料理は「肉料理」である。自前で肉を焼くのではなく店の人が肉を焼いたり揚げたりして、おいしい状態でカットしたものがコース仕立てで運ばれてきて、それを取り分けていただく。肉の塊はゆっくりと丁寧に火が通されていて、食味が柔らかく肉のうま味を味わうことができる。

肉は丁寧にじっくりと時間をかけて焼き上げられ、食味は味わい深いものとなっている
コースは10品ほどで構成。肉は牛肉にこだわっていない

巧みな話術とSNSでファンが広がる

オープン当初の『肉山』は、このコースメニューに高級ウイスキーやプレミアムの焼酎などの飲み放題付きで一人1万円。この売り方で1日6人限定の営業をしていた。光山氏一人とお客6人。「お客様が心の底から満足いただけるように」と心を尽くしたメニュー内容と光山氏の話術が評判となった。

 

次第にお客から「もっと入れるようにしてほしい」という要望が高まり、客席を増やしていった。いつしか24席の店となった。そして「営業時間帯を広げてほしい」という要望から、現在は12時スタート、17時スタート、20時スタートと1日3回転、毎日70人以上が来店する店となった。現在は『肉山』の同じビルで1階にフリーで利用できる居酒屋、3階にプライベートな個室も稼働させている。ちなみに現在のコースは1本5500円(税込)。アルコールが入って客単価は7500円程度となっている。

 

『肉山』では光山氏の話術が評判を呼んだと前述したが、時代はSNSとなった。『肉山』はこの空中戦で顧客の心をつかみ取った。特にお客に響いたのはキャンセル情報。

 

「『肉山』明日二人キャンセル出ました、とアップすると、それを見た誰かさんと誰かさんが『行きます』となる。そこですかさず私が『締め切ります』という。すると誰かさんが『えー、あっさり』という。こんな具合に“秒”の感覚でお客様とやり取りした」

 

このようにお客との接点のバランスを絶妙に取り、熱烈な人気を築き上げた『肉山』は今新しい売り方とお客との接点を追求するようになった。

 

キッチンカーで『肉山』をブランディング

『肉山』の新しい試みとは、まず「キッチンカー」。これはキッチンカー配車サービスのMellowに登録して2019年9月から営業している。

 

キッチンカー『肉山』の出店場所はMellowが週5日のスケジュールを組み立ててくれる。スタート時、メインに位置づけられたポイントは東京駅前の常盤橋FOOD TRUCK STREET。オフィスビルが立ち並びランチ難民が想定される場所だ。既存店の『肉山』はお客が2時間半にわたってゆっくりと肉料理コースを楽しんでいただくための努力を重ねてきていて、弁当販売は初めて。光山氏は「高い売上を目指すのではなく、ミスなく温かい安定した商品を提供し続けることが重要だ。商品を手渡すときに一声かける気配りが重要だ」と考えた。

 

商品は『肉山』の店名から連想されるイメージを大切にした。透明なふたの下には肉が敷き詰められてご飯が見えない状態のものをつくり上げ、これを1.5人のオペレーションでスピーディーに提供できるようにした。キッチンカーが営業中に設置しているA型看板には「半年先まで予約が困難な吉祥寺肉山」とキャッチコピーが添えられているが、これを見た二人連れが「あの『肉山』がやってるんだー」と言っていたりする。ブランディングとしての効果は高いようだ。現在出店しているどのポイントでも、キッチンカー『肉山』にはいつも長い行列ができている。

キッチンカーでは「予約が困難な店」であることをアピールして、『肉山』をグランディングしている

号車で多様な売り方にチャレンジ

キッチンカー『肉山』は2021年11月より2号車の稼働が始まった。これによって、キッチンカーの出店場所が増えるとともに、新しい売り方に挑戦できるようになった。

 

「イベント」での販売にも取り組むようになった。その大きなスポットはサッカーFC東京のホームである味の素スタジアムで、FC東京の試合があるときに出店している。光山氏はFC東京の選手たちと交流があり、キッチンカー『肉山』が出店することをSNSで発信してくれている。

キッチンカーの弁当は『肉山』の店名からイメージしやすい商品に仕上げている

プロ野球では試合の5回裏が終了すると休憩時間が設けられて観戦者は飲食の買い物に向かうものだが、サッカーの場合は試合が始まると観戦者は席から立つことはない。そこでキッチンカーは試合が始まると同時に営業終了となる。味の素スタジアムでのキッチンカー『肉山』の弁当販売は、予約販売が主となり現在1回の営業で350食が売れている。

 

光山氏は“夜のキッチンカー屋台村”を運営する夢を描いている。現在、キッチンカーが席を設けて酒類を飲ませることは規制されているため、その布石として現在マンションエリアで『肉山』の肉料理と生ビールを一緒に販売している。このパターンは順次拡大することになりそうだ。

 

また、ビジネスホテルの敷地内で営業する事例もあり、宿泊客に加えて通りすがりのお客の需要もつかみ取っている。このように2号車によってキッチンカーのさまざまな可能性を体得している。

 

フォロワー数3万人超による新しいステージ

光山氏はTwitterも発信の手段として力を入れてきた。フォロワー数は現在3万人を超えている。これだけ愚直に発信力を磨いてきた飲食店経営者は珍しいのではないか。

 

さらに光山氏はこの1月からメディアプラットフォームの『note』で『肉山・光山英明の「肉note」』の連載(月3回)を始めた。この購読料は月1000円となっていて、これには光山氏が主宰する読者との月1回の交流会「肉ミーティング」へ参加する権利が付与されている。

 

連載記事のテーマは「肉山・光山英明が考える『繁盛店のつくり方』」となっていて、飲食業経営者にとって興味深い内容になっている。これまでの「『肉山』ファン」の裾野が広がりそうだ。

『肉山』が出店するビルの3階にあるプライベート個室では利用者が楽しんでいる様子がうかがわれる

飲食店の新規オープンで「『肉山』・光山英明プロデュース」の案件も増えてきている。この場合、オープンしてから「『肉山』・光山英明プロデュース」をうたっても構わないが、グルメサイトで当初それをうたっても1カ月ほどして外すパターンが多い。それでもコメント欄には「『肉山』・光山英明プロデュース」の文言が時折書き込まれている。

 

このように「予約が困難な『肉山』」はリアル店舗と同時にSNSの世界で躍動している。活躍の領域が広がっているのは光山氏が放つ人間的魅力に他ならない。

 

 

店舗情報

店舗名 『肉山』
エリア 吉祥寺
URL https://twitter.com/wa1115?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

運営企業情報

企業名 株式会社個人商店
URL https://twitter.com/wa1115?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor