「ワインバル」とは今や一般的な業態名であるが、これらが立ち上がったのは2010年ごろではなかったか。この「バル」を旧来的な言い方にすると「小さな居酒屋」となるが、「バル」という呼称にすることで、よりアップスケールした可能性を感じさせる。

 

このような店を展開している会社に株式会社シェアハピネス(代表/白根智彦)がある。同社は東京の裏銀座エリアにワインバル「ぶーみんVinum」(以下、ぶーみん)を3店舗展開。1号店は2011年2月、東京・新富町にオープンしており、以来「ワインバーを通じての街づくりに貢献する」「点である個性を、線である通りに、面である街に」「裏銀座をワインの聖地に」ということをミッションに掲げて展開している。

 

「裏銀座をワインの聖地に」という志は、このエリアで先にこれを掲げて繁盛店となっているワインバルが存在し、代表の白根智彦氏がそれに共鳴したこともきっかけとなっている。

株式会社シェアハピネス代表取締役の白根智彦氏。常に全身イエローでブランディング

 

ディナー、ランチと多様な特徴を持つ

白根氏は1965年生まれ。飲食業に就いたきっかけは大学卒業後、当時ファミリーレストランチェーンのロイヤルが新規事業として立ち上げた「ベッカーズ」(現在はジェイアール東日本フードビジネス〈JEFB〉が運営)に入社したこと。ここでハンバーガービジネスを学び、会社がJEFBとなってからはイタリアン、立ち食いそば、回転寿司など30業態を超えるエキナカ事業のメニュー開発を担当した。

 

また、白根氏のもう一つのスペシャリティに「ハンバーガー研究家」がある。ベッカーズに入社したきっかけは、「数あるハンバーガーチェーンの中でベッカーズが一番おいしかったから」と語る白根氏であるが、同社に入社して以来、ライフワークとしてハンバーガーの研究にいそしんでいる。

この分野に関して、テレビにコメンティターとして出演することや、雑誌やWebへの寄港を積極的に行い、2018年12月に『ハンバーガーの発想と組み立て』(誠文堂新光社)を吉澤清太氏(技術監修)との共著で上梓した。

 

さて、ぶーみんの特徴は、ずばりワインの品揃えと共にフードメニューのクオリティが高いことだ。

白根氏は、「レストランとバルの違いは、レストランはしっかりと食事をするところ、バルはしっかりと食事もできるし、軽く飲んで帰ることもできる、多様な利用動機に応えるところ」という。そこでぶーみんでは7000~8000円のお客様がいれば、2000円あたりのお客様もいるという。客単価では5000円となるが、これだけでは同店の多様な魅力を推し量ることが難しいことも特徴である。

 

一方、ランチタイムは「ぶた焼き」という古典的な名称のフードメニューがある。これがぶーみんのもう一つの存在感をもたらしている。

そもそも「ぶーみん」とは、これを看板メニューとして繁盛していた個人営業の店の名前で、同店の「ぶた焼き」を好んで食べていた白根氏ら創業メンバーが、先のぶーみんより許しを得て店名と商品を継承している。「ぶた焼き」は豚のロース肉1枚40gを3枚、これにライスがついて900円(他、4枚1000円、5枚1100円)で提供している。

 

既存二店舗の中間に新しい物件を獲得

ぶーみんは2013年4月東京・京橋の東京スクエアガーデン地下1階にオープン、オフィス街の中で好評を博していたが、今年2019年3月に撤退することになった。そして、白根氏は前年の11月ごろから新しい成長ステージを求めるべく物件を探した。

 

そこで見つけたのが東京・入船、地下鉄の新富町駅と八丁堀駅の中間、新大橋通沿いに面した3階建て旧喫茶店という物件(1951年12月竣工)。店の横には旧店名の「CAFÉ RICO」という大きな看板が掲げられている。これは現在、同店の記念碑のように営業を開始してもそのままにしてある。

 

再開発が進む入船の街中でオアシスのような存在感がある

同社のミッションの一つに「点である個性を、線である通りに、面である街に」というものがあるが、同店はそれを実現する存在だ。既存店の新富町と新川をつなぐラインの中間に位置し、それぞれ徒歩10分ほどの距離にある。店名は「Stand B.V」(以下、スタンド)とした。

 

白根氏はスタンドを開業するに先立ち、福岡へリサーチに赴いた。この地で感銘を受けたことは、一人客はさることながら二人連れのお客様がカンターで食事を楽しむ形態が定着していることだった。お客様はカウンターにいて、店の従業員と会話をしたり、店の中での居心地のよさを楽しむ。このような飲食店の気軽な使い勝手はこれからのトレンドになるものと考えた。

 

さらに福岡では、暖簾(のれん)のアピールが秀逸な店が多かった。そこで一つの店が時間帯ごとに営業内容を変えていることを暖簾によって表現できるのではないかと考えた。

「Stand B.V 」では、日々営業にチャレンジして進化させている

ドミナントで存在感と生産性の最大化を目指す

スタンドの周辺には下町の風情がある一方で、再開発が進み高層ビルが立ち並んでいる。そのような中で店の隣には小さな公園のような空間が造成されており、これが人工的な中に安らぎを感じさせる。

 

そこで白根氏は、スタンドのコンセプトを「ニューヨークのマジソンスクエアパークの中で異彩を放つ『SHAKE SHACK』のように、ビルの谷間にある唯一無二のロケーションで、コミュニケーションの中心地となる」というものにした。そして今、試行錯誤を繰り返しながら、そのポジションを明確なものにしようとしている。

 

まず、引き渡しから1週間後の7月8日月曜日に店を開けた。当然、店内は旧喫茶店のままであるから、店のハードは従業員が自分たちの使い勝手を考えながらDIYで日々少しずつつくり直している。

 

営業時間は、ディナーから始めて、ランチ、そしてカフェ、さらにランチにいかにカレーの持ち帰りを増加させるかという具合に、売上を積み上げる勘所をつかみ取っていこうとしている。モーニング、ランチ、カフェ、ディナー、バーの5毛作を目指すという。

 

白根氏はこう語る。

「スタンドの存在感は『スナック』です。店の中ではお客様とコミュニケーションをとることに重点を置きます。そこで、オーダーを受けてから調理に全力を傾けることをしない」

 

つまり、キラーコンテンツとなるメニューは他の二店舗から供給してもらい、スタンドでは調理作業を軽減させる。スタンドの役割はずばり「街のオアシス」ということだ。

これこそ「裏銀座ドミナント」ならでは、店の機能を相互に補完しながら、それぞれの店舗の存在感と生産性の最大化を目指している。

「Stand B.V」のコンセプトは「スナック」。カウンターを媒介にしたコミュニケーションが特徴

 

スタンドの現状の営業スペースは1階5坪9席程度であるが、これらの営業体制によって月商600万円を目指すという。

 

土曜日の「夏祭り」に電車でやってくる理由

ぶーみんが展開を進める「裏銀座」の魅力とはどのようなものか、白根氏に聞いた。

 

「当初は、ニューヨークの倉庫街のような風情がありました。ITベンチャーがこの街を活用していましたが、2013年に東京オリンピックの開催が決まってからホステル(簡易で低価格の宿泊施設)が増えるようになり、外国人のバックパッカーが増えて、昼間人口が減ったような印象を受けました。でも、実態は所得の高い人たちが住んでいて、文化のレベルが高く、この場所に縁のない若者は絶対に来ない、目的来店がほとんどです」

 

飲食店開業を判断する指標に「店前通行量」があるが、そのような観点で裏銀座を見渡すと飲食店経営には不適合と言えるだろう。

 

しかしながら、白根氏は「ここから文化を発信していく、という志が掻き立てられる」という。

 

ぶーみん三店舗の一つ新川では8月31日に「ぶーみん新川バルの夏祭り」を開催した。

椅子テーブルを外した店の中には、射的やくじ引きなど縁日おなじみのコーナーを設けていた。会費は5000円でフードとドリンクはチケット制だが実質的には飲み放題である。ここに浴衣や夏のラフな服装で30代40代の男女が多数詰めかけた。中には子供連れのお客様もいた。店内は立錐の余地がないほどの賑わいであるが、来訪者は隣り合わせで会話を楽しんでいた。

8月31日に開催した「夏祭り」に、地元・遠方さまざまな常連客が参集した。

 

白根氏によると、「今日のお客様の半分以上は、電車に乗ってやってきている」という。この日は土曜日、この貴重な休日にぶーみんの常連客は「夏祭り」をきっかけに遠方からやってくるのである。

 

これこそ、同社がミッションとする「ワインバーを通しての街づくりに貢献する」によって形成されたコミュニティに他ならない。

それに加えて、白根氏がファストフードチェーンで培った生産性の組み立て方が、裏銀座を新しい飲食ゾーンに育て上げているのだろう。

 

 

店舗情報

店舗名 Stand B.V.
エリア 入船
URL http://yes-rose.com/

運営企業情報

企業名 株式会社シェアハピネス
URL http://yes-rose.com/

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